第13話 百合のカンニングペーパー

 翌朝。


「あ~ん、疲れが取れなぁい!」


「ダメですよ!」

「起きなさーい!」


 エルサととテルザが起こしにやって来た。

 今日は二人がかりだ。

 それに甘える私。


「昨日は大活躍したのぉ~! だからぁ~寝るのぉ~!」


「昨日って、毎日同じ事言ってるじゃありませんか?」

 

 エルサに叱咤された。

 こういう所はお姉さんだよねぇ。


「早く着替えさせなきゃ」


 テルザにベットから弾き出された。


「あ~ん」


 いつものように寝間着を脱がされ、下着も剥がされ裸にされた。

 そしていつものように身体を触られて揉み揉みされる。

 今日は二人がかりなので揉み揉みも二倍だ。


「あっん! あっん!」


 私が感じたら洋服を着させてもらえる、これが朝のルーティンの毎日。

 毎朝の目覚めはギンギンだ。

  ***

「明後日、村祭りに出てもらうわ」


「げほっぱ!」


 朝食時に、マアガレットは唐突に私に指令を出した。

 私はヒヨコマメの一投目を口に入れた瞬間に聞いたので、そのまま飲み込んでむせてしまった。


「アナタ、大丈夫!」


 マアガレットは心配して私に駆け寄ろうとしたが、側にいたカレンダが私の胸を撫でて事なき終えた。


「ユリお嬢様! 大丈夫ですか?」


「げほっぱ! ええっ、心配ないですわっげっぽ!

 カレンダさん、ありがごっほ!」


 生死の境からの生還は出来たが、咳が止まらない。


「ユリお嬢様ったら無理はなさらないで。

 ワタシがすぐに楽にしてあげます」


 そう言うとカレンダは私の胸を撫でていた手を、なぜか揉み揉みに変えた。


「あんごっほ! あんごっほ!」


「カレンダ! ユリはワタシの玩具ですよ」


「申し訳ございません、マアガレットお嬢様」


 マアガレットの少しキツイ言葉にカレンダは後ろへと下がってしまった。


「ユリ、村の住民たちにアナタを紹介したいの。

 小麦の収穫前の時期だから豊作祈願の村祭りが行われるのよ」


 そんな事よりさっき私の事、玩具って言いませんでした?

 言ったよね、私ちゃんと聞きました。


「ユリ、ちゃんと聞いてる?

 村の住民の前では領主の妹として、堂々とした態度を振る舞うのですよ。

 武闘会のようなコソコソした態度はダメですからね。

 あと、おふざけもダメよ」


「ふぁ~い……」


 いろいろ不満はあったけど、事を荒立てるのは趣味じゃないわ。

  ***

 今日は曇りなので、屋敷の中で三時のティータイム。

 メイドの三人が私のためだけに給仕をしてくれる。

 マアガレットは忙しくて来ないらしい。

 ラッキー! でも悩みがあるの……

 

「ユリお嬢様、なにかお悩みでも……」


 エルサが私の表情を読み取って気に掛けてくれた。

 さすが気が利くお姉さん、カワイイ!


「実はマアガレットお姉様に村祭りのスピーチを頼まれて困っているのです」


 私は、つい甘えるようにテルサの胸に自分の頭を擦り付けた。

 急に甘えたくなる年頃なの、百合ではなくてよ。


 二人の間にテルザが割り込んで来た。


「そんなの『イエーィ! 踊ってるかーい!』でいいんじゃない!」


 なにも考えていないテルザもカワイイ。

 私の首に後ろから抱きついて来て……重いわ。


「領主の娘なのだから、しっかりした内容じゃないとダメですよ」


 カレンダがテルザをたしなめてた。

 カレンダはしっかりとした大人のレディ、素敵!


 しかし、どうしましょう。

 今まで人前でスピーチなんてしたことない。

 しかも大勢の村人の前だなんて……そんな場面を考えるだけで、とどきどきで足がすくむ。

 これでは本番、大勢の前で頭がパニックになって言葉が飛んで消えてしまうのは目に見えている。

 なにも出来ずに皆んなの前でもじもじしている自分が簡単に想像出来た。

 それはそれで可愛いかもしれないが……

 その時突然、私の頭に閃いた! シュワワワワ!


「ソーダ! カンニングペーパーだわ!」


「カンニングペーパー???」


 私、アッタマいい!

 三人は頭を傾げたが、紙に書いたのを読むって言ったら理解してくれた。

 それなら言葉が飛んでも手元に残ってる。


 さっそくカレンダが紙とペンとインクを用意してくれた。

 ペンはGペンみたいなマンガペンだ。

 懐かしいわ、趣味でマンガを描いていた時を思い出す。


 さっそくペンにインクを付けて紙に文字を書いた。

 紙もペン先も質が悪く、紙は引っ掛かりやすくインクはすぐにじんで広がり、上手く書けなかった。 

 この中世ヨーロッパ風の世界では、この質が限界なのだろう。


 “ビリー!”


 ペンを動かしたら、ペン先で紙が破けてしまった。

 私はペンを止め、身体の動きも止めた。


「ぶえ~ん!」


「お、お嬢様???」


 メイドの皆んなが駆け寄ってくれた。

 紙に字が書けない事に、今までの人生でなにひとつ上手く行った試しがない事を思い出して、私は泣き出してしまったのだ。


「ういっく、ういっく! なんでもないの。

 ただ、自分はなんてダメダメなんでしょう……今までの人生で上手く行った試しがない……」


「そんなに自分を責めないで、ユリお嬢様」

 

 カレンダが後ろから優しく抱き締めてくれた。


「そうですよ、ワタシの大事なお姉様」


「お姉ちゃん! 大好き!」


 エルサとテルザが両脇から抱きついて来た。


 そうよ! 今の私には姉妹がいる。

 私は皆んなから愛されているんだから。

 あぁ、姉妹の温かい体温から愛が感じられる。

 カレンダが私の耳たぶを甘噛みしてくる……

 エルサが私の胸を揉んでいる……

 テルザが私の股間を……


「あぁ~ん!」


 恐ろしい……愛情からエロスに超特急!




   ***




 私はカレンダから上手く書くコツを教えてもらって書くことが出来た。


「力がちょうど良く抜けて上手く書けてますよ」


 ペンを握っている私の右手に、カレンダは優しく手を添えた。

 私は笑顔で彼女の方に振り向き、彼女も笑顔で私の顔を見つめた。

 エルサもテルザも私に微笑んでくれる。

 私の力が抜けたのは、先程のエロスの超特急で身体の体力が抜け骨抜きにされたせいだ。


 それにしても知らぬ間にこの世界の言葉が話せるようになり、文字も書けるようになっていた。

 みゃー助の猫力もさることながら、私の天才的頭脳がモノをいったのだろう。


 時間は掛かったけれど、なんとか書けた。

 メイドの皆んなも、いつもの仕事をしていたけれど、必ず誰かが側に居てくれた。


 いよいよ皆んなの前で、村祭りで話すカンニングペーパーを読む事となった。

 皆んながギラギラした目で私を見ている。

 少し緊張したが大丈夫! 姉妹の前では羞恥心は死んでいるのでなにも恥ずかしくない。

 地下の拷問室での魔改造で羞恥心は切除されたのだから。


「きゃほん! 

 え~、村祭りにお集まりの村人の皆さん! 

 私はここの領主の妹のユリ・リボンヌです。

 この見た目通り私は養女でありまして、ここの領主、若くお美しいマアガレットお嬢様に見初められて家族の一員となる事が出来ました。

 森で身一つしか持っていなかった私をマアガレットお姉様は優しく介抱して下さり、今はとても幸せに包まれて暮らして居ます。

 村の皆さんの笑顔で充実していらっしゃる姿を見ると、領主であるマアガレットお姉様の村の運営が上手く行っているのが良く分かります。

 そしてこれからは私も加わり村の皆さんのお力に添える様、頑張りたいと思います。

 さあ、皆さん! 

 今日は無礼講です!

 朝まで呑んで踊って騒ぎましょう!」


 私はカンニングペーパーをそっと閉じ、目も閉じた。


 メイドの三人はじっと私の話を聞き惚れていた。


 パチパチパチ!!!


「ユリお嬢様! 素晴らしいスピーチでした!」


 カレンダは賞賛し涙を見せた。


「ユリお姉様! ワタシ感動しましたわ!」


 エルサは感動の涙を流した。


「ユリお姉ちゃん! サイコー!」

 

 テルザは笑顔のままで泣いてくれなかった。


「み、皆んな……」


 私も釣られて涙した。

 皆んなからのスタンディングオペレーションを浴びた私はまた有頂天になってしまった。

 皆んなが羨望の眼差しで私を崇めてる。

 皆んなの愛が見えます!


「さあっ」


 有頂天で良い気分になった私は両腕を広げて皆んなを呼び寄せた。


「お嬢様!」

「お姉様!」

「お姉ちゃん!」


 三人は飛びつくように私に抱き付いて、ひとつとなった。

 綺麗で可愛くて元気な花たちが私の胸で胸一杯に咲き誇り、私を引き立ててくれてる。

 あぁ、なんて幸せなの!

 エルサは笑顔で私の右胸を、テルサは笑顔で私の左胸を、そしてカレンダは笑顔で私のお尻を揉み下した。


「皆んな! ありがあふ~~ん!」

 

 う~~エロス!

 


  ***

 私はひとり、部屋に戻って何度も読み返した。

 カンニングペーパーを見なくても読めるくらい読み込んだ。

 もう失敗はしない。

 今までの私ではない。

 村人の前で領主の妹として堂々としなければならない。

 二度とマアガレットに恥を欠かせてはいけない。

 村の皆んなには人見知りは関係ないのだから。

 ダメなら目を閉じてなにも見なければイイ。

 耳をふさいだってイイ。

 なんだったら村人を虫ケラと思えばイイ。


 ぐふふっ……勝ったな……大絶賛の雨あられだ。

 私は村人から金メダルと優勝トロフィーを受け取る青写真が見えた。


「ぐわっははは! ひぃー! げほっ、げほっ! あーっ! くくっ! げほっ、げほっ! ひー!」


 ダメだ、笑いが止まらない。

 私は胸と腹を押さえた。

 胸筋と腹筋が激しく痙攣して、つるくらい笑った。

 咳も止まらない。

 肺が呼吸困難に陥り、機能停止するくらい笑った。


「ひーひっひ!」


 “バーン‼︎”


 テルザが勢いよくドアを開けた。


「ユリお姉ちゃん! ゴハンだよー!」


「ひ、ひわーい!」


 こんな私をテルザに見られても恥ずかしくない。

 だって私の羞恥心は死んでいるのだから。

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