第30話 ランチタイム




「じゃあ、さっきの続きやろうか、マーチのDからやるよ」


課題曲のDの部分はチューバやトロンボーンがメロディーになる。音が上手くハマるとかっこいいメロディーになるが上手くはまらないとマーチのテンポ感を崩してしまう。先程からずっと二人で合わせているがなかなか合わない。僕が遅かったり間違えたりするせいや、ゆめみん先輩が早かったりすることもある。


ゆめみん先輩の掛け声に合わせて楽器に息を吹き込みマーチのDの部分を演奏するがやはり合わない。


「うーん、合わないね…楽器置いてメトロノームに合わせて手を叩こう。手で合ったらまた楽器でやろう」

「わかりました」


僕は楽器を椅子に立てかけるようにして置いて手を構える。ゆめみん先輩も楽器を置くと二人で手を叩き始めた。何回か試行錯誤し、手で合わせれた後は楽器で合わせる。これだけの作業で先程より良くなって聞こえていた。マーチのメロディーを抜けると再びリズムに戻る。リズムを合わせる練習を終えた後少し休憩を入れる。今回の休憩の時間もゆめみん先輩と少し話せて楽しかった。休憩が終わった後、二人で自由曲の練習をして午前は終わった。



午前の練習が終わった後は昼食の時間だ。みんなパートで集まって昼食を食べていたため当然チューバパートも三人で昼食を食べることになった。


三人で円型のテーブルに座り昼食を食べ始めて数分、驚くほどに会話がない。昼食を食べる前に三人でいただきますと言ったくらいだ。はっきり言ってめちゃくちゃ気まずい…え、やばいこれ、どうしよう…と考えていると及川さんが口を開いた。


「午前中は二人で合わせたりした?」

「はい。合わせました」


………会話終了。及川さんが出してくれた話題をゆめみん先輩は一瞬で潰してしまった。笑えねえ…本当に気まずい。周囲にチラチラと目をやると他のパートはとても楽しそうに昼食を食べていた。羨ましい…


「ゆめみんはさ、りょうちゃんのことどう思ってる?」

「いい子だと思いますよ。大人しくて気がきくし…あと、チューバの上達がはやいなぁ、って思います」


及川さんがゆめみん先輩に尋ねるとゆめみん先輩は少し考えてから答えを述べた。


「あー、たしかにりょうちゃん上達はやいよね」

「ゆめみん先輩や及川さんのおかげですよ」

「ゆめみんにりょうちゃんの練習任せてばかりで申し訳ないけど上達出来ててよかったよ。りょうちゃん練習ない日とかもホールで練習してるから努力が報われてるんだね。ゆめみんもりょうちゃんの面倒見てくれてありがとうね」


及川さんに上達したと言われて嬉しかった。ゆめみん先輩にもちゃんと上手くなっていると認められてすごく幸せな気分になっていた。


「りょうちゃんはさ、及川とゆめみん先輩のことどう思ってる?」


及川さんにそう聞かれて僕は少し考える。


「二人共優しくていい先輩だと思ってますよ。ゆめみん先輩は練習ない日も僕の練習に付き合ってくれたりしますし及川さんは忙しいのにいろいろとアドバイスくれたりしてくれて本当に感謝してます」


僕がそう言うと二人共少し嬉しそうな表情をしていた。その後、及川さんが強引にいろいろな話題を出しながら昼食の時間は進んでいった。そして昼食が終盤になった頃、及川さんは巨大な爆弾を投下してしまった。


「ゆめみんとりょうちゃんはさ、好きな人とかいるの?」


及川さんの質問を聞いて僕は凍りついた。ゆめみん先輩は僕がゆめみん先輩のことを好きなのを知っている。そんな状態なのにこの質問に答えろ。と…なかなかの鬼畜さだ。


「私はいないです…自分が恋愛とかそういうことをすることすら想像出来ないですし…」

「そっか、りょうちゃんは?」

「僕は………」


何て答えるべきか悩んだが僕は正直に答えることにした。


「います」

「へー、どんな人が好きなの?」

「かわいくて、優しくて、尊敬できる人です」


僕はチラッとゆめみん先輩の方に目を向けて答えた。僕の返事を聞いたゆめみん先輩は少し顔を赤くしながら一瞬僕と目が合い僕から目を逸らした。


「そっか〜ちなみにその人とは今どんな感じなの?」


完全な地雷発言だった。正直に答えたらゆめみん先輩にどう思われるかわからない。これ以上ゆめみん先輩と関係を悪化させたくないから慎重に答えようと僕は頭の中で及川さんの質問への返事を考えた。


「えっと、その、あまり良くはない、です…」


結局いい感じの返事が思い浮かばずに正直なことを言ってしまった。ゆめみん先輩は特に気にしてはいない表情だったが、ゆめみん先輩との関係が悪化しないことを祈ることしか出来ない。






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