第8話 百合のパートⅡ

「おはようございます、ユリお嬢様」


 カーテンを開け放たれた窓から太陽の強力な紫外線が襲ってくる。

 その紫外線の中に美少女が……

 背中に光を浴びて逆光で真っ暗になるはずのエルサの顔が、笑顔で光輝いて見える。


「美味しそうです……えへえへ……」


 お腹を空いていたせいか、エルサが美味しそうな小動物に見える。


「マア、ユリお嬢様ったら!」


 小動物が笑顔をふり撒きながら私の着替えの用意をしてくれた。


 ……おかしい。

 この異世界に来てから食欲旺盛になってる。

 元の世界では女の子らしく少食で過ごしていたのに……


「ユリお嬢様、着替えますから立ってください」


 エルサは可愛い笑顔で私に命令した。


 ところで図書館の結末はどうなったって?

 マアガレットというケダモノに食い散らかされた私は意識を失い、気がつくとカレンダに介抱されていた。

 介抱してくれるのはありがたいのだが、私のカラダを艶かしく責めるついでの介抱なのでまた意識を失い、そのままベットに連行されて今にいたる。


「今日も朝からいい天気です。

 ユリお嬢様が来てから、毎日が楽しいです」


 年下なのにテキパキと働くエルサに感心していたら、いつの間にか私は下着一枚になっていた。


 エルサ・ヤッセーノはテルザの姉なのに妹キャラの可愛いメイド。

 ティータイムが主の仕事と思いきや庭の手入れがメインらしい。


 エルサは最後の大切な布の両端を握ってゆっくりと降ろした。

 そしてさっきまで大切な布で隠されていたトコロを凝視して笑みを浮かべた。


「フフフ、ユリお嬢様のほうが美味しそうです」


 そう言ってエルサは小ちゃくて可愛い舌を出して私の……


「あん! だめだめだぁ!」


 抵抗も手加減してしまうほど、小動物の可愛いエルサ。

 体毛のない私の身体をぺろぺろとグルーミングしている。


「ああ~ん、あん!」


 しかし小動物のエルサは肉食であった。

 その可愛い肉食小動物に食べられる可愛い私……


「逝く、イク!」

 


   ***



 食堂で朝の食事を済ませた私は、我が家探訪の続編、パートⅡを始める事にした。


「レリゴ!」


 元々寝起きが悪かったのに、この異世界に来てからは朝から目が冴えている。

 血行も良くなり汗もかいて身体は疲れてはいるが頭はすっきりしてる。

 理由は分からないが決してみゃー助の力のせいではないと思う。


 私は食堂脇の玄関を目指した。

 いつもはラウンジ側を使うが、今回は玄関ロビー側の扉を開けた。

 長細い玄関ロビーがあり、右側はラウンジへ、左側に玄関、正面にも扉があった。


 では、さっそく正面の扉を開けてみましょう。


「がちゃっ!」

 “ガチャ!”


 そこは小さな部屋になっていて靴や雨具などが置いてあった。

 どれも機能重視でオシャレっぽさがないものばかりだ。


(まあ、時代設定は中世だし……)


 その奥にも扉があり、開くとクワやカマなどの農機具が置いてあった。

 どの小道具も土などの汚れはなく、綺麗に整備されていて、さすがに女性だけの屋敷であることがうかがれる。


(実家の農業倉庫の中は泥だらけ)


 奥にさらに扉を開けようとしたが鍵がかかっていた。

 ま、ここはいいでしょう……野良仕事関係は興味がない。

 ちなみにさらに奥には馬小屋があるそうだ。

 

 いよいよ玄関だ。

 玄関の扉は金属製でシックな造りだ。


 安易に玄関に近付いたが、玄関を開けることに私は躊躇した。

 外に出ていいの? 午後のお茶会で裏庭に出たことがあるけど……裏庭だし……勝手口だし……そもそも誰か付き添いがいたし……

 でも玄関は違う……玄関から外に出るということには意味がある。


 そう、これは……束縛からの解放! 鳥かごからのフライング(脱出)!

 変態姉妹から逃げ出すことが出来るという意味だ!


 ただ、逃げたとしても……美味しい食事の用意や、ふかふかのベット……そもそもタダで安全に住めて、身の回りの世話をメイドがしてくれる、豪華で清潔で素敵なお屋敷が再び手に入る保証はあるのだろうか?

 

 あれこれ考えたけれど好奇心が身体を支配して、いつの間にか玄関扉のドアノブに手をかけている自分がいた。


 もうどっきどきぃ! ええ~い、ナスがママ‼︎


「がちゃっ!」

 “ガチャ! ガンッ!”


 扉が開かない!

 やっぱり私は『かごの鳥』なんだ……なんて悲劇なヒロインなんでしょう……うるうるぅうるうるぅ……あっ、金属の棒で施錠されている。


 目の付く場所に金属の棒が扉の鍵として機能している事に気付いた。

 さっそく金属の棒を横にずらしてと……簡単にロックを外すことが出来た。


 もうぅどきどっき、リターン!


「がちゃっ、りたぁん!」

 “ガチャ! ギィ~!”


 今、私はみずから鳥かごの扉をを開け放った。


「明るい……あっ!」


 扉を開けたら広大な庭園だ。

 広い広い!

 裏庭とはケタ違いの大きさで、東京ドームの一個分あると思ってしまうくらい広い!


「ふぁー‼︎(きれー‼︎)」

 

 実際は東京ドームの四分の一ほどの大きさだが、より盛大に見えるほど素晴らしいものだった。

 ただただ感動して束縛からの解放などのくだりはくだらないものとなり、もうどうでもよくなった。


「♪らんら、らんら、らぁん!」


 私は自然にスキップするほど軽い足取りになった。

 花のほとんどは薔薇だろうか、花壇も歩道もブロックで整備され小川も流れ小さな橋もあった。

 庭園の中ほどに、公園にある水場があり中央には噴水らしき飾りがあるが今は水は出てない。

 裏庭はプライベート庭園で、玄関のこちらはお客人に見せびらかせる庭園なのかも。


「もう、入場料が取れるくらいだわ!」


 お金に目が眩んだ私だが、どこか見覚えがある風景に目を凝らした。

 あっ! ここはマアガレットの“ざまぁ”の世界で見た秘密の庭園物語の舞台ではないか。

 植えてある花々は違うが間違いない。

 

 あの映像……幼いマアガレットとメイドのフルイアがイチャコラしていた現場だ。

 まさに聖地! 私は行く気もない聖地巡礼を果たしてしまったのだ。


 早くも聖地に興味を失った私は、庭園の外の方が気になった。

 この敷地と外部との境には百五十センチくらいのブロック塀があり、それを超えなくてはならない。

 一難去ってまた一難です、やれやれ。


 しばらく歩くと門が見えた。

 鉄格子で出来た両開きの扉だ。

 施錠を見ると玄関と同じような鍵が掛かっており、簡単に出られそうだ。


 女子ばかりの館なのに、まったくの不用心なこと。

 そう思いながらも私の興味はすでに鉄格子の外の景色に移っっていた。

 門の外は芝生? クローバー? 門の前は低い草が生える草原が広がっていた。

 以前は建物があった場所?

 元の世界の田舎で見た、空き家を壊して平らにした跡地に似ていた。  


 その向こうは小麦畑だろうか? 小麦は花が咲いていたので収穫は来月あたりか。

 ちなみに季節は私の地球でいうと春から夏に変わる頃で、季節の時間軸はリンクしているようだ。

 そういえばリボンヌ家の主な収入は小麦だとか言ってたような……でも私の興味はさらに奥の土地に移っていた。


 門の扉から一直線の道が続いていて、ずっと遠くに小さな森がある。

 あの森の中の竹林が、私が裸で倒れていたっていう場所?

 みゃー助も酷いわ! せめてふかふかのカシミヤの毛布に包んでくれるくらいの配慮は欲しいわ。


 さらに向こうは高い山が連なっていて山頂は真っ白な雪に覆われていた。

 あの山の頂を境に違う領地になるそうだ。


 私のいるこの国の名は『神聖タルタルソーニア帝国』……なんだか美味しそうです。

 広大な大地、レアムリ大陸のほとんどを支配しているらしい。

 広大過ぎるので国を五つの国に分け、一番大きくて居心地のよい領地は一番偉い皇帝が支配していて、その他の領地を王と呼ばれる皇帝の親族や家来が治めている。


 私のいる領地は帝国の南側でクルミゴ国と呼ばれ、リボンヌ家の領地は真ん中あたりで、世間からはノットリダーム村と呼ばれている。


 私はぼ~っと辺りを眺めていた。

 私の田舎での暮らしもこんな情景だった……たった一週間少しなのに遠い過去に感じられる。

 田んぼと畑だらけで、周りは山々に囲まれた閉鎖空間……家を出たら人間より野生動物に出会う……

 あっ! 昔、野生のヨークシャーテリアに吠えられたことがあったっけ。

 

 あれこれ考えていたら、いつの間にか鉄格子の扉を掴んでいた。

 はっ! これを押せば本当に鳥カゴから出れる……自由だ!


 そうだ! まずは帝都に行って皇帝に会ってみたい。

 中世ヨーロッパ風なのだから、きっと豪華で素敵な城に住んでいるのでしょう。

 そこで優しくて素敵なイケメンリッチ王子たちに見染められて、彼らを操って影から支配する存在に……すべてが私のモノ……


 そうか、私はこの世界の支配者に成るべく異世界転移したのだ!

 勝ち組になるのが異世界転生転移の原理原則だから、そうに違いない!

 みゃー助、ありがとう!


 なら、早くリボンヌ家の財産を手に入れて遠くにズラかるのが良い手段かも知れない。

 私への数々のエッチでスケベな仕打ちの慰謝料プリーズ!


「ユリお嬢様!」


 妄想でニヤついている私の背後から声がした。

 聞き覚えのある声に反応して振り返ると、心配そうな顔のエルサが立っていた。

 その後ろにはカレンダとテルザが同じような顔で私を見つめていた。


 エルサが歩み寄って来て私に声をかけた。


「帰りたいのですか?」


 たぶん……帰れないわ。

 私は声に出さずに目でエルサに応えた。

 なにかを察したのか、カレンダが代わりに応えた。


「故郷が恋しいのですね」


 いや、まだホームシックは来てないですね。

 カレンダは察していなかった。


 故郷はなにもなくてつまらなかったし……まあ、家族には会いたいけど、もう会えそうにないし……それより今はこの世界の影の支配者になる事に私は興味がある。


 ニタニタ笑みを浮かべて勝手に妄想する私を心配してテルザが懇願した。

 

「ワタシ、これからもユリお嬢様と一緒に暮らしたい!」


 うっ、潤んだ瞳が……カ、カワイイ!

 ダメよ、ダメ! 決心が鈍っちゃう。

 エルサもカレンダも潤んだ目で私を見つめてる。

 ダメ! 皆んな、そんな目で見ないで!  

 この庭園の中でメイド三人衆が一番可憐で可愛い花。

 ノーマルの私でも胸がキュンキュンして来る。

 この胸の高まりは色恋沙汰ではなく、母性本能がさせるものだ。

 そうだ! 私の女神レベルの母性で、彼女たちを正しい道に導く事が転移した理由のひとつなのかも知れない。


「ど、ど、どどどどど、どこにも行かない」


 基本、皆んな悪い人ではないし……

 カワイイは正義!


「ユリお嬢様!」

「あぁっ!」


 エルサが私の胸に思いっきり飛び込んできた。

 ああ、なんて可愛いんでしょう。

 やはり、私の母性が求められているんだ。


「ユリお嬢様!」

「あうっ!」


 後ろからテルザが抱きついて来て胸を鷲掴みにした。

 あっ! む、胸が……や、やはり私の母乳が、いえ母性が欲しかったのね……


「ユリお嬢様!」

「あ~ん!」


 カレンダが二人の隙間をぬって私のお腹の下を撫で始めた。

 こ、これも私の母性の賜物ね……カレンダったら母胎に戻りたがってる……


「あっあっ! し、心配しないで……帰らないからぁ……だ、だから皆はぁ~ん!」


 エルサは私の首元を舐め始めて、テルザは私の胸を揉み始めて、カレンダは私の下半身をいやらしくイジリ始めた。


「あん! だ、大丈夫だからぁ~! だ、だから皆んな、私から離ぁ~ん!」


 皆んなを振りどかそうとしたが、まったく離れない。


「ああん! ふ、服が、あれよー!」


 それどころか、あれよあれよと服が脱がされていく。

 私の中の神聖なる母性は消え去り、いやらしい感覚が身体中から湧き上がって来た。


「ユリお嬢様!!! 行かないで!!!」


 三人は興奮した声で忙しなく動いた。

 とにかく、どこにも行かないことを皆んなにアっピールして動きを止めさせなくては! 


「あんあん! い、行かないから、どこにも行かないからあは〜ん! 

 はぁはぁ! 行かない、行かない……行、行、行か、イくぅ~‼︎」


 薔薇が咲き乱れるこの庭園の中心で、ひときわ乱れまくる裸な私がそこにいた。

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