第6話 仲間
「寝れない」
ゾイにスパイなんじゃないかと疑われながらも、とりあえず組織に入ることができた後、部屋を与えられた。
個室で、机と棚もある。それにかなり綺麗に見える。こんな高待遇でいいのだろうか。
けど、昨日寝過ぎたからだろうか。全く寝れない。
知らない天井……明日からどうなるんだろう。今日からここに住むことになるのだろうか。実感がない。
昨日……じゃなくて一昨日か。一昨日までは、散らかった部屋で寝ていたのに、今の部屋は何もない。
私の未来は、どうなるのかな。今のところ、ヘマをして殺される未来が見える。恐ろしい。怖い。けれど、多分そうなるんじゃないかって半分ぐらい確信がある。
いや、そうなるなんて決まってるわけじゃないのはわかっているはずなんだけれど、そういう思いに囚われてる。
けれど、新しい環境になるのだし、頑張ってみよう。また放り出されたら今度こそ死んでしまう。
……死なないように頑張るって本当に嫌だなぁ。あーあ、生が確約された世界ならもっと楽だったのかな。いや多分、それはそれで嫌なことが怖いことがあるんだろう。
まず頑張るってことが私にできているのかっていう問題があるよね。私だって精一杯頑張っているつもりなのに、周りがみんな言う。頑張ってないって。やる気がないって。そんな風に言われたら、頑張らなくなるのも、やる気がなくなるのもしょうがないじゃない。
……いや、だめ。また誰かのせいにしてる。私が悪い。全部私が悪い。私は多分頑張ってない。元から頑張れてない。みんなもそう言っていたし……いや、みんなじゃない。
くそ。思考が混ざり合って、くそ。
「うぅ」
苦しすぎて泣けてくる。早く寝たい。この思考から逃れたい。明日への不安とか、誰かへの嫉妬とか、現状への不満とか、私に対する絶望とか。そんなこと考えたくもない。
けれど、こんなことはみんな折り合いをつけていることなんだろう。私がクソガキだからこんなことにいちいちうじうじと文句を言っている。本当に辞めたい。
こんなことなら死んでしまいたい。けれど死ぬのが怖くて。
氷が迫ってくる時は本当に怖かった。もう一生あんな目には会いたくない。けれど死んでしまいたいって気持ちが離れない。
「おい!起きろ!」
うるさい。ただうるさいけれど、無理に目を開ける。
「ぇっと……」
そこには黒い髪で元気そうな少年がいた。誰だろう。いや、たしか昨日、誰かを監視役につけるとか言ってたような。誰だっけ。同じ班がどうこうみたいなことを言ってたような。
「アルナさんが呼んでるぞ!」
「そぅ……ですか……すぐ行きます……」
「早くしろ!」
いうだけ言って、ドアを勢いよく閉じながら出て行った。なんというか、私とは合わなさそうな人かな。私と会う人なんているのか疑問だけれど。
それにすごい眠い。けれど呼ばれているなら行かなくちゃ。
眠い頭を無理やり起こして、部屋を出る。どっちに行けばいいのだろうと、辺りをきょろきょろすると、アルナが見えた。
「あ、ルミちゃん!こっちこっちぃ!」
「えっと、おはようございます」
「おはよぉ!じゃあ、いこっかぁ。今日はルミちゃんの仲間を紹介するからさぁ」
仲間。仲間かぁ。あまり仲間というものにいい思い出はない。私が失敗して、白い目を向けてくる奴らと言った印象が強すぎる。それぐらいならまだマシかもしれない。敵意を持たれることもある。
だからいつからか仲間というものが苦手になってしまった。
「きたか」
昨日行ったボスの部屋を通り過ぎ、少しすると、ひらけた場所に出た。そこにはゾイとさっき私を起こしてきた人がいた。
「あの子はルオっていうのぉ。ルミちゃんの監視役ねぇ。ルオくん、この子がルミちゃんよぉ」
「よろしくな!」
「……よ、よろしく、お願います」
ルオは元気いっぱいな人みたい。……この人が監視役かぁ。
もうすでに帰りたいなぁ。どこに帰るのかって話でもあるけれど。
「君たちの班は探索だ。彼が班のリーダーだ」
すると、通路の先から、高速でバク転しながら誰かが私たちの間に着地する。
「じゃーん!探索班リーダー、ウレク参上!」
「いつも通り元気いいねぇウレク」
「君も生きてるようで何よりだよアルナ!」
なんだか、元気の良い人が増えた。もしかして探索班というところはこんな人ばかりなのだろうか。今から憂鬱になる。
「それでこの子が新入りだね?」
「あぁそうだ。ユリ様によれば重要かもしれないとのことだ。敵かもしれないから警戒しておけ」
「だから大丈夫だよぉ」
「まぁわかった。じゃあ、一緒に行こうか」
ウレクは私たちが来た通路とは別の通路に向かう。
このひらけた場所を中心にして、沢山の通路があるみたい。
「わぁ」
そこは、部屋のある通路とは雰囲気が一気に変わっていた。思わず声が漏れてしまう。
「ここは、オレ達探索班がよくいる場所だよ。今までの探索で集めてきたものがあるんだ」
「すげぇものが沢山あるんだぜ!」
「そ、そうなんですか」
ウレクの説明にルオが口を挟む。2人を見ていたが、ルオとウレクは仲が良いみたい。よく考えれば、アルナとゾイもお互いを嫌っているわけではなさそうだった。
たった18人の組織。その輪に馴染めなければ、どうなるんだろう。恐ろしい。
「ここは工房場だ。外で取ってきたオーパーツを加工したりしてるな。ここでよく作業してるのは、この子」
「カトニムだ!よろしくな!」
「えっと、ルミです。その、よろしくお願いします」
カトニムは赤い髪をした快活そうな女の子だった。
今のところ、元気そうな人しかいない。大丈夫だろうか。いや、まぁなんとかなる。うん。なんとかなる。そう信じておこう。
ウレクとルオの拠点紹介は続く。
保管庫、食料プラント、演習場、武器庫。
それと行く先々の人も紹介された。
ミリニルア、コミニ。ここにカトニム、ウレク、ルオを含めたのが、探索班のメンバーらしい。
最後に食事の仕方を説明されて今日は終わった。
とりあえず、顔と名前を一致させるところから。
そう思いながら、硬いパンのような何かをかじる。ここの食事は、食料プラントで生産されたよくわからない何かしかない。
正直美味しくはないから、外に出て食べる人も多いらしい。私はまだ少し外は怖い。ここも怖いけれど。
幸いお茶はもらえるらしいので、飲み物にはこまらなさそうなのが救いかもしれない。
明日からは、私のやることを決めるらしい。
能力を測ったりするのだろうか。役立たずなことがバレてしまう。追い出されないことを祈っておこうかな。
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