第17話 嫌い。




「ほれ、ゆめみんはやくホール開けて」

「わかってるよ」


いーくん先輩に急かされながらゆめみん先輩はホールの鍵を開ける。ゆめみん先輩がホールを開けた後、僕たちはホールに入ってそれぞれ楽器を取りに行く。


「じゃあ、僕はホワイエで練習してくるから二人とも頑張ってね〜」


いーくん先輩はそう言い残して自分のトロンボーンを持ってホワイエに向かった。僕とゆめみん先輩はチューバを持ってホールの舞台に向かう。ホールの舞台の上で椅子を向かい合わせて座り僕とゆめみん先輩の間にメトロノームが設置される。


そして一限が終わるまでずっと練習をした。練習の内容はただひたすらにロングトーンをするだけだったが本当にあっという間だった。


「あ、もう時間だね。そろそろ終わろうか。ロングトーンも出来るようになったし明日の練習の時間はタンギングとリップスラーもやってみようか」

「はい。よろしくお願いします」


タンギングやリップスラーが何かはわからなかったが聞いている時間がなかったので明日詳しく聞くことにして僕は楽器を片付け始める。この時の僕は明日の合奏研の練習がすごく楽しみだった。


「あれ、りょうちゃん今から授業?」


楽器を片付けた僕に休憩に来たいーくん先輩が声をかける。


「はい。今から授業です」

「そっか、二限終わったらここで一緒にお昼食べない?ゆめみんも食べるでしょ?」

「うん。食べるよ」


せっかくのお誘いなので僕もいーくん先輩とゆめみん先輩にご一緒させていただくことにした。僕はホールを出て二限の授業に向かう。


お昼の時間が楽しみすぎるせいか二限の授業はとても長く感じた。二限の授業が本来の時間よりだいぶはやく終わったにもかかわらず僕は走ってホールに向かった。はやくゆめみん先輩に会いたかった。ゆめみん先輩と一緒にお昼を食べることができるのが本当に嬉しかったのだ。


あっという間にホールの前に到着して僕はホールの扉を開ける。ホールの中に入って通路を歩き舞台下手に繋がる扉に手を伸ばす。その時、僕の耳に声が入って来た。

「ゆめみんはりょうちゃんのことどう思ってるの?」


いーくん先輩の声だった。盗み聞きするのはどうかと思ったけどゆめみん先輩の答えが気になってしまい僕は扉から手を離す。


「うーん、苦手…かな……なんていうか距離感がよくわからないしLineと普通に喋ってる時じゃ人が違うみたいだし」


ゆめみん先輩の答えを聞いて受けた衝撃は僕の気持ちを地の底まで落とした。好きな人に苦手と思われてるという事実はかなりの衝撃だった。だが、これから受ける衝撃に比べればかなりマシなものだった。


「え、好きか嫌いかで言ったらどっち?」

「………嫌い」


ゆめみん先輩の答えを聞いた僕は慌ててホールから逃げ出した。ホールを飛び出して校内を走り回る。ゆめみん先輩の口から出された一言は僕を絶望させるには十分すぎるほどの破壊力を持っていた。苦しかった。ゆめみん先輩に嫌われているという事実を受け止めたくなかった。だって僕は……ゆめみん先輩のことが好きだから………


その後しばらくしていーくん先輩からお昼来なかったけど食べちゃった?とLineが来て僕はごめんなさい同じ授業を受けていた人と食べちゃいましたという嘘をついてしまった。






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