第25話 百合の私の予言書
今日は皆さん、いません。
今日は村の収穫祭という祭りがあるからです。
七月の終わり、村が小麦の収穫のピークを終えた時期に行う行事です。
もちろん私は行きません。
私が村に行ったら恥をかいて暴動が起こるからです。
なのでこの屋敷でひとりお留守番です。
「なにをしましょう……」
鬼の居ぬ間にマアガレットの部屋を探索しようと思ったが、罠がある危険性を感じ取って止める事にした。
なので今日も図書室で読書の時間を過ごす事にした。
「どれにしようかな神様の言う通り……決まらない」
私は本棚の上の方を攻略する事に決めた。
上の段は高過ぎて手が届かない。
でも大丈夫! 図書館などにあるハシゴを使えばバッチグー! ここには木で作られたハシゴがある。
どうせなら奥にある本棚の本を選ぼう。
奥の方が貴重な本がありそうだからだ。
ハジゴを置いて、さっそく登り始めた。
「お宝~お宝……あっ!」
一番上の段に装丁が豪華な本があった。
かなり重そうな本だ。
「グッドソルト!(よいしょ!)
あっ!」
私は本の重さにバランスを崩し、本と一緒にハジゴから落ちてしまった。
「ぎょえっぴ! ぎょえっぴ!」
“ガタっ!”
痛い痛い! 私は腰をさすりながら半べそをかいていると、天井から物音がした。
「ぎょえっぴ! ずうどぉるぴぃ!」
天井は白い漆喰のようなモノが塗られていたが木で出来ていた。
しばらく見ていたが、なにも起こらない。
ポルターガイストではない事に安心して腰を押さえながら立ちあがろうとした、その時! 天井の木の板の一部が動いて、なにがが顔を出した。
「百合様、お怪我は大丈夫ですか?」
「ぎょぎょぎょ……泡わわわ……」
天井から現れた顔は女性で、自分と同じ東洋系の顔をしていた。
あっ!
「あっ! あなたは情けないクノイチ!」
その黒装束はまさにあの去り際が情けないクノイチ、その人であった。
「今、秘伝の湿布薬を用意します」
去り際が情けないクノイチは“ささっ”と天井の隙間から飛び降りて来た。
「うぃやぁぁー!」
私は恐怖で腰が抜けて立ち上がれない。
腰の痛みなど気にならないほどの身の危険を感じた。
去り際が情けないクノイチは自分の腰に手をやって“ささっ”となにかを取り出した。
「きゃん!」
「百合様、どうかこれをお使いください。
秘伝の湿布薬です」
腰から取り出したのは四角い白い布で、どうやら湿布らしい。
去り際が情けないクノイチは危険ではないと頭を下げ目を合わさないようにして、湿布薬を持った両手だけを私に差し出した。
「はぁはぁはぁ!」
私はこの一連の恐怖で呼吸困難になっていたが、彼女の想いは確かに伝わった。
手をゆっくり伸ばして湿布薬を取ろうととしたが、やっぱり怖い。
「私の名は貼足番子と言います。
以後、お見知りおきを」
貼足番子は湿布薬を持った両手を差し出したまま動かない。
でもやっぱり怖い……そうだ!
「あ、あなたが、わ、私に貼ってちょうだい!」
よく考えると一番危ない選択をしたが、この時はこれが最善だと疑わなかった。
「はっ? ははー!」
番子は突然の嬉しい申し出に戸惑いながらも私に近寄ってきた。
私は背中を向けて腰の部分を露出させた。
この夏服はセパレートで上下に分かれるのだ。
はっ! 私……ひょっとして一番危険なのかも?
私は知らない相手に背中を向けて腰を露出するという世の中で一番隙だらけな格好をしている事に気付いた。
番子は忍者のごとく無音で近付いた。
忍者だからだ。
「こ、来なうぃてはぁ~ん!」
拒否の悲鳴を上げたと同時に番子は私に湿布薬を貼ってくれた。
ああ~ん! 気持ちいい~ん!
私はあまりの気持ちよさで恐怖心がぶっ飛んだ。
「これからは、ここの住民がいない間はこの私、貼足番子が百合様をお守りいたします」
番子は頭を深々と下げた。
どうやら彼女は本当に私を守る気でいてくれるようだ。
意味が分からない。
「あのあの~ひ、姫巫女のめぇぇ、め~れ〜なの?」
「……確かに姫巫女から仰せ仕えておりますが、私自身が百合様をお守りしたく、ここに参りました」
でもそれならそれで役に立つかも……
「あ、あ、頭、あげあげ……」
「ははー!」
しかし番子は頭を上げなかった。
番子は私の肌を見て、私の肌に直接触れて凄く喜んでいるのが顔に出て、それがバレたくないがために顔を上げられなかったのだ。
「えへへ……」
気持ち悪! なぜ番子は笑った。
この異世界の住民は皆んな変なのか?
それから、どうして私を守ってくれるの?
はっ! この女、ひょっとして私、百合に百合をしようなんて考えているんじゃないでしょうね。
「やっぱり、あっち行って」
「そんな~百合様ぁ」
本当になにしに来たの?
「百合様、この本は予言書でございます」
私と一緒に下に落ちた、さっき取ろうとした装丁が豪華な本を番子は指差した。
「予言……」
そう、予言と言えばマアガレットのざまぁの世界に出て来るメイドのフルイアが最後に言っていた言葉だ。
私は好奇心に駆られて本を拾った。
表紙に『私の予言書』と書いてある。
私はさっそく本を開いた。
「あっ!」
開いたら、また『私の予言書』と書かれていた。
私は素早くページをめくった。
「あっ!」
今度はヒゲをはやしたオヤジの絵が描かれていた。
「あっ!」
このヒゲオヤジ、どこかで……
「あっ!」
この屋敷のラウンジの二つの階段に挟まれて飾ってあった肖像画のヒゲオヤジと同じ顔だ!
どうして……?
「この方はリボンヌ家のご先祖様であります」
「あっ!」
マアガレットのご先祖様が預言者?
それにしても番子はなぜ顔を赤らめているの?
それは私が本をめくるごとに『あっ!』と発した言葉に、色気を感じ取って興奮していたからだ。
でも、私には知る由もない。
「彼の名は……」
「彼の名は!」
「彼の名はですね……」
「彼の名は……」
なぜかドキドキする私……こう答えを引き伸ばされたら引き込まれちゃう!
「彼の名はノセタラ・ダマスと申します」
乗せたら騙す! なんとマアガレットの先祖らしい名前なんでしょう、ほーほほほ!
あれ、苗字が違う。
「にょう、苗字が違うんだけど……」
「マアガレット・リボンヌ家の総本家がダマス家です。
ダマス本家が断絶して、今はこのリボンヌ家が本家となっています。
しかし、ここはマアガレット嬢おひとりですので、宴会を行ったあの家がリボンヌ本家の代理として責務を担っております」
ふう~ん。
ま、いいわ。
私は次のページをめくった。
「あっ!」
「ああ~ん!」
私の気品ある妖艶な感動詞に、番子は我慢出来ずにエロい声をあげてしまった。
でも私は気にしない、我が家ではいつもの事だから。
本をめくったら、いきなり訳の分からない詩が書いてあった。
かなり意味深だ。
この本の一番の盛り上がりの予言をトップバッターに添えたのか。
それよりもこの予言って……意味が分からん。
…………
“1919の乙女の突き
天から驚くほど強烈なざまぁが降ってきて
最後の末妹が異世界を甦らせる
その前後
古い女はほどよく支配するだろう”
…………
分かるのは“ざまぁ”くらいだ。
「番子、意味……分かるの……」
私は番子に聞いてみた。
意外と物知りだから。
番子を完全に自分の手下扱いする私。
「いえ、まったく分かりません」
この役立たずめが!
「おそらく、ここのマアガレット嬢がご存じかと……」
マアガレット……すべての鍵は彼女が握っているって事。
古い女……あれ? なんとなく……
「ただ、最初の1919はなんとなく解ります」
「はて、なんでしょう?」
「それは、百合様の事ではありませんか」
はて、それはどう言う事?
「我が国の言葉では1919はイクイクとも言います。
百合様はいつもイクイクと……つまりいつも1919(イクイク)と大きな声で叫んでいらっしゃりますので……」
「ダマらっしゃい!」
「はっ!」
なにを言い出すのか、このクノイチは!
このクノイチは私をただ辱めるためにやって来たのか。
「もう去ね!」
「そんなぁ、百合様ぁ!」
私のぷんぷんしている姿を見て番子は媚びを売り始めた。
「大好きな百合様に嫌われたら私は生きて行けませぬ。
どうか許してくださいませ」
明らかに百合を匂わせた番子だが、私は有利な立場なので許す事にした。
番子はいつも下手に出てくれるからだ。
「ジョーダンよ」
「ははー! ありがたき幸せ」
この予言はもうどうでもいいので、次のページをめくった。
「あっ!」
「きゅん!」
また番子が私の声に反応したが気にしない。
それよりも……こ、これは……
次のページには子供が描いたラクガキがびっしり描いてあった。
ラクガキだらけで詩が読めない。
次のページもラクガキが!
次のページも!
次も!
「あっ!」
「百合様ぁぁ!」
ラクガキに汚い文字が書いてある。
一方、番子は身体をうずうずさせている。
「なになに……フルイア……マアガレット……結婚する……」
このラクガキはマアガレットのものだ。
なんて本を大事にしないガキなんでしょう。
この装丁が豪華な本を、自分のラクガキ帳にしてしまうなんて。
私は本を閉じて番子に命令した。
「この本を閉まって」
「ははー!」
なんて便利なんでしょう。
これからも彼女を使用したいものです。
「あっ! ちょっと待ってください。
マアガレットに詩の内容を聞いてみましょう。
彼女なら知っているんでしょ」
「はい、百合様……はっ!」
「えっ!」
クノイチ番子がささっと天井までジャンプして天井裏にそそくさと隠れてしまった。
いったいなにが!
「ユリお姉様!」
「ユリお姉ちゃん!」
二人のヤッセーノ姉妹が元気よく帰って来た。
子供の二人は早く帰らされたようだ。
番子は二人のメイド姉妹が帰って来たのを察して隠れたようだ。
“バン! バン! バン!”
二人は片っ端から扉を開いて私を探してる。
少し怖いです。
“バーン‼︎”
「ユリお姉様!」
「ユリお姉ちゃん!」
図書室の扉を思いっきり開けた二人は、私が見えたので思いっきり私に抱きついた。
「うえっ!」
「ユリお姉様、寂しかったでしょう」
「ユリお姉ちゃん! 会いたかったよー!」
なんて可愛いのでしょう。
二人の姉妹は私の胸の中に顔を埋めてすりすりした。
「のーほほほっ!」
私はくすぐったくて思わず声を上げた。
でもここで気を許してはいけない。
私の母性本能は喜んでいるが、私の秘書は危険を察して警戒準備を始めた。
案の定、二人は幼い少女からエロいメスガキに変貌した。
私と二人の攻防戦が始まった。
長期戦になると思われたが勝負はあっという間に着いた。
だって二人がかりなんですもの……
私の服はあっけなく脱がされ、身体中をもみくちゃにされた。
「ユリお姉様! 大好き」
「ユリお姉ちゃん! 大大大好きー!」
「あっ、あっ、だめぇ~! イ、イ、イク、1919(イクイク)ー!」
私はまた気持ち良さに包まれた。
その時、天井裏の番子はひとり……
「百合様、百合様、なんていい声、いい表情なの……百合様ぁぁあん!」
私の絶頂と共に、人知れずひとりで絶頂を迎えた番子がそこにいた。
いつものように……
「1919ー!」
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