第7話 百合の我が家探訪!
「ユリお嬢様! 朝です」
翌朝、メイドのカレンダが私を起こしに来た。
「ふにゃぁ、皆んなの分は私が食べますぅ」
「クスッ、ユリお嬢様、いつでもどこでも食い意地がはってますわね。
朝食の用意はしてありますから……サア、起きて寝巻きを脱ぎましょう」
カレンダは私を叩き起こし、手早く寝巻きを脱がして下着一枚にしてしまった。
この世界の下着なので可愛げのない白い布ですが大切な物です。
「サア、これも脱ぎましょうね」
カレンダは怪しい瞳で私の最後の大切な布をゆっくり脱がした。
「マァッ」
私のまだ無毛の部位を舐めまくるように見つめるカレンダ。
百合洗脳が解けた今は流石にハズい。
「とてもきめ細やかな肌……」
そう言って私の太ももに優しく触れた。
「とてもいい匂いがします」
近い近い! カレンダの顔が私の下半身に当たっちゃうくらい近い。
早く新しい下着を着せて欲しい!
恥ずかしさとくすぐったさで、たまらないが我慢。
百合洗脳が解けたのがバレるのは流石にヤバい……また拷問室に護送されます!
それだけはイヤびくっ!
カレンダの指が私の下半身をいやらしく這いずりだした。
「素敵な触り心地……」
メイドのカレンダ・ヨウビィは若いけれど、年長さんなのでしっかりさんだ。
面倒見が良いお姉さん的な振る舞いが素敵なレディですが、時々魅せる妖艶な雰囲気が……たまらない。
でも、その妖艶の眼差しが私に向けられるのは……ゴメンこうむりたい。
私の下半身をじっくり堪能しているカレンダ。
そのいやらしい手の動きがだんだん激しく……
「あん!」
私が感じたのを満足したのか、カレンダはメイドの仕事として私にそそくさと洋服を着せ始めた。
怖い怖い! 百合は百合が怖いです。
「朝食をいただきにまいりましょう」
“ぷぎゅるるる~ん!”
イヤ~ん! お腹がなっちゃった。
私は顔を赤くして下を向いた。
さすがにこれは恥ずかしい。
「ユリお嬢様ったら、サア」
カレンダは赤面してモジモジしている私の手を引いて食堂へ連れて行ってくれた。
***
「食後のひとときをどう過ごしましょうか?」
食堂のダイニングルームで朝食を食べ終えた私は、これからの暇な時間をどう過ごそうか考えていた。
リボンヌ家のマアガレットの妹になったが基本する事がない。
「自分の家でもあるのですから、片っ端から調べても構わないよね」
まだこの屋敷の隅々までチェックしていない。
私はリボンヌ家の養女になったのだから、家族の特権を行使することに決めた。
「レッツ我が家探訪! 物色、物色と……んーとっ、まずはぁ……金目のモノ……」
まずは食堂を出ることにした。
食堂の扉は、ラウンジ、玄関ホール、調理場の三ヶ所ある。
普段使用しているのがラウンジ側でラウンジへ出だ。
だだっ広いラウンジはゴシック調のデザインで、豪華な螺旋階段が左右から伸びている。
左右の螺旋階段の真ん中、一番目立つ所にヒゲのおじさんの肖像画が飾ってあるが興味がないので次に行ってみよう。
左右の螺旋階段の側にそれぞれ扉があり右側を開けた。
こちらは普段使用している扉だ。
「がちゃ! ぎぃ~」
“ガチャ!”
扉を開けると真っ直ぐと左右に廊下があり、真っ直ぐは裏庭の庭園行きだ。
右側には風呂とトイレの扉がある。
使用頻度の多い場所だ。
後付けで増設した感アリアリの屋敷から飛び出した造りになっている。
風呂は日本風で風呂桶と洗い場がある。
トイレは俗にいうスクワット式で、和名では和式だ。
中世ヨーロッパ風の世界感なのに風呂とトイレがあるのは助かる。
“ガチャ!”
「びやっ!」
突然扉が開いて驚いてしまった。
(ごめんなさい、まだなにも盗んでいません!)
私はカラの風呂桶の中に隠れようと忍び足で進んだ。
「ユリお嬢様?」
「は、はい~?」
扉を開けたのはカレンダであった。
私は硬直しながらも、彼女に振り向いて愛想笑いを返した。
カレンダと対面したら今朝のヒワイな行為を思い出して、私はまた赤面して下を向いてしまった。
「どういたしましたか?」
カレンダが近付いて来る。
そう、私はまだ悪いことをしていないのだから堂々としよう。
だいたい私にオイタをしたのはカレンダの方だから。
それに百合洗脳が解けたのがバレたらヤバイし……あれこれ考えた私は素直にこれからの行動を明らかにした。
「や、屋敷の中を、ぶ、物色……いえ、探訪していたの」
「そうでしたのですか……では、こちらは探訪されましたか?」
カレンダは自分が出て来た廊下の奥を指差した。
「いえぇ! こ、これからですわ」
「クスッ、これからもよくお使いになられる場所ですから案内しますよ」
そう言って廊下の向こうの案内に打って出たカレンダ。
「ありあとぉぅ!」
そちらは長い廊下があり扉もたくさんあった。
「ここは私たち使用人の部屋になっています……クスッ、ワタシの部屋に入ってみますか」
「いえ、結構ですわ!」
身の危険を感じた私は即座に拒否した。
「……残念です。
そうですね、あの奥の扉に入ってみますか」
「奥の扉?」
奥の扉は他の扉と雰囲気が違い、負のオーラを感じた。
「あの扉を開けるとユリお嬢様のお気に入りの地下の秘密の花園になります」
「秘密の花園? お気に入り?」
「ハイ! ユリお嬢様はすぐに馴染んで、とても楽しんでおりましたわね」
「地下……室」
私はあの出来事が死の間際の走馬灯のように蘇ってきた。
「拷問室‼︎」
縛られて、猿ぐつわをされ、皆んなにワッショイワッショイ担ぎ出されて連れ込まれた秘密の地下室……大股を開かされた状態で椅子に縛られて、変態餓鬼たちに数々の変態行為を強要させられた、その拷問室が目の前に……
「ういやぁぁぁー‼︎」
「ユリお嬢様! どういたしましたか⁉︎」
カレンダは、すぐさま私を抱き締めて気持ちを落ち着かせようとした。
「い、いぃ‼︎(い、いやぁ、触らないでぇ‼︎)」
変態餓鬼のひとりカレンダから離れようと暴れたが彼女の怪力抱擁から逃れられない。
「い、いぃ……(いや、いいから離して……)」
イヤなのに、そんなに強く抱き締められたら心が安らいでしまう……
「クスッ……大人しくしましょうね」
優しい眼差しのカレンダは年上の包容力で抱きしめてくれる。
「……うん」
ああ、抱き締められるって、こんなに心が安らぐんだ……私を包み込むカレンダの優しい腕が徐々に下にさがって……私のお尻をモミモミ……
「あん!」
こんなにも気持ちいいぃと……ちょっと待ったぁ!
「あん! カレンダさん、ちょっとちょっと!」
身体を離そうとしたがカレンダの怪力にはかなわない。
「あん! ま、ま、まだ我が家探訪が終わってないの……あぁん! に、二階を調べたいのぉぉぉ!」
「ハァハァ、分かりました、案内します」
目が血走っているカレンダは不満を言わずにさっそうと螺旋階段を登った。
「あはぁん、待ってぇ!」
カレンダから解放され私は身体に力が入らず手すりに掴まりながらよろよろと螺旋階段を登った。
「ワタシのことはカレンダとお呼びください、ユリお嬢様」
「いえぇぇ、カ、カレンダさんは年上ですから、『さん』付けは必須事項ですわ」
「……そうですか、ありがとうございます。
着きました。
まず最初の部屋は屋内用のティールームです、雨の日や冬場に使います」
角部屋で窓ガラスも多く日当たり良好で暖炉と白いテーブルがある。
「その隣がマアガレットお嬢様の寝室、その隣がマアガレットお嬢様の執務室です。
今はお仕事の最中ですので、お静かにお願いします。
その隣が外出時のドレスや靴などの衣装部屋です……これらの部屋は勝手に入らないようにお願いします」
入らない入らない!
衣装部屋は興味あるけど、マアガレットの部屋など絶対入りたくない!
「その隣は……お好きにどうぞ。
そして一番奥の部屋が……クスッ、私たちのユリお嬢様の部屋です。
その向こうは仕切りの壁です。
一階と二階の中央の廊下には仕切りがあって右側と左側の行き来が出来ないようになっています。
屋敷の左側は来客用になっていて、二階は客人、一階はその付き人用となっています。
それではワタシは夕食の準備がありますので、ごゆっくりどうぞ」
「あ、ありがとう」
“きゅるりん!”
「ぎゃぁ!」
またすぐお腹が鳴っちゃったよ~!
私は赤面しながらお腹を抑えた。
「マア、ユリお嬢様ったら食欲旺盛ですコト、クスッ」
カレンダは笑いながら螺旋階段を降りていった。
これはオカシイわ……今までこんなにお腹が鳴るなんてなかった。
こんな身体になったのはみゃー助の異世界転移ミステイク?
いくら猫ごときの力でも、このミスはいただけない。
今度会ったらリコール請求を要求してやる。
私はマアガレットが居そうな部屋と執務室を忍び足で音を立てずにそ~っと歩いた。
最重要危険人物なのですから……もし、ばったり出逢ったら地獄の始まりです。
“ピキッ!”
「ぎょっえ・・・」
危ない危ない、声が出そうになって思わず口を抑えた。
廊下の板が鳴るなんて、とんだトラップだこと。
じっとして聞き耳を立てた。
餓鬼マアガレットが気付いた気配がないのを確認して、ゆっくりゆったり気配を消して好きにして良いとされた部屋の前まで歩いた。
では早速入ってみましょう。
「そおっと、がちゃ!」
“ガチャ!”
うわぁ……本です。
そこは本の世界でした。
たくさんの本棚にたくさんの本が並べてある。
豪華に装丁された本が部屋の隅々まで埋め尽くされていて、さながら図書室といった所だ。
奥には傷んで古びた古書が、さらにその奥には古めかしい巻き物、いわゆるスクロールまであった。
これでヒマが潰せる!
そう、ここに来てからする事がなかった私にとって時間が潰せるオアシスになるかもしれない。
恋愛小説……BL本はないかしら……私は貪欲に物色を始めた。
「♪らんらんらん」
読める読めるわ……この世界の言葉が読める!
本の背表紙のタイトルが私に読める!
まあ、聞けたり話せたり出来るのだから、読めるのも当然だろう。
これはみゃー助の力というより、優秀な私の頭脳の賜物だ。
それにしてもこの本の数、五百冊以上あるようだ。
これはまさに図書室というより図書館だ。
中学生の頃、遠い学校から家に帰るバスを待っている間、近くの図書館で時間を潰していたのを思い出した。
なにしろバスは一時間おきしか来ないのだから……なんて不便なカントリーライフだこと。
本のタイトルをいろいろ見たが難しそうな研究書、つまらなそうな伝記、自画自賛な自伝ばかりだ。
ホントに図書館だ……図書館?……あっ!
「私は司書になりたい‼︎」
図書館の受け付けの優しそうなお姉さんがヒマそうにしているのを見て密かに憧れていたのを思い出して思わず叫んだ。
夢は声に出したほうが良いというアレだ。
“バンッ! ピキッ、タッタッタッ、バーン‼︎”
「ユリ‼︎」
「ぎょえっぴ‼︎」
いきなりマアガレットが図書室に飛び込んで来た。
「今、ユリの声が聞こえたから急いで駆けつけてしまったわ!」
「ちょべりば!」
なんて失態! 自ら大声を出して餓鬼を呼び込んでしまった。
声に出しても叶わぬ夢もあることは知ってたはずなのに……
「よかったわ! 働き詰めで休憩が欲しかったから……ユリに会えて嬉しいわ」
「泡わわ!」
会いたくない、嬉しくない、早く逃げたい!
「アナタ、文字は読めるの?」
「は、は、は、はい!」
「ナラ、これがオススメよ」
マアガレットは手前のオシャレなデザインの本棚から数冊取り出して表紙を私に見せた。
マアガレット専用の秘蔵コレクション本のようだ。
こ、これは……『ふたりの乙女の愛の契りハウツーラブ』『セント百合学園の日常~お姉様とドキドキ身体検査編~』『禁断の百合婚~激し過ぎた新婚初夜~』……全部読みたくない!
「ユリ、この文章はなかなかよ」
マアガレットは私にピッタリ寄り添いながら本を開いた。
「い、いい(いいです、遠慮したいです)」
「……激しく絡み合う乙女たちから溢れる雫はより絡み合い、ひとつに混ざり合って……モウ……」
なんですか、それ⁉︎
“バサッ!”
「ユリ、モウ我慢できない‼︎」
「⁉︎」
本を落としたと同時にマアガレットの唇は私の唇に重ねて来た。
「んんん、ぷふぁ! お、お姉様、我慢してください……こんな所では……」
「ワタシたちの愛に場所なんて関係ないわ!」
「うぃやぁぁぁ‼︎」
瞬く間に脱がされていく私……
「本が……私の服が……舞う……」
「ハァハァ、ワタシと一緒に舞踊るのよ、ユリ!」
「あん、回る回るぅぅ……」
♪らんらん乱……
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