承
第23話 百合の壁ドン
「ボクと踊って下さい」
「はい、王子様」
「アハハハハ!」
「フフフフフ!」
「アッ、いけない! もうすぐ十二時の鐘が鳴る」
「どうしたんだい、デレラ?」
「十二時になったら帰らなければならないのです」
「君を帰さない!」
「そんな、もう十二時の鐘が鳴ります! 帰ります!」
「どうしてだい?」
「十二時を過ぎたら……ワタシの顔の厚化粧が落ちてしまうのです」
「そんなの気にしない」
「気にしてください!」
“ドン!”
「帰さないって言っただろ」
「そんな……“壁ドン”されたら、ワタシもう……」
「今夜は朝まで帰さない」
「王子様……」
「デレラのデレを、魅せてくれ」
「そんなの……はしたない……」
“カーンコーンカーン!”
「な、なんだ! その顔は!」
「……見・た・な~」
***
名作です。
リボンヌ家の図書室に置いてあった“世界名作十選シリーズ”のひとつ『シン・デレストーリー』は最高でした。
今日の午後のひとときは、この図書室で過ごしています。
ここの図書室の恋愛本ときたら女性同士のイヤらしいカラミの本ばかりで、まともな男女の恋愛本はないと思われていたが、ついさっき部屋の片隅にひっそり隠れていたこの本を見つけたのだ。
それがこの本『シン・デレストーリー』だ。
男女の愛の物語……
“壁ドン”……ナニはなくても“壁ドン”です!
全女子のあこがれのシチュエーション。
何度夢に見た事でしょう……
“トン!”
私は壁に向かって壁ドンをしてみた。
もちろん、されたい側ですが、してくれる男性はいない。
“トン!”
地球にいた頃を思い出していた。
高校の片隅で壁ドンの現場を見た事があった。
“トントン!”
元々ばかップルな二人がおふざけでやっていたようだ。
……でも……楽しそうだった……
私も……私も男性に……殿方に壁ドンをして欲しい!
“ドンドンドン‼︎”
壁ドンがいつの間にか相撲取りが稽古でする柱に向かって張り手を打つテッポウになっていたが、気にしない。
“ドンドンドン!”
“バンッ! ピキ、タッタッタッ! バーン‼︎”
「ユリ‼︎」
「きょえっぴ‼︎」
マアガレットが勢いよく図書室に入って来た。
「ユリ、欲求不満のようね!
その欲求、ワタシにぶつけなさい!」
私のテッポウ、もとい壁ドンに気付いてやって来たようだ。
しまった!
この壁の向こうはマアガレットの部屋に続いていたんだった。
普段は隣の悪魔の部屋に、私がいるのがバレないように静かに読書していたのに……ちょべりば!
マアガレットは私が持っている本に気付いて表情を曇らせた。
「ユリ……この本って……まだこんな有害図書があったなんて!
ユリ、没収するから離しなさい」
「そ、そんなぁ!
こ、これは“世界名作十選シリーズ”に選ばれた貴重で大事な本です。
そ、それを、ぼ、没収〜となんて……」
昔、図書館の司書になりたかった私は、本を守ろうと必死に懐に抱きしめた。
だって、デレラがまだ厚化粧が落ちていくシーンを読んでない!
「ユリ、本をワタシに返しなさい!」
頑なな私を壁に追い立てながら攻め立てた。
私は壁に寄りかかりながら必死で抵抗した。
“ドン!”
「ユリ、返してって言ったでしょ」
「そんなぁ……“壁ドン”されたら、私もう……」
壁に寄りかかった私の顔のすぐ横の壁をマアガレットは手で“ドン!”と叩いたのだ。
初めての“壁ドン”は同性のマアガレットでした。
私の憧れていたシチュエーションが今、実現した。
……嬉しくない……
初めてが男性ではなく、女性の……しかもマアガレットだなんて……
この女、私の初めてを次々と奪っていく!
私の思いを知ってか知らずか、顔をどんどん近付けて来る。
彼女の高貴で素敵な匂いが私の顔に掛かる……
「ユリ、朝まで帰さない」
「お、お姉様ぁ……
ああ~ん!」
“ブチュー”
マアガレットは私の唇を奪った。
激しい……マアガレットの荒々しい接吻に“世界名作十選シリーズ”の『シン・デレストーリー』の本を落としたのも気付かなかった。
「んんん……」
隙のない一連の動きで抵抗する隙がない。
私の口の中にどんどん悪のエキスが注入されていく。
ち、力が抜けていく……こ、これは……エナジードレイン!
私の中から生気が抜けていく……
この悪魔、餓鬼のマアガレットは私の中に淫靡な毒を混入して、替わりに私の生気を吸い取ってレベルを落としているのだ。
私は思考が曖昧になり、全身の力が抜けて行って……もう立っていられない……
「ユリの百合が……魅たい」
「そ、そんにゃ~、はしたない……」
マアガレットは私の力が抜けたのを知ってか、図書室の読書スペースにあるソファに私を連れ込んで一緒に横たわった。
「可愛いユリ……ワタシのユリ……」
あぁ、私は可愛いですが、あなたのではないです……
私はドンドン服を脱がされいくのに、身体に力が入らず抵抗出来ない……マアガレットもドンドン服を脱いで……淑女なら恥じらいを持って……
「ユリー! 好きー!」
「うぃやぁぁぁー!」
***
まどろみの中、朝を迎えた。
「おはよう、ユリ」
「おは、おはよう……ごさい……」
本当に朝まで図書室で過ごしました。
「ウフ……」
すぐ横にいるマアガレットは私の瞳を覗き込みながら頬を優しく撫でた……
私は目をそらすことが出来ず、彼女の瞳を見つめ返す……
「ぱふぅ~」
マアガレットに温かく抱き締められて、私は思わず彼女の胸に顔を埋めてしまった。
程良い柔らかさと良い匂いが私を包み込んだ。
私は百合ではありませんが、お姉様の肌の温もりは……卑怯です。
“ぶぎるるるぅ~”
「ぎょえっぴ……」
昨日の午後のひとときから今日の朝まで、なにも食べていなかったのでお腹が鳴ってしまった。
恥ずかしいはずなのに、お姉様の前ではそれほどではないと感じた。
それはきっと、私の基準ですが目の前に存在する方の方がずっと恥ずかしい人間だからでしょう。
「ユリ、恥ずかしがらなくても良いわ。
ワタシはユリをたくさん食べたからお腹一杯だけれども……ユリはげっそりだったかしら、フフ」
恥も知らない、この人喰い人種め……
「サア、自分の部屋に戻って着替えたら朝食にしましょう」
マアガレットは裸のまま立ち上がり、自分の服を持って扉に向かった。
「あ……あん……」
まだ余韻を楽しみたかったのに……えっ、私ったら……いえ、違います! まだ、まどろみたかっただけ……
それにしても、こういったあっさりしている所は男勝りだ。
エロのタフさは男以上だ!
***
私はまだ火照った身体が冷え切らない内に自分の部屋に入った。
まだ朝食には早い時間なのでこのまま裸でベットにダイブした。
メイドが起こしに来る前に寝巻きに着替えれば問題なし、今日はエルサかしら……
「ぷふぁぁ」
ふわふわのシーツとベットはやっぱり最高だ。
「ふにゃあ~、ベット美味しいにゃあ~、むしゃむしゃみゅ!」
私はベットに甘えた。
「ユリお嬢様!」
「ユリお姉様!」
「ユリお姉ちゃん!」
「ぎょえっぴ‼︎」
部屋の入り口の脇にメイド三人衆が並んで立っていた。
どうやら私の帰りを皆んなで待っていたようだ。
「ど、ど、どうして! い、い、今の聞いてた!」
“ドン!”
私は恥ずかしくていたたまれなくなって、どぎまぎしていたらベットから落ちてしまった。
「ユリお嬢様、大丈夫ですか⁉︎」
「ユリお姉様、お怪我はありませんが⁉︎」
「ユリお姉ちゃん、面白い!」
皆んなが一斉に駆け寄ってくれた。
「あ、あ、ありがああ~ん!」
皆んな、助けるのを口実に私の弱い部分を触りまくってる。
「待って! 待った!」
私はなんとか皆んなのエロい手を振り切って壁際まで逃げ延びた。
「まだ、まだ、まだ起きる時間ではないのだから、ゆっくりしたいのぉ!」
そんな私の言葉を無視して皆んなは壁際の私に迫って来る。
三人に囲まれ右も左も逃げ道がない。
カレンダがセンターになって先頭を切って大接近した。
「ユリお嬢様!」
「ひぃ~」
“ドン!”
「ぴぃ~」
カレンダは手が私の顔のすぐ横の壁を叩いた。
「お嬢様、怖がらないでください。
私たちはいつでもユリお嬢様の味方ですよ」
これって……“壁ドン!”? 私、また壁ドン喰らってるの?
……ありえない……直近でまた壁ドンをされるとは……
二度目の壁ドンはないわー! と私は横にズレて壁ドンを回避した。
「ユリお姉様!」
“ドン!”
「ひょっ」
カレンダの壁ドンを避けたスペースにエルサは手を置いて、私に壁ドンをした。
な、なんでぇ~!
「裸のお姉様……素敵」
エルサは壁ドンしたまま顔を私の顔に近付けて来る。
私はとっさに避けた。
これ以上、不本意な壁ドンは避けなくては!
「ユリお姉ちゃん!」
“ドーン‼︎”
「ひょっとこ!」
テルザが両手で私を挟んで壁ドンをした。
「ユリお姉ちゃん、もう逃がさないヨーン!」
両手壁ドンで逃げ道を塞がれて、私はテルザと瞳を見つめ合わす事しか出来ない。
もう壁ドンから逃げられない……
「か、か、か……」
「どうかしたの? ユリお姉ちゃん」
“ドン!”
「ユリお姉様、どうしたのですか?」
エルサが私の左肩近くの壁を“ドン!”した。
“ドン!”
「ユリお嬢様、私たちで介抱しますね」
私の右肩の壁にカレンダは壁ドンした。
「か、か……」
皆んなが私の言葉を聞きに近付いて来る。
「壁ドン怖い……壁ドン怖ぁぁい!」
「???」
皆さん訳が分からないようだ。
「ワタシたちが側におりますので安心してください、ユリお嬢様!」
「ワタシがずっとお側にいます、ユリお姉様!」
「ワタシが抱きしめてあげるネ、ユリお姉ちゃん!」
皆んなが私に抱きついて来た。
「ああ~ん!」
勘違いも甚だしい!
皆んなは私の身体を貪るように愛撫した。
私は皆んなの圧で潰されそうだ。
まさに生き地獄、いえイキ地獄です。
「あっあっ、逝く! イ、イクイク~!」
私はもう“壁ドン”には絶対憧れません。
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