役立たずの欠落少女だって

のゆみ

第1話 意思

 夜、1人薄暗い道を1人歩く。結構寒い。寒いし、お腹も減った。けれど、私がこれから帰る家はない。……そう無くなってしまった。


「はぁ」


 溜息と同時に白い息が出る。それをぼんやりと眺めながら、どうしてこうなったのかと思わずにはいられない。


 簡単に言えば、私がクズだっただけの話ということはわかっているのに、クズだからそれを認められない。


「はぁ……」


 私だって、私なりに頑張っていたつもりだったのだけれどね。けれど、私の両親はそう思わなかったってことなのかな。泣きたいね。

 そりゃ、たしかに私は努力してなかったかもしれない。魔力量が高い訳じゃないし、魔力学もいまいちだったし、交友関係が広い訳でもなかったけれどさ。


 努力をしようと努力してたつもりだった。私だって……私だってさ……


「いや、これも」


 これも言い訳なのかな。そう私は言い訳ばっかりのクズだから。そんなのだから、家を追い出されて、冬の夜の道を歩いてる。


「ぽーん。ぽーん」


 道端に落ちている石を無心で蹴る。なんの意味もなく。

 思えば今まで意味のある行動なんてしたことがなかったというか、できたことがなかった。しようとも思ってなかったのかも。


「あー」


 どうしてこうなったんだろう。これからどうしよう。

 今から家に帰ったら許されたりしないかな。可能性はある。あるかなぁ。あの時の両親の剣幕が恐ろしすぎて、帰りたくない気もするけれど。


「はぁ」


 あんなに怒らなくてもいいんじゃん。ただ試験に落ちただけじゃない。どうして、あんなに……


「ぅう」


 首を勢いよく振って頭を揺らす。

 また人を責めている。だめ。あれも私のために様々なお金を出してくれて、それに対する結果を出さなかったんだから仕方ない。私の能力が低いのが悪いんだ。私のせい。そう、私のせいね。


 けど、どうしよう。突然放り出されたから、持ち物がない。お金もない。食料もない。本もないし。服しかない。これもう身売りするしかないじゃん。


「ふふ」


 ないない。流石に。第一、あれだって立派な職業。私なんかができるわけがない。

 ……けどじゃあ何ができるの?何もできない私は何ができるの?あ、服以外にも杖があるか。


 この杖は、確か私が7歳の時におばあちゃんがくれた。当時の子供の私ですら小さく感じる杖だったけれど、何故だかずっとネックレスにして身につけてる。


「でもなぁ」


 どう見てもお金になるものではない。手のひらサイズの杖なんて、子供用のおもちゃの杖でしか見たことないし、多分安いと思う。

 市販されている杖は、大きなものほど高い。大きいほうが魔法も性能も上がるんだろうなぁ。多分私が持っても使えないんだろうけど。


「ひゅー……ひゅー……」


 無駄に杖に魔力を込めて、魔球を生み出す。目の前でぐるぐる操作して、円を描く。なんの意味もなく。


 ……もし、私に隠された魔法の才能とかがあれば、こういうとき悩まなくていいのかな。魔法……魔法ねぇ……

 魔法も幼い頃から教えられた。周りより一足先に学び始めた気がする。それが両親の教育方針だったから。

 けど、私が結果的にうまくいくことはなかった。最初は、周りよりリードしていたけれど、いつからか、私は周りを追いかけていた。


 驕っていたのかな。努力をさぼっていたつもりはないけれど、私は昔からしんどいことが嫌いだった。しんどくならないようにしていたのは認める。うん。しんどくなってまでやりたくなった。


 それに周りに置いて行かれても、特に追いつこうとしてなかった。それもそう。別に自分のペースでいいと思ってた。いつか、いつかできるようになればいいって思ってた。


 けれど、否応にも時間は過ぎて、選別の時はきた。きてしまった。


「はぁ」


 ここまではなんとかやってきたのになぁ。なんとか第二次試験は受かったし、学校でもそれなりにやれてたと思ってた。

 けど、第三次試験は、今日結果が発表された第三次試験は、だめだった。ついに限界がきたんだなって思った。だから別に私は悔しくはない。ただ悲しかった。


 けれど両親は違ったようで、怒りに囚われていた。

 何のためにここまでお金を出したんだ、とか、必死に努力したの?、とか、これからどうするの、とか、誰のおかげでここまで、とかなんとか。

 なんだか、今までもよく聞いてきた話だし、今回もあんまり真剣に聞いてなかった。今までも、学期試験とかでも怒られてたし。


 でも多分、今までと違うのはそれが、取り返しのつきにくいことだったことだろうか。ともかく私はいつも通りだったけれど、両親は違ったんだと思う。

 怒られてると、すごく悲しい。私だって……って気持ちが加速する。けど何も言えなくなる。


「あー」


 手をぐるぐるして変な踊りをする。何かせずに入られない。

 あの時、別の返答していれば何変わってたのかもしれないけれど。私は、これからのことなんて何も考えてなかったし、これからどうするかなんて少しも考えてなかった。


 先を見ると、私だけ置いて行かれてクズになってる未来が見えるから。先を見れなかった。だから、先のことなんて考えれなかった。


 けど多分それが今なんだろう。今の状況で何もできないクズの末路。どうもできない。


「とりあえず」


 とりあえず移動……いや疲れたし寝よう。どこで?そこらへんのベンチでいいでしょ。

 夜中のベンチで1人で寝てる18歳の女か。エロ漫画にありそう。


「ふっ」


 ないない。

 ……一応トイレ探そうかな?くさそうだけど、鍵あるしマシでしょ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る