第26話 合宿




六月中旬、コンクールまであと僅かとなった現在、合奏研の強化合宿が行われた。金曜日の授業後にホールに集まり楽器をトラックに詰め込んで近くの施設に移動する。金曜日の授業後から日曜日の夕方までの合宿の日程はほぼずっと楽器を吹きっぱなしだった。


宿泊施設への移動を終え全員でトラックから楽器を運び出し宿泊施設の講堂に持って行く。打楽器の運搬が大変だったが無事楽器の運び出しを終えてまずは晩御飯をいただく。


晩御飯を食べながら何度かゆめみん先輩と目が合うがお互い視線を逸らす。電車での一件から数週間が過ぎているが僕とゆめみん先輩は練習の時間以外は一切関わっていない。ゆめみん先輩は僕の個人練習にも付き合ってくれているのだが、練習以外のところでは全く僕に関わろうとしてくれない。僕の方から関わりたいがゆめみん先輩に嫌われていることを変に意識してしまい関われずにいる。結果、僕とゆめみん先輩の間には変な距離感が出来上がってしまったのだった。あの電車での一件から今までの間、しばっちさんや仲良くなった一年生たちが僕とゆめみん先輩の仲を良くしようとしてくれたがことごとく失敗に終わっていた。合宿の間、僕とゆめみん先輩はいつもより関わる時間が多い。ここでなんとかして僕とゆめみん先輩の仲を改善したいと思っていた。


夜ご飯を食べ終えた後、歯を磨いてそれぞれ音出しを始める。一日目はコンクールの曲の個人練習、パート練習の時間だった。今回の合宿ではコンクールで指揮を振ってくださる顧問の先生が日曜日にしか来れない。よって土曜日は学生指揮者の及川さんが合奏を担当することになっていた。よって、今日の個人練習、パート練習の時間、及川さんはスコアを使って明日、どのように指揮をするかを別室で考えていた。これから及川さん以外は金管楽器、木管楽器、打楽器とそれぞれの部屋に分かれて練習をする。


今日練習できる時間は二時間、いろいろなところで今日の練習をどうするか考えていた。例えばトロンボーンパート、トロンボーンパートは全員経験者のため他のパートよりパート練習が高度なものとなっている。


「今から三十分各自で基礎、それから三十分三人で基礎やって残りは曲練ね」


トロンボーンパートのパートリーダーの涼葉先輩がいーくんさんとゆうこちゃんにそう言うと二人は返事をしてさっそく基礎練習に取り掛かっていた。


そして、フルートパート、フルートパートは一年生が二人とも初心者のため最初から先輩と一緒に音出しをしていた。ホルンパートやトランペットパートもフルートパートと同じような形で練習を始めていた。


そして、チューバパートは………


ゆめみん先輩がさっさと楽器を出して練習を始めてしまったため僕はどうすればいいかわからずにいた。


とりあえず楽器をケースから出して基礎練習を始める。以前、ゆめみん先輩に教えてもらった基礎練習だ。まずはマウスピースでロングトーン、その後楽器をつけてロングトーン、そしてリップスラー、タンギング、その後は教本に載っているデイリートレーニングを行う。そしてその後にロングトーンをしながらクレシェンド、デクレジェンドの練習をする。それらの練習をしているとあっという間に数十分が経過していて気づいたらチューバパート以外の全てのパートがパート練習を始めていた。






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