第33話 苦しい音色




「ゆめみん、大丈夫?」


りょうちゃんが部屋から出て行くのを確認してからいーくんが私に声をかけた。


「大丈夫、大丈夫だからはやく出てって、練習したいの…」

「りょうちゃんがね、ゆめみんの音が変わってて嫌だって言ってたよ」

「嘘、私の音なんて聞こえてないのに…」


嘘ではないのはわかっていた。いくら私の音が小さいからといっても全く聞こえていないわけではない。りょうちゃんくらいの距離なら問題なく聞こえているだろう。それに私の音が合奏の時と全く異なるものになっているのは私が一番わかっているから。


「嘘じゃないよ。りょうちゃんが本当にそう言ってた。そもそもりょうちゃんがチューバ始めたのは………なんでもない、これはりょうちゃんが言わないといけないことだしね」

「わけわかんない…」

「そうだろうね。たぶんそのうちわかるよ」


そんなどうでもいいこと喋ってないでさっさといなくなって欲しかった。はやく一人になりたかった。はやく一人で練習したかった。


「パート練習本当にしないの?」

「したくないの。パート練習もセクション練習も合奏も、人と会わせたくないの。一人で練習したいの」

「そっか、ゆめみんはもう二年生で一年生の後輩がいる先輩なんだよ。先輩としてそれはどうかと思うけど……うーん、とりあえず無理はしないようにね。たぶん、りょうちゃんはゆめみんが練習に誘うのをずっと待ってると思うからもし、合わせたくなったら遠慮なく言ってあげてね」


いーくんは私にそう言い残して部屋から出て行った。そして私は再びチューバに息を吹き込み始める。部屋の中には鈍い音がどんよりと響いた。







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