第24話 百合の鏡よ鏡

 朝食をいただいて部屋でひと休みです。

 私の部屋には大きな鏡があり、私は鏡の前で座っている。

 夏用の服は半袖は良いとして、胸や背中が開き過ぎてハズい。

 洋服のリフォームを要求したい。


 最近、鏡を見て気になる事がある。

 私の顔が少し変化したみたい……


「鏡よ鏡、世界でイチバン美しい女性はだ〜れはい! 私です」


 やはりです。

 やはり、唇が腫れている。

 皆んなの濃厚な接吻のせいで、唇がタラコになって来てる。


 なんとかせねば! 接吻、拒否らねば!

 あんな万年発情期な連中、私にかかればちょちょいのちょいです。

 簡単にあしらう事が出来るでしょう。


 とにかく、唇を奪われることは防がなくてはならない。

 このままではタラコ星人になってしまいかねない。

 ワレワレハ、タラコセイジンダ、ワッハハハ。

 ほらね。


 最近、私の事を姉妹の皆さんはちょろいと感じている気配をひしひし感じる。

 そもそも私はちょろくないですから!

 そんなに私はそんなに安い女ではないですし……

 そろそろ本気の私を見せる時間です。

 それでは変態姉妹たちを華麗にあしらう私を存分に披露しましょう。


 私の唇は誰にもあーげない! ふふふ……




   ***




「よしゃぁ!」


 私は気合いを入れてドアを開けて部屋を出た。


 “バン!”

「アラ、ユリ! 今日も陽気ね」

「ぎょえっぴ!」


 いきなり強敵、マアガレットに遭遇した。

 

「ど、ど、ど、どういたしましたか……」


 いきなりの強敵で、私の気合いはどぎまぎに変わった。

 マアガレットは顔を近付け、それから笑みを浮かべた。


「……今日はいつもと違うわね。

 フフッ、なんだか乗り気ね」


「な、な、なにをおっしゃるお姉様。

 で、では、さよおならぁ」


 早目におさらばしないと危険だ!

 私はすぐ、うしろに振り向いて忍び足の一歩を歩もうとした。


「ユリ待って!」

「ひっ!」


 マアガレットは私の肩をつかんで自分に振り向かせて、壁に押し付けた。


 “ドン!”


「やはり、今日はいつもと違うわ。

 その唇……」


「い、いへぃ! そ、そのさん……はずわぁ……」


 壁ドン怖い! 私は目をつぶって縮こまった。

 マアガレットはそんな私の唇に手を当てて唇を撫でた……


 壁ドンよりもマアガレットの方が怖い!

 だめ、逃げ出さないと……

 危険なのは分かっているが、まるでベビに睨まれたカエルのように動けない。


 私は薄目を開けて様子を見た。

 マアガレットの唇が近付いて来る……だめぇ……拒絶しないと……唇を横にずらさなきゃ……でも……彼女の甘い唇が……

 なぜか私は再び目を閉じて唇を突き出してしまった。


 “ブチュー”


 結局いつものようにマアガレットに私の大切な唇を奪われてしまった。

 二人の唇はひとつに重なり、口の中は絡み合い、ドえらい状態だ。

 私はされるがママ……抵抗することさえ諦めるくらいの激しさで求めてくる……

 だめだめ! 私のレベルが下がっちゃう!

 マアガレットの口の吸引力は掃除機以上で、私の人としてのなにかまで吸い取ってしまう。


「ユリのすべてはワタシのモノよ!」


「ぷぷぁ、お姉様! ぷぷぁ、お姉様!」


「ユリ、もっと心と身体を開いてぇ!」


(も、もう、なにがなんだか分からないぃ……わ、私の心と身体が解放しちゃうぅぅ!)


「いい! フ、フリーダムうぅぅん!」


 ……私はいつの間にか廊下で倒れていた。

 夏服は乱れ、胸ははだけ、下着は片足首に引っ掛かった状態で放置されていた。


 お姉様ったら……食べ終わったら散らかしたママ……もう片付けない所が男勝りなんだから……

 私はよろけながら下着を履こうとした。


「ユリお嬢様! 大丈夫ですか?」


 声のする方を見るとカレンダが心配そうに私を見ていた。


「お嬢様、お手伝いします」


 いつものカレンダの行動に不信を持つ私は警戒したが、彼女はてきぱきとこなしてくれた。


「クスクス、ユリお嬢様ったら、いつもだらしないんですから、クスクス」


 カレンダはにこやかだ。

 今日はかなり砕けた表情で私に対応した。

 

「こんなに濡れて……」


 カレンダは私の身体をタオルで拭き拭きしてくれる。

 警戒しなくてはならないのに、つい歳上のお姉さんに甘える私……


「クス……マアガレットお嬢様とユリお嬢様の混ざり合った体液ですね……」


 は、恥ずかしい……そんなこと、思っていても言わないで!


 私の夏服を整え終えたカレンダは私の髪を直し始めた。

 ああ、髪を触られるって気持ちいい……かも。

 ああ、今度は顔を撫でられている……顎をこちょこちょと……きゃぴ、くすぐったい。


「ユリお嬢様! お口の中にお目汚しが!」


 えっ! それって見るに耐えないくらい汚いってこと。

 そんな〜!


 カレンダは私の顎を引き寄せて、私の唇を拝むように自分の顔を……唇を近付けた。


 “ヂュュュュ!”


 抵抗する間も与えない一連の動きは無駄がなく、私はまた唇を奪われてしまった。

 私の口の中でカレンダの舌が激しく動き回る。

 私の整えた夏服も、また乱れていく……


「ファァ! ユリお嬢様ぁ!」


 一旦、唇を離してくれたが、また唇を合わした。

 彼女の舌が私の歯一本一本を丁寧に時には激しく舐め回している。

 唇を合わせながら夏服を脱がされ、下着も脱がされる……


「んんん、ん、んんにゅ……ぷわぁぁ……」


 私は立っている事が出来なくなり“ぺたん”と廊下にお尻を着いて休憩しようとした。

 しかしカレンダは私の唇を離さず、自分の舌を私の口の隅々まで繰り出して休憩させてくれない。


「ごしごしごぉぉ……」


 気が付くと私はまた廊下に横たわっていた。

 夏服はきちんと整えられ、髪型も今までになく盛りに盛った髪型に変えられていた。


「どっこいしょ……」


 よろよろしながらも立ち上がった私は、口の中の違和感を感じ取った。

 口の中の隅々まで舐め尽くされ、もう磨かなくても良いくらいツルンツルンでピッカピカの歯になっていた。


 ラッキー……じゃない!

 今日は厄日だ。

 そのまま部屋に入ってベットで休もう。


 私は自分の部屋のドアを開けようとしたが、誰かの視線を感じて手を止めた。

 視線を感じた方向を向くと、なんとエルサが廊下の壁と一体化しながら私を覗いているではありませんか。


「うぃやぁぁぁ‼︎

 エル、エル、サ〜」


 私は悲鳴を上げた。


「ユリお姉様……ワタシ見てました……」


「ひょえ~!」


 怖い、エルサが怖い……

 私は腰が抜けて、またお尻を着いてしまった。

 何枚だ〜何枚だ……


「マアガレットお嬢様やカレンダばっかりと愛し合って……ワタシは見ているだけ……」


 エルサは両手を胸の前で固く握り締めて、今にも泣きそうな瞳で私に近付いて来る。


 い、いったい、どういう状態なのエルサは?

 私は意味が分からず逃げ出そうとしたが、大切な妹キャラのエルサから逃げるのは、なにか大切なモノをひとつ失うような気がした。


「エ、エ、エル~~サ……ちゃん。

 ど、ど、どうしたのかな?」


「……欲しい」


「はい?」


 か細くてよく聞こえない。

 私は耳に手を当てて“なんですか?”ポーズで聞き返そうとしたが、とても失礼に感じたので行わない事に決めた。


 エルサは覚悟を決めたかのように私を見つめながら声を出した。


「ユリお姉様の方から……キスして欲しい……です……」

 

「え、え、え~~!」


 なにを言っているの?

 私からエルサの唇に、キ、キ……

 今の今まで自分から先に手を出した事はなかった。

 完全受け身でされるがママの私。

 それをエルサは私からされるのを願っている。


 エルサは顔を少し上げて唇を少しだけ尖らせた。

 足も少し、つま先立ちにしている。

 私の方が僅かに背が高いので、このシチュエーションになる。


「ユリお姉様に……して欲しい……」


 潤んだ瞳で懇願するエルサの顔が迫って来る。

 エルサ……イケナイわ……私は百合ではないのだから……でも、エルサ可愛い……

 エルサは瞳を閉じてさらに唇を私に近付けた。

 瞳を閉じた際、光る雫が流れたのが見えたような気がした。


「だ、だめよ、だめだめよ……」


 身体が動けない……私の頭はテンパって思考が追いつかない。

 ああ、エルサの唇がなんて美味しそうなんでしょう……ちっちゃくてふるるんと柔らかそうで……少し濡れている……

 エルサの唇は甘い甘いピンクのドロップに見えて……頭がくらくらする……私の思考が麻痺した……


「お姉様……すき……」


 もうだめです。

 エルサが私を待っている。

 可愛い私の妹のエルサの唇を無下に出来ない。

 だってエルサの唇が美味しいって何度もキスをして知っているのだもの……


 “ちゅっ!”


 私は初めて自分から愛姉妹にキスをした。

 エルサの柔らかくて暖かいのが私の唇に当たる……二人の乙女の恥じらいのキッス……


(甘酸っぺぇー!)


 なんて甘酸っぱいの! 胸きゅんきゅんが止まらない。

 ああ、私のエルサ、大好きな妹!

 エルサは私の脇腹に手を回し、軽く抱き締めて来た。

 私も愛しい妹を優しく抱き締める。


 私は百合ではないですが、凄く幸せな気分……


 エルサの唇が私の唇をこじ開けるように動いて、舌を入れて来た。


「んんんっ!」


 エルサは可愛い小動物ですが肉食でした……私の口の中にエルサが入って暴れ回る。

 私を抱き締めた彼女の手が、私の身体をいじくり回す。


「んっ! んっ! んっ!」


 私はエルサのエロい指をどかしたいのに唇が離せなくて、どうにも出来ない。

 

「ん~んっ! んんっ!(だめ! 感じちゃう!)」


 カレンダが直したのに、また夏服が脱がされていく……


「プファ! ユリお姉様、ワタシをもっと感じてぇ!」


「感じちゃったら感じちゃうー!」


 私はまたまた廊下で伸びています。

 まだ自分の部屋の前から、一歩しか動いていない。

 エルサも夏服と下着を元に直してくれたが、タオルで拭き取ってくれずに中は濡れたままだ。


「ふぅ! もう部屋に戻ろ」

「ユリお姉ちゃーーん‼︎」


 声がした方を振り向くとテルザが勢いよく私に飛びかかって来た。


「ぎよえっぴ!」


 私はテルザの下敷きになり身動きが取れない。

 テルザは私を羽交い締めにしてマウントを取った。


「ギブギブ!」


「ユリお姉ちゃん! 大好き‼︎」


 “ブチョー‼︎”


 歯がぶつかるかの勢いで唇を吸い尽くすテルザ。

 

(ヘルプヘルプ! 死ぬ死ぬ!)


「やっぱりユリお姉ちゃんがイイ!」


 唇を離したテルザは私の夏服と下着をイッキに脱がして全裸にした。


「お姉ちゃん、スキ! ユリお姉ちゃーん!」


「ダウンダウン! イクイクー!」


 私が意識を取り戻したのは夕暮れになった頃です。

 私は全裸で私の部屋のドアにもたれ掛かっていました。



   ***



 私は自分の部屋にある大きな鏡の前に座っている。

 今日一日の出来事を思い出しながら鏡を見た。


 ……部屋のドアから一歩しか歩いていない……


 鏡で残念な表情の私を見ながら唇チェックしてみた。

 朝と比べて明らかに変化している。

 唇がさらに分厚くタラコになっていた。

 完全にタラコ星人です。

 ワタシハ、タラコセイジンダ、グスン。

 ほらね。


 皆さんをあしらうどころか、逆にあしらわれてしまった。


「鏡よ鏡……私ってちょろい?」

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