第2話 死が
トイレ探しの旅とも思ったけれど、トイレなんてどこにあるんだろう。この近くには小さな公園しかないし、公共施設は今は閉まってる。
寝床があるって、よく考えなくてもいいことだよ。うん。そう考えれば両親には感謝しかない。こんなクズでも今まで食事も出してくれたし、寝床用意してくれた。感謝……するべきなんだろうけれど。
多分感謝なんてしてない。どうしてこんなところで、放り出したんだよって唸ってる。クズすぎて。現状を変える努力をせず文句ばかり言っている。
「はぁ」
けれど、これからどうしようかな。ただ単に楽観してるけど、よく考えたら結構やばいよね。お金もない。食料もない。住処もない。ついでに才能もない。特技もないし、気力もない。
「ほーん」
無理な気がしてきた。あぁ、私はもうこのまま野垂れ死んでしまうんだー。あぁ神よ、お助けください。いやまぁこんなクズは助けなくていいけれど。
そう。私のような存在するだけで害なクズやろうは死んだほうがいい。そうなんだろうけれど、死ぬのは正直怖い。それに死なんて現実感がなさ過ぎて、多分真剣に考えれてない。
「いっそ外に行ってみようか」
外。外かぁ。街の外には現在の魔導学でも完全には対処できないような強力な魔物がいるらしいけど、本当なのかな。
外に行く仕事は儲かるらしいし、多分本当なんだろうけれど。
でもへんな石ころとか持って帰ってきてるイメージなんだけれど、そんなに大変なのかな。大変なんだろうなぁ……私にはできないぐらい。
「はぁ」
何か起きないかなー。いきなり強力な魔法とか使えるようになってないかな。そうすれば私だって……いや、無理だろうね。
強力な魔法が使えるようになっても、何かをする能力がない私には、何もできないだろうね。
「うぅーん。うーん」
無意味に魔力を込めてみる。軽く手のひらが熱を持つだけで終わるけれど。
あったかい……でもその程度なんだよね。全力でやったって熱いとはならない。もっと凄い人なら火の玉とか出るんだよね……一体何が違うのか。
「あー!あー!あー!あー!あー!」
ぐるぐる踊りながら意味もなく叫ぶ。踊るというか回ってるだけだけど。深夜に。明らかに不審者。けど誰にも見られてないだろうし。
……確認する?まぁいいか。
というか私みたいなクソガキが深夜一人でいる時点で、見つかったら詰みそうだし。捕まえられて、身代金が手に入らなくて、用済みになって、腹いせに殺されるとか……
その時、視界の端に何か写った気がした。発光していた気がする。一瞬だったけれど。けれど、私は似たような現象を見たことある。あれは。
「魔法」
いや待て待て。結構距離がありそうだけど、見えるぐらい強力な魔法?そんな魔法使えるってよっぽどだよ?そんな凄い人がたまたま近くにいるわけ……
また発光する。今度ははっきりと見えた。発光だけじゃなく、火が見えた。
………………どうしよう。
近づいてみる?
いやでも、危なそうだけど。
おもしろそうと言えばそうだし、うーん。
「はは」
また決断できない。決断力ないなぁ。失敗が怖くて、後悔が怖くて、決められないよ。何も動けない。
「まぁいっか!」
どうせこのままじゃ生きていけないし、死ぬ前にすごい魔法ぐらい見てみたい。レッツゴー!
こうやって一度不安の思考を止めて歩き出せば少し楽になる。また不安が再燃するまでに行動を終了させないと後悔がプラスされるから怖いけれど。
確かここら辺だと思うんだけど……え?
え?ここってこんなところだっけ?いや、ここは来たことないけれど。え?いや、道が凍ってるんだけど……
冬だから?いやでも雪も降ってないし、というかここだけピンポイントで凍る?流石に人為的なものかな。
人為的?そうなるとこの10mぐらいの凍った道を生み出したのは魔法ってことになる……けど、そんなの軍事用の魔導機ぐらい使わないと……
うん?何かでかい氷がある。うーん?
「え」
それは人に見えた。見間違いかもしれない。けれどそう見えた。
私の目には、もうそこはただの凍った道じゃなかった。殺人が行われた場所に見えた。
「どう……すれば」
「あれれー?」
ひゅん。そう心から鳴った気がした。
その男はいつの間にか私の後ろに立っていた。
思考が止まる。何も考えれない。怖い。恐ろしい。
「あはは、とりあえず動かないでねー?何かしたら、凍らせちゃうから」
「ぁ……ぃ」
声が出ない。必死にうなづく。見逃して欲しい。
同時になんだが、現実感がない。ここで死ぬのかなとも思うけれど、別に現実感がないから怖くないような。いや、めっちゃ怖いけれど。
「ふんふん。敵意はなさそうだけれど、どうすればいいのかな。確か秘密裏にどうこうとか言ってたけれど、見つかった場合はどうするんだろう。というかジャムのやつは何やってるんだよ」
よくわからないことをペラペラ話している。独り言だろうか。それともワンチャン私に……?ない。ないと思う。
けれど、この後、話しかけてるだろうが!?、ってキレられて殺されたらどうしよう。怖い。答えてもうるさいって言われて殺されそうだし、一緒。一緒だから。
「わかんないし殺しとくか。うん。それが後腐れもないしいいでしょ。うんうん」
そんなことが聞こえた。脳が理解するまで一瞬のような、無限のような時間がかかる。
後ろで魔導機に魔力を込めているのを感じる。錯覚かもしれない。
え……?え、死ぬの?
なんだかんだで死ぬのはないだろうって思ってた。それはただ先を考えない私の思考が、そうさせていたのか。それともあまり現実感がなかったからかな。
でも死。死か……
ありがたいかもしれない。これから必死に仕事を探して、誰もがやらないような危険な仕事をやって苦しんで死ぬよりは、今死んだほうが楽かもしれない。
それに私は悪くない。ただ不幸だっただけ。私のせいで死ぬんじゃない。それなら許される。
でも、でもさ。
「うわあああああ!!」
怖いものは怖い。死ぬのが怖い。それだけが私の頭にあった。
腕を振りまわしながら、走り出す。
ただ怖い。怖いだけ。死ぬのが怖いから今生きようとしてる。ただ必死になってる。
「あーもう。面倒だから動かないでよ」
後ろで光っているのを感じる。魔力の変換光だろうか。死の光に感じる。
直線のままだと殺されそうだから、路地を曲がる。
さらに走る。一歩でも離れたくて走る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
けれど、肉体は疲れ始める。この数十メートルだけで、ろくに運動をしてない私の身体は重くて、足が思うように動かない。
「面倒だって言ってるじゃん」
後ろから声が聞こえた。すぐ背後から。
私にとっては全力疾走でも、そこまで早くはなかっただろうし、ただ追いかけてきただけなんだろう。
青い光が出ている魔導機が私に向けられている。
眩しい。もしかしたら躱せるかも。もしかしたら、私の力が覚醒して止められるかも。えっと、たしか氷の魔法をレジストするには熱だっけ。
ふふ。無理。あーあ。
「じゃあね」
冷気が放出され迫ってくるのを感じる。
氷が地面を伝う。
一応、熱を生み出して、かざしてみる。なんの効果もない。
死。ただそこには死があった。
思わず目を閉じる。
……うん?死んだ?うん?
いつまでも凍った感覚がない。いや凍ったら感覚なんてないだろうけれど、あまり変わってない気がする。
恐る恐る目を開ける。
目の前には長身の女がいた。
その人の前で氷が止まっていた。
つまり?つまりどゆこと?
「無害な少女を殺そうとするなんて血気盛んだねぇ。そういうのは良くないねぇ。お姉さん、ゆるさいぞぉ〜?」
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