第4話 組織
「うぅ」
喉が痛い……どこ、ここ……
うー……喉痛い……お茶欲しい。
「やっ!起きたようだね!」
「うわぁっ!」
……だんだん思い出してきた。たしか昨日はアルナにホテルに泊めてもらって、うん?でも寝転んだ記憶はないけれど……
「いやぁ、大変だったよぉ。私が風呂から上がったら、ルミちゃん座り込んで寝てるんだもん」
「その、すいません……」
やってしまった。想像より疲れてたみたいだけれど、まさか座ったまま寝てしまうとは。いくらなんでも。
消えてしまいたい。命の恩人の前でそんな醜態。
……けれど、これでアルナが、私に何かしようって可能性は限りなく低くなった。流石に寝ている相手に何もしないなら大丈夫……だと思うのだけれど。
「別にいいんだよぉ。そりゃあ、あんなことがあれば疲れるだろうしねぇ。あ、そうだお風呂入るぅ?」
「えっと、じゃあ……」
「タオルは中にあるからさぁ。着替えは後で持っていくよぉ」
「あ、ありがとうございます」
なんというか逆に怖い。何かあるような気がして。
……人の善意をそのまま信じれないのって嫌になる。
「はぁ〜」
久しぶりにお風呂に入った気がする。実際は大体1日ぶりぐらいなんだけれど。……この大きさのお風呂付きのホテルって高いのかな……多分高いんだろうなぁ。家のお風呂より全然でかいし。
……もう家じゃない。多分もう自分からあの家に帰ることはないと思う。これからどうするかなんて決めていないけれど、一度出てからあの場所に戻るのは私には難しい。そんなことしたくない。
「着替え置いとくよぉ」
「ありがとうございます」
「それとなんだけれどさぁ」
「はい」
「ルミちゃん、私たちの組織に入る気ないぃ?」
……え?
「まぁ考えといてよぉ。上がったら詳細も話すからさぁ」
……ええ!?
どゆことどゆことどゆことぼこぼこぼこ。
とりあえず落ち着こう。うん。
まず、組織って何?って多分昨日のことと関係あるんだろうけれど。ということは、それに入るってことはあんな危険な目に遭う可能性があるってこと?
いや、私は別に組織に入ってるわけじゃないけれど殺されそうだった。これから何かしら当てがあるわけじゃないし、また同じ場面に遭遇したら今度こそ死んでしまう気がする。
そうなると、組織に入ったほうが安全と言えばそうなのかな。これからどうしたいってのもないし……
いやいやいや、明らかに戦闘組織なのに何もできない私が入ってどうするっていうんだってね。……でもアルナはそんなことわかっているはずだけれど。
まあ詳細聞くまでは決めれないといえばそうか。うん。
「私達の組織は、うーん、そうねぇ。戦ったりする組織ねぇ」
お風呂から上がった私にアルナはそう言った。
アルナが貸してくれた服は私には結構ぶかぶかだけれど、楽な服装だから不快感は少ない。
でも戦闘を目的としてた。組織なら私が入ってどうするんだろう。
「えっと、もしかして私に隠された力がある……みたいな感じだったり?」
「いやぁ、そういうわけじゃないと思うんだけどねぇ」
ないのか。そういうのだと思ったんだけれど……少しショック。まあでもそんなものか。私なんかにそんなのがあるわけがない。
「えっと、じゃあ何故……なんですか。その、行く宛のない私にはありがたいと言えば、えっと、ありがたい話だと思うんですけれど……なんていうか、戦う力?みたいなのは多分私ないですよ?」
「えっとねぇ、私説明って苦手なのよねぇ……そうねぇ、私たちの組織って人手が足らないのよねぇ。だから少しでも欲しいのよぉ」
「はぁ」
つまり、どゆこと?捨て駒?みたいな?
逆にそういうことの方が、私の責任で死ぬわけじゃないしいいのかもしれない。私の行動に責任を持ちたくない。
「別に戦うだけが構成員の役目じゃないわぁ。戦わない人の方が多いくらいよぉ。役目は後々与えられると思うから、今は気にして欲しくないのぉ」
「えっと、じゃあ、その入ったらどうなるのか……とか?」
「まずルミちゃんの状況から話そうかなぁ」
わたし?たわし?
わたしの状況は衣食住の食と住がないみたいな状況だけれど。衣だって今は借り物だし。お金もないし。能力もないし。
……考えれば考えるほど詰んでる気がしてきた。
「ルミちゃん、氷漬けの死体を見たでしょう?それを見たっていうのが問題なのぉ」
「えっと、というのは……?」
「見たのに生き残ったということは、もうあいつらにとっては私達側とはいかないまでも殺害対象ということになるのぉ。だからルミちゃん危ないよぉ」
「ええっと、そのあいつら?氷の人ならその、なんというか」
殺したのではないの?
もう1人のジャムとか言われてた人のことだろうか。
というか見ただけで、敵判定はおかしい……おかしいよね?
「彼らも、私達とは別の組織に属しているのぉ。名前は、えっとなんだったかしらぁ。そういうの忘れちゃうのよねぇ」
組織ね。組織。なるほど。
ってつまり、あれぐらいの人がゴロゴロいるってこと?しかもチームになって?怖すぎる。
私なんかがよくこれまで18年も生きてこれたね。
「それにねぇ。ルミちゃん、帰る場所がないって言ってたじゃないぃ?だから私が帰る場所作ってあげたくてねぇ。私も昔同じような状態だったからぁ」
「えっと、その」
正直すごいありがたい。聞いてる感じ、アルナの組織に入れば衣食住は確保されるだろう。今抱えてる問題は全部解決すると言っても過言ではない。
けれど、新たな問題が出てくる。別の組織?かなんだかというなれば戦ってる状態の組織に入るんだから、殺される可能性は上がるだろうし、危険な目にも合う可能性が高そう。
どうしたらいいんだろう。わからなさすぎる。
あぁ嫌だ。こういう時に決断するのが嫌だ。決断できない。
決断して、私の責任になるのが嫌なんだと思う。ほんと、ほんとに、クズすぎて。
あぁもう。
「えっと、衣食住は確保されるんですよね?」
「そりゃあもちろん」
「じゃあ、その、うーん、えっと、入……った方がいいんですよね?」
「それはルミちゃんが決めることよぉ」
だめになってる。決断できない。私じゃ決められない。私のことなのに、私が決めるのが怖い。
アルナのいうとおり私が決めること。多分それは正しいのだろうけれど、それが難しい。
いや、もとよりこうなれば選択肢は一つしかない。分かってはいるのだけれど、責任を負いたくなくて、誰かのせいにしたくて。決められない。
なんで。なんでこんなクズになってしまったんだろう。
「えっと、あー、じゃあ、その入り……ま……ぁすぅ……」
あぁ、言ってしまった。もう戻せない。もう戻れない。
「いいのぉ!?ありがとうぅ!えっとねぇ、じゃあ早速、一緒に行って欲しいところがあるんだけれどぉ」
アルナが私の手を握る。
「えっ、まさか」
視界が回転し、反転し、逆転する。
視界が安定した時、吐きそうになったのはいうまでもない。
このよくわからない高速移動術を使うときは、一言言って欲しい。
場所は建物中かわからないけれど、周りををコンクリートに囲まれた場所になっていた。通路のようにみえる。
明らかに監禁とかに向いてそう。もし……もしここで捕まったら助からないだろうけれど大丈夫かな。
「ルミちゃん、こっちだよ」
不安。恐怖。そんなものが今更浮かんでくる。
大丈夫。それならホテルでもう何かされてる。大丈夫。
そう言い聞かせながら、私はアルナの後をを追って行った。
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