第13話 夜に

 戦いの余波で、草木あふれる平原は氷で閉ざされていたり、燃え盛っていたりと地獄絵図になっている。それが見渡す限り続いている。これが竜同士の戦いということなのかな。

 神話上の戦いみたいで少しわくわくする。……多分、次元が違いすぎて死の危険すら感じ取れなかったからかな……


「……ごめんね。危険な目に合わせちゃって」

「え、いや、でもキュニーがいないと死んでたし、それに……」


 それになんというか、キュニーだけなら襲ってこなかったのではないのかな……私という弱点があるから、襲ってきたようなことを言っていた。


 つまり、私のせい。……でもそれを言えない。キュニーもわかっていると思う……けれど、もしかしたら、気づいてないのではないかという可能性を捨てれない。

 私のせいなら、また私の評価が下がってしまう。嫌われたくない。そんなことを性懲りもなく思ってしまう。


「ま、安心してよ!私こう見えて結構強いからさ!」

「そう、なんだ……すごいね」

「今は君の力でもあるんだよ?」


 杖。この杖のおかげということだろう。

 おばあちゃんはなんでこんな杖を私に渡したのかな。なんでそんなことをしたのかな。なんで私はおばあちゃんを責めようとしてるのかな。なんで私はこんなに……


「そろそろ夜だね。夜ご飯はなにがいいかな?」

「……私、自分がなにを食べたいかわからない」


 素直に言葉に出してみた。そして後悔する。自分のことすらもわからないなんて、なんてダメなやつなのだろうと思われる。なんでそんなことを言ったのかな。


「そっか。じゃあ、とりあえず食べやすそうなの作るよ」


 キュニーは私を責めたりはしない。それは杖のせいなのかもしれないけれど、キュニーが優しいから。優しさが眩しくて、精神が眩みそう。


「汁物でいいかな」


 とりあえず頷いておく。肉とかよりは食べれそうだし。

 それにしても料理って材料はどうするのだろう。昨日だってなぜか食器や机、寝床まであったし、元々持っていたのかな。


「え、えぇっえ?」


 料理工程を見ていると、キュニーの周りに突如、食器が現れる。魔法で出したのかな?


「ん?あ、これ?昔少しね」

「いや、え、その、どうやって……?」

「空間拡張と質量圧縮知らない?……今の時代にはないのかな?」


 空間……?そんな高度な魔法を魔法陣も魔導機も触媒もなしで……それにあれだけの物をいれる技術を私は知らない。


「材料もこの中なんだけれど、時期になくなるかもね。そうなるとどうしようか?」

「……わからない」

「ま、当分は大丈夫そうだけどね」


 食材が出てきて、空中で切れられていく。多分、そういう魔法を器用に使っているのかな。

 魔力の流れも感じれない。私が鈍いだけかもしれないけれど、技術の凄さを感じる。綺麗な動きで、踊っているようで。


 少し視点を上げ星を眺める。無数に光がを見つめる。この中の何処かには、私達と同じような生物もいたりして……


「できたよ」


 どれぐらい星を眺めていただろうか。その間に料理はできたらしい。

 食欲はないけれど、お腹は空いているので、目の前に座ってみる。ては勝手に動くのを待つ。


「……竜は食べなくていいのだっけ?」

「そうだね。自然吸収分と体内生産で魔力は追いついているから」


 改めて聞くと便利な生態だなと思う。なにも食べなくていいなんて。……多分これも、側から見ているからなのかな。当人の立場になれば嫌な部分も見えてくる。その想像力もない。他者を思いやれない。


 そんなことを考えながら料理を飲み込む。食欲のない腹にかなり無理やり。気分が悪くなってきた。気持ち悪い。吐き気がする。


「うぅ」


 嘔吐感が胃から喉へと上がってくるが、出てきたのは唾だけだった。うまく吐けたら楽なのかもだなんて、料理を作ってもらってる身でそんなことを考えてしまう。


「大丈夫!?」

「……う、うん。喉が痛いぐらいで……水……ある?」


 コップに水が注がれる。このコップも空間なんとか魔法でしまっていた物なのだろう。水はわからないけれど。


「今日はもう寝なよ」

「……まだ眠たくない」

「いいから。身体も洗ってあげるからさ」


 身体が浮き、服も下着も脱がされる。そして熱湯が全身にかかる。


「ちょ、ちょっと。結構恥ずかしい」

「誰も見てないしいいじゃない。私も全裸だしさ」


 いいわけがない。……洗ってもらっている立場で何を言っているのかな。素直におとなしくしておこう。しかし、誰も見ていないし、竜に包まれているとはいえ、平原で全裸になる日が来るなんて。

 けれど、これから生きていくならこういうことにも慣れていくのかな。キュニーのために生きていくなら。


「ほら、服も新しくしておいたよ」

「新しく?」

「デザインじゃなくて作り直したってこと。洗うより早いでしょう?」


 そういえば昨日もそんなことを言っていた気がする。新品になっているということなのかな。しかしそのレパートリーはこのワンピースしかない。

 いや、別に今のところ困ったことはないからいいのだけれど。それに、分解して再構成するなんてすごい技術だ。


「その、ありがとう」

「いいのいいの。契約竜だしさ」


 寝床に入り、ふとキュニーを見る。目をつぶっている。竜も寝るのだろうか。


 それにしても契約か。契約。契約があるからキュニーは私に優しいのかな。いや、別にそれでもいいか……私なんかに優しさを分けてくれる時点でありがたい。

 ……けど。けどほんとは無条件に優しくされたい。包まれたい。抱きしめて欲しい。


「そんなこと」


 そんなこと望んでいいわけがない。欲するばかりで、何も与えようとしない、与えられない私がなんかが。

 深い悲しみが心中にある。そんなこと考えていいわけがないと思っている私も。これからこんな矛盾したまま、自分すらわからないまま生きていくのかな。クズなまま。悩んだまま。


 やっぱり早く契約を解除しないと。けれど本当に方法がなければ生きていかなくちゃいけないのかな。キュニーのために。それでいいのかな。わからない。考えたくない。


 それにもし生きていくなら食べ物はどうするのだろう。キュニーは結構あるみたいなことを言っていたけれど、限りはあるだろうし。


 ……そういえば昨日は何も言わないみたいなことを考えていた気がする。全く実践できていない。寂しいから?話してしまう。私が話したら、相手を傷つけてしまうというのに。


 もっと義務的に事務的にできないのかな……多分無理……なんで私はこんなにも寂しがりなのかな。こんなに誰かと話すのが怖いのに。

 あぁ嫌だ。矛盾ばかりで。悩みたくない。考えたくない。

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