第5話 重み
通路のような道を歩いていく。たまに右に曲がったり、左に曲がったりしながら。
その間、アルナは色々と話をしてくれた。
この組織の目的は、様々な敵対組織の起こす世界崩壊の阻止らしい。世界崩壊とか冗談かな?とも思ったけれど、それが本当らしい。この前の氷使いは、敵対組織の中でも1番大きな組織の人だとか。
あとは、敵対組織以外の要因の世界崩壊も止めてるそう。
……もしかして、思ったよりやばい所にきてしまったのかもしれない。世界崩壊だとか責任持てないけど大丈夫だろうか。……あぁ嫌だなぁ。そんな大層なことをなんで……
それと組織名はDというらしい。運命のDだとか。なんで運命?
Dのメンバーは現在18人。正直組織としてはすごい小さく感じる。そんなので世界崩壊だか知らないけれど止めれるのだろうか。
もし止めれるなら少数精鋭ってことだし、わたしみたいな何もできないやつがいていいのだろうか。ああもう、不安がひどい。
「ここよぉ」
そこはどう見てもただの壁だった。だけれど、アルナが手をかざすと壁消え、新たに通路が露わになる。
「すごいでしょぉ?結界魔法のすごい子がいるのぉ」
「えっ、まぁ、はい」
会話がひどい。私はコミュニケーションすらまともに取れないのか。いや、会話がまともならクズではなかったかもしれない。そうクズだから仕方ない。
「えっと、これからどうするんですか?」
「そうねぇ、まずはボスに会ってもらうわぁ。もしかしたらそこで殺されちゃうかもだけど、大丈夫よぉ」
「あ……はい。……え?」
殺される?え?
別の組織に殺されないように、このDに入ってきたのに、そんなの意味ないじゃん。……今からでも逃げ出そうか。いや、もういいや。どうにでもなーれ。
きゅううと、強くおばあちゃんのくれた小さな杖を握る。
昔から不安なとき、悲しいとき、よく握っていた。子供頃から一緒にいるからか、そうすれば少し落ち着く気がしたから。
ボスのいるという部屋には、ボスと思われる大柄男の人の他にも、比較的身長の低い私よりも一回り小さい女の子、そして、細身の男がいた。
ボスと女の子の距離はかなり近い。なんだろうか子供とかなのだろうか。でも、それにしては遠いような……
「そいつが昨日お前の言っていた希望者か」
最初に口を開いのは、細身の男だった。
なんというか、こっちを睨んでる気がする。怖いからやめて欲しい。たしかにこの組織には相応しくないかもしれないけど……
「そおぉ。入りたいって言ってくれたからまずはボスに合わせようとおもってねぇ」
「ふん。賢明な判断だな。だが、まず組織に入れようというのが賢明な判断とは思えんな。その無能に払うリソースはない」
ひぃ。ご、ごめんじゃん。無能でごめん。
隠れたい。逃げたい。
「まあ落ち着けよゾイ。もう連れてきてしまったんだからな。で、ユリどうかな?」
ボスが口を開く。細身の男はゾイというらしい。であの女の子はユリと。
「……難しいわ。彼女の価値は限りなく低いと言っても差し支え無さそう」
「えっと?」
どゆこと?あのユリって人は何かが見えてるのかな?そんな、よくわからない基準で価値が低いとか言われると結構ショックなんだけれど。いやまあ、分かっていたことだけどさ……
「けれど、重要だわ。必要かはわからない」
さっきから何がわかるの?全く理解できない。
天才特有の何かなんだろうか。
ボスはそれを聞いて、少し考え込むのような表情になった。本当に殺されたらどうしよう。
「じゃあ敵のスパイかもしれない」
「そんなわけないわぁ。昨日は殺されそうだったものぉ」
私の後ろでは、アルナとゾイと呼ばれた人が口論を始めていた。
私的な意見を言わせてもらえるならアルナさんに勝って欲しい。ゾイは、私にいい感想を抱いていないようだし。
「よし。わかった」
ボスが話し始める。それと同時に後ろの口論がやむ。
やっぱりボスは結構尊敬されてるのだろうか。直前まで口論してた2人が、真面目な表情で耳を傾けている。
「とりあえず任務に出してみよう。重要というのなら手放すのは、危ないかもしれない」
「ありがとぉ!よかったねルミちゃん!」
「え、はい」
とりあえず殺されはなさそう。しかしゾイの目が怖い。
なんというかすごい不満そう。寝てたら殺されたりしないよね?
「だけれども、敵である場合も危ないと思う。だから監視役をつけておけばいいと思うんだ。誰がいいだろう?」
敵ではないんですけれど。そういうの言った方がいいのだろうか。けれどなんだか声が出ない。
うぅ。恐怖だろうか。不安だろうか。心が縮こまっている。杖を握ることしかできない。
「では俺が」
「いや、ゾイは本部防衛の要だ。ここにいるときならともかく、任務のところについていくのは避けたい」
「じゃあ、ルオくんとかどうかなぁ?同年代だし、多分同じ班になると思うから適当だと思うんだけどぉ」
「たしかに。それならいいかもしれない。ではとりあえずそうしよう」
どんどん知らない話で、私のことが決まっていく。
怖いし、不安だし、焦るけれど、少し楽。
私が決めなくていい。私が責任を負ってるわけじゃない。さっき組織に入ることを自分で決めた時よりは断然楽な気分になってしまう。
というかユリは何も話さないのね。ぼーっとしてるのかな。
そんなことを考えて、ユリを見ていたら、ユリと目があった。つい目を逸らしてしまう。
人の目が見れない私の悪癖。誰かの視線が怖くて。
あからさまに失礼すぎる。恐る恐る目線を戻す。
ユリは少し驚いた表情になった後に、ニコっと笑った。その顔が可愛くて、私の顔が赤くなっているのを感じる。
視線を下げる。限界だった。眩しすぎて。
ユリの笑顔は、私には眩しすぎた。どんどん良くない気持ちが湧いてきてしまう私とは対極にいそうな人だと思った。そして、彼女は良い人だろうとも思った。助けられるなら助けた方がいいだろうとも。
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