第14話 施設
4枚の翼を広がり、風を起こす。魔力の流れを感じる。景色が流れて上昇していく。
「おぉ……ひぃ」
空の景色のすごさに思わず感嘆の声が漏れるが、下を見て後悔する。想像の3倍怖い。もうさっきまでいた木が果てしなく小さく見える。
「どう?空は」
「怖い」
「大丈夫だよ。私のそばにいればね」
空の上で普通に話せる。多分何かしらの魔法の効果かな。本来なら風の音で会話なんてできないだろうし、風の衝撃で背中に乗っていることもできない。
落ちる気配はないけれど、背中にしがみ付いて離れない。落ちたらと思うと、内臓がひゅんって言う。……なんで怖がっているのかな。あれだけ死にたかったのに。
空には私達以外にも結構魔物がいる。けれど私達より上にいる者はいない。竜の圧倒的な力を感じる。
竜。昨日も見たけれど、私が想像するよりいるのかな。竜なんて生物が本当にいるとは思っていなかった。キュニーの口ぶりだと昔はそれなりにいたようだけれど。
しかし、昨日の戦いの跡地を見る感じ、少し戦うだけで街が滅びかねない。昨日は一方的に見えたけれど、拮抗した戦いになれば、もっと余波が辺りに撒き散らされるはず。
竜のことならキュニーに聞いたほうが良いのだろうけれど、話してくれるだろうか。昨日の竜とはすぐに戦いになってしまった。話し合いの余地などなさそうな様子で。竜同士は仲が悪いのかな……
「あ、見えたよ!」
私も首を出してみようとしたのだがそれは叶わなかった。キュニーは旋回しながら降下を始めたからである。
目が回る。気持ち悪い……
「うぇ」
静止と同時に、背中からずり落ちる。お尻が少し痛い。そしてまた泥がつく。貧しい孤児のような感じに見えてそう。いや実際、家も金もないのだから間違ってないのかもしれないけれど。
「大丈夫?」
「だいじょぶぅぅ」
返事の途中で熱湯がかけられる。びしょびしょじゃないかと思ったら、すぐに乾く。無駄に長い髪も全部乾いている。ありがたいけれど、なんだか高等技術の無駄遣い感がすごい。
「えっと、どこに……?」
「たしかここら辺に……あった」
平原の中の木の一本。その幹にキュニーが何かをすると、地面が割れる。
「うわっ」
「ここが私に故郷だね。……また来れるとは思っていなかったけれど」
そこは明らかに人工的な場所だった。今は木の根が貫通し入り組んでいるけれど、昔は綺麗だったことが窺える。
ここが故郷か……やはり、竜は普通の生物ではないのかな。人工的に作られた生物というか。しかし、新たな生物を作るような技術はまだなかったと思うけれど。
「とりあえず行ってみよう」
「あ、うん」
中に入ると、地面が元に戻り地下に閉じ込められると同時に、キュニーが何かしたのか明かりがつく。
「契約杖もここで?」
「そうだよ。まだ契約者はいなかったけれどね」
それならここに何かがあるかもしれない。契約杖なんていうオーパーツみたいな技術の手がかりを探すには、こんなオーパーツがありそうな場所に……って、これはオーパーツなんじゃないの?
オーパーツは今の技術より数段上の技術を内包する物。それならこの杖だってそう。命を繋ぎ、従わせるなんて今の技術じゃできるわけがない。
オーパーツはやはり、研究者達が言うように昔の高度な文明のものなのかな。けれどそれならなんで今はないのだろう。この星を捨てたのかな。けれどそれならなぜキュニーのような竜は残っているのかな。
「この先は研究者達がいた場所だよ。私は入ったことないけれど」
何度かの曲がり道を曲がった先に、扉があった。人1人分ぐらいの小さな扉でキュニーは入れなさそう。
「研究者?」
「あぁ、ここは第9魔導最適化研究所だからね。ほら、そこに書いてるでしょ?」
「……読めない」
これが文字?見たことない形をしている。この施設が何年前のものかわからないけれど、文字すら伝わらないほどに昔の施設なのかな。
「それで、契約杖について調べるんだよね?私はついて行きたいけれど、壁を壊したら崩落しそうだし、どうしようかな」
「この先は危険なの?」
「昔は大丈夫だっただろうけれど、今はどうかわからないしね」
たしかによほど昔なら、今はどうなってるかはわからないか。地中に住むタイプの魔物が生息しているかもしれないし。
「……じゃあ危なくなったら杖で呼ぶ」
「それなら……でも少しでも危ないと思ったすぐ呼ぶんだよ。杖に魔力を込めるだけでいいからね」
やはりキュニーも自分の心臓が危ない場所いくのは不安なのかな。けれどそう心配はないと思う。見た感じ、樹木の根が入り込んでいたのは、入り口付近だけ。
つまり、外壁は幹の力をもってしても破壊できていないということ。逆に何かいたら私が何かする前に殺されるかもだけれど。
「それなら、まあ」
仕方ない。仕方ないのだから仕方ない。
ドアを潜ると、そこはもう広大な空間ではなかった。狭い通路に、所狭しと魔導機だろうか?何かが置いてある。
だけれど、基本的には一方通行で両サイドに部屋がある方式……これなら迷わなさそうかな……
「大丈夫そう?」
「うん。……多分だけれど」
後ろからキュニーが心配そうな声をあげる。……私なんかを心配してくれてるなんて。そんなことさせないためにも早く契約杖のことを調べないと。
「けれどどうしたら……」
とりあえず奥に進んでみるけれど、文字が読めないからどこが何なのか全くわからない。
周りの壁が白いからだろうか、少し眩しい。目が痛い。
手当たり次第に部屋に入ってみる。魔導計算機……複雑そうな魔導機ばかりの部屋。寝室。道具置き場。空部屋。
資料室は……いやもしあっても、文字が読めないのだからわからないかもだけれど。
「ここが最後……」
最後の部屋は1番奥の、一際大きな扉だった。
中に入ると、巨大な映像機のようなものが目を引く。それに沢山の椅子がある。……多分、司令室みたいなところだったんじゃないかな。
「……結局何もない」
いや、正確には色々ある。けれど、使い方がわからない。せめて文字が読めたら……
とりあえず、部屋をぐるぐる回ってみる。こうみると昔も人はいたんだと実感する。昔の人は、今と何か違っただろうか。これだけ技術が発展していれば、私のように失敗ばかりのクズなんて生まれないようになっていたりして……
「ここが1番豪華」
1番偉い人が座っていた椅子だろうか。せっかくなので腰をかけてみる。
1番偉い人はどんな悩みを持っていたのだろうか。悩みなんてなかったりして。それともそんなこと考える余裕がないほど仕事人間だったり。……でも、それはちょっと嫌だな。余裕がなければ誰かを意図せず傷つけてしまいそうで。
「ふ」
どの口が。意図せず傷つけて、害を振りまいてるのは私。こんな重要そうな施設の1番偉い人が有能じゃないわけない。
私なんかとは比較にならないぐらい凄い人なはず。私なんかが比べていい存在じゃないはず。そうでしょ?
「うぇーい」
机の上の突起物を支えにして、椅子を上下に揺らしながら遊ぶ。
……何をしてるんだろう。わからなくなってきた。早く杖の情報を集めないといけないのに。その努力ができない。……する気がないのか?わからない。
「vぉwんxヵ。jしx」
どこからともなく声がした。言っていることの意味は全くわからないけれど、何かを言っている。キュニーだろうか?いや全然違う声。あたりを見渡しても誰かいるようには見えない。
「うわっ」
前を見れば、巨大な映像機に何かが映し出されていた。何かの記号かな……?シンボルのようにも見えるけれど……
「えっと……」
「情報共有完了」
「ひっ」
また声が響く。今度は意味がわかる。どこから聞こえてるのかわからない。全方位から聞こえてるように感じる。音声機……?それらしきものはないように見えるけれど……
「だ、だれ?どこにいるの?」
なけなしの勇気を泣きそうになりながら振り絞り、問いかける。杖を握りしめる。手が痛くなる。
「私は人工知能。第9魔導最適化研究所にいます」
声が聞こえた。声に合わせてシンボルが点滅するのを見た。
人工知能。たしか、最近世間で話題だったやつだった気がする。人を超えるから危ないとか。そんな日は当分こないとか。色々議論されていたような……
「え、えっと。こ、こんにちは……?」
「こんにちは。第5契約者様」
「様?ま、まあいいや、えっと」
どうしたらいいのかな。人工知能ということは機械だと思っていいのかな。どうやって操作するのだろう。一度キュニーのとこに戻った方がいい?それともこの人工知能に聞いてみる?
「その、あなたは何ができるの?」
「この施設のことであれば、全て可能です。情報の検索から、灯りの消灯まで全てお任せください」
「え」
情報の検索?それなら、それならもしかして。
「じゃ、じゃあ契約杖についてって調べられる……?」
「可能です。検索しますか?」
「お願い」
検索結果だろうか。沢山の画像やデータが映し出される。これで何かがわかるかもしれない。契約杖の解除方法も……
「あ」
文字が読めないのだった。忘れていた。
いやでも、この人工知能なら。
「その、読み上げってできるのかな」
「可能です。どれを読み上げますか?」
よし!これで進む。契約杖について少しでも知るんだ。
キュニーを解放するために、私が気兼ねなく死ねるように。……けれど本当に死にたいのだろうか。わからなくなってきた。どうしたいのかわからなくなっている。
「資料、魔導最適形態研究、生命の接続について」
人工知能の読み上げが始まる。
それを期待と不安、そして暗闇の見えない心と共に聞いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます