第14話 百合の爽やかな風
村祭り当日。
私はカレンダにいつものように裸にされて、いつものように軽くイカされてからドレスを着せてもらった。
玄関の外には屋根なしの馬車が止まっていて、カガとレデイの茶色の牝馬が繋がっていた。
マアガレットとメイド姉妹は先に出発していて、私たちはあとから現場に向かう事になっていた。
「ユリお嬢様! 村を見るのは初めてでしたよね」
「ええ、そうですが……?」
「イエ、見たい所があれば、おっしゃってください」
田舎など見たくもない。
「いえ、結構。
早くお姉様の所へ、行きましょう」
季節は春から夏へと変わる季節、私の世界と同じ時間軸なのは都合が良い。
畑が見えて来た。
そこはまだ種を植えたばかりらしく、土が盛り上がっているだけだ。
「うっ、臭っ!」
こ、これは、肥料の人糞の臭いだ。
この世界に人工肥料などない。
「ユリお嬢様! この臭い、癖になりますね」
うぎゃぁ!
目の前のカレンダがハイになって喜んでいる。
そういえば、我が家の姉妹達はドが付く、ド変態でした。
怖い! 慣れない! 怖い! 慣れない!
「ユリお嬢様! 民家が見えて来ました」
「あら?」
思っていたよりボロくなく、清潔感もあった。
でも、やっぱり臭い、リアルな生活臭がある。
ああ、屋敷の生活がどんなに天国かが分かる。
メイド達がいつも掃除をして、綺麗な状態を維持してくれてる。
なんてありがたいのだろう。
それに姉妹達からは、とてもいい匂いがしてハグだけなら幸せだ。
そのあと、すぐ彼女達はエロプレーに走るのが難だけど……
村の広場の側まで来た。
村人の賑やかな声が聞こえて来た。
老若男女の人々が行き交っている。
この異世界に来て初めて女性以外の人を見た。
皆んなヨーロッパ風な顔立ちの人々だ。
馬車を村長の家の前に止めて広場へ向かった。
予想を超える人数の村人たちで私は呆気に取られた……いえ、足がすくんでしまった。
「ユリお嬢様! 大丈夫ですか?」
カレンダは私の状態を見て心配してくれた。
こんな大勢の人の中でスピーチをしなければならないか。
泡わわわわっ!
人見知りが発動した。
そんな時、カレンダが私の手を握ってくれた。
「お嬢様! ワタシがお側に付いています」
「カレンダさん……」
そう、私にはカレンダがいる。
そして私たちを見つけたエルサとテルザが近寄ってくる。
会場の舞台の上にはマアガレットが立って私を迎えてくれる。
あぁ、私に恐る物などない!
だって姉妹たちの愛が私には見えるのですから。
「マアガレットお嬢様のスピーチが終わりましたら、ステージに上がって下さい」
急に出て来た見知らぬオヤジが、私に声を掛けて来た。
「うぃやぁぁー!」
誰、誰! 怖いんです! 見知らぬ人が! 男の人が!
男性恐怖症ではないのですが、久しぶりに殿方に声を掛けられて私はパニックになってしまった。
「ユリお嬢様!! ワタシたちが付いてます!!」
エルサとテルザが私に抱き付いて来た。
あぁ、二人から愛の匂いがします。
「私は大丈夫です」
あぁ、二人の手が私の胸を狙っています。
私はセクハラされる前に二人を離して舞台の裏に立って待った。
こんな大勢の前で揉み揉みするなんて思わなかったけど……いや、彼女達なら絶対するわ!
このセクハラを回避出来た自信が、舞台の上でも堂々と出来る自信に繋がって私は冷静さを取り戻す事が出来た。
「では、紹介しましょう! ワタシの愛する妹、ユリ・リボンヌです!」
マアガレットが私を紹介して舞台に立つように促した
私は舞台の階段を一歩一歩確実に登り始めた。
普段の私ならこんな緊張の場面は必ず踏み外したり転んだりして大爆笑を取っていたが、今の私はどこから見ても気品ある上品なお嬢様である事に疑いがない位の華が、あった。
私と入れ替わってマアガレットが舞台から降りて行く。
すれ違いざま、マアガレットは私に笑顔を送り、私は必殺技の微笑み返しで返した。
緊張した時のように右手と右足、左手と左足、同時に動かしながら舞台を歩んだけれど、心は冷静だ。
そして舞台の中央に立ち、胸を張って村人達を眺めた。
「スッゲーカワイイぞ」
「ホント綺麗だわ」
「めんこいおなごじゃのぅ」
私は、ふんぞり返って村人を見た。
彼らが口々に私を高評価で称えた。
褒められてる……嬉しい!
外野の皆さんの羨望の眼差しを一身に受けた私は感動して身体が震え出した。
“ぶるる”
オシッコしたい!
村人たちの熱烈な視線が緊張感を呼び、膀胱をギュッとして尿道が緩み始めた。
でも大丈夫!
後ろにはマアガレットとメイドの皆んなが付いている。
私は愛されている。
そしてこれから村人にも愛されるために、立派なスピーチをおこない感動させて人気を独り占めするのだ。
さあ、とっとと済ませてトイレにGO TO!
私は村人の皆んなが見ている前でカンニングペーパーを堂々と広げた。
いつもの私なら緊張から文字がぼやけて見えなくなるのだけど、皆んなの愛を感じている今の私には、はっきりくっきり見えた。
肝心のカンニングペーパーは汗で少しにじんでいたけど大丈夫、一字一句覚えているから。
それに今、ちょうど爽やかな風が吹いて来て、私の緊張から噴き出した汗を乾かし体温を下げてくれた。
ああ、気持ちいい。
風の妖精さん、ありがとう。
“ひゅるりら”
あっ!
その瞬間、私の手元だけ強い風が吹いてカンニングペーパーが手から離れて行ったのです。
カンニングペーパーは私の手元から羽ばたきながら未知なる大空に巣立って行きました。
うぃやぁぁぁ~!
だ、だ、大丈夫! 大丈夫です! 一字一句覚えているのですから。
がたがた!
私は前を見渡して村人たちを見た。
泡わわ~!
村人たちが私を見てるぅ!
だめだめよ! もう引き返せないんだから。
前に居るのは村人じゃない! 人じゃない‼︎ そう虫ケラよ! 虫ケラ‼︎
ヒッヒッ、フー!
私はラマーズ法で呼吸を整えて覚悟を決めて演説を始めた。
「村祭りにお集まりの……む、む、虫ケラの皆さん!」
しーん!
村人の皆さんが一瞬で静かになった。
「今の、俺たちの事だよな」
「酷くない!」
「なんちゅうおなごじゃ」
ザワザワ! ザワザワ!
村人たちが騒ぎ出した。
「わ、わ、私は、こ、ここの領主……です」
「乗っ取りだ!」
「マアガレットお嬢様を追い出す気!」
「わるい子じゃ!」
村人が私に対して悪意を見せ始めた。
「こ、こ、この通り、び、美少女で……」
「自分で言ったら」
「マア、可愛いコト……クスクス」
「不吉じゃ!」
村人達は暴動を起こし始めた。
ちょべりば!
話の続きを話して、早くこの場を収めなくては。
「こ、ここの領主の、わ、若く美しいマアガレットお嬢様を見つけて、ぞ、族の一員になる事を決めました」
「族? 賊! 自分を盗賊だと言ったぞ!」
「戦って追い出しましょう!」
「祟りじゃ! 不埒者の祟りじゃ!」
村人は交戦準備に入った。
「ぎよえっぴ! ずぅどぉるぴぃ‼︎」
私はパニックになって、ついいつもの奇声をあげてしまった。
「なんだ今の奇声は! 盗賊に襲撃の合図を送ったのか⁉︎」
「ワタシ達でマアガレットお嬢様を守るのよ!」
「竹やりじゃ! 竹やりを用意するのじゃ!」
「ぎょえっぴ……」
村人は祭りを中止して、村人総出で戦闘準備に入りました。
これから大いくさが始まろうとしています。
もう、私にはどうする事も出来ません。
私は目の前がグルグルと回り出して、水が沸騰する位、体温が上昇していました。
なのに下半身はブルブルと震え、体液が流れているのが分からない位、凍ってました。
……体液?
「うぃやぁぁぁー!」
私はお漏らししてしまいました。
「ぎょえっぴ! ぎょえっぴ!」
足に力が入らず、しゃがみ込んで泣き出してしまいました。
「ぶるうえぇぇん! ぶるうえぇぇん!」
大泣きです。
駆け寄って来てくれた三人のメイドに抱きかかえられながら舞台の裏まで運ばれて行きました。
村人たちの暴動はマアガレットお姉様が懸命に収めているようです。
「ぎょえっぴ、ぎょえっぴ……」
舞台の裏の隅っこで泣いている私の所に、子供たちがやって来た。
「凄かったな!」
「皆んな、凄く怒ってたな!」
「大人のお漏らし、初めて見たわ!」
「大人があんな大泣きするなんてビックリした!」
子供たちは私を見ながら好き勝手な事を言い出した。
ガキ大将のような子が私の肩に手を置いて生意気な事を言い始めた。
「ネーちゃん! オレはなかなか好きだったぜ、オマエのお漏らしな」
全然嬉しくない。
マアガレットの命令で、私は先に馬車で帰らされた。
そして、村には村祭りでの私がやらかした数々の件は外部には漏らしてはいけないとの条例が出され、村の人々は私の事を『漏らし嬢』と呼ぶようになりました。
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