第13話 練習


「えっと、及川さんとどんな練習してた?」

「あ、はい。ロングトーンの練習をしてたのですがソの音が出なくて」

「えっと、Gの音が出ないんだね。じゃあ、出せるように頑張ろうか」


チューバにおいてソの音はGと言われる。Gはドイツ音名らしい…ずっとドレミファソラシドしか知らなかった僕にGとか言われてもわからん。


そしてその後、少し練習したがやはり無理だった。


「うーん、あ、ちょっと待ってて」


ゆめみん先輩は僕にそう言い残して倉庫の方に向かって行った。そして戻ってきたゆめみん先輩の手には可愛らしい人形が握られていた。


「ゆめみん先輩、それは?」

「昔、依頼演奏で幼稚園で合奏した時に使ったの、私がこの人形を持ってりょうちゃんの前に立つからりょうちゃんはこの人形に息を当てるつもりで吹いてみて」


ゆめみん先輩に言われた通り、人形に息を当てるつもりで下のB♭の音を鳴らす。そしてB♭の次の音であるCの音を吹こうとした時、ゆめみん先輩は一歩後ろに下がった。それを見て僕は人形に息が当たるように息の勢いなどを変える。その後、D・E♭・Fと続きいよいよGの音になった。ゆめみん先輩はまた一歩後ろに下がる。僕はゆめみん先輩が抱える人形に息を当てるようにチューバに息を吹き込んだ。すると、ようやくGの音が鳴った。たまに、違う音に変化してしまうが一応は鳴った。ゆめみん先輩は嬉しそうにしながらもう一歩下がろうとする。


「いたっ………」


一歩後ろに下がったゆめみん先輩は壁にぶつかってしまった。やっぱり一歩一歩が大きかったよな……言った方が良かったのかもしれないけど言えるような雰囲気じゃなかったしな……普通気づくと思うんだけどなんかおっちょこちょいでかわいいな……


「ゆめみん先輩、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫…それより鳴ったね!今のを忘れないようにしてね。あ、そろそろ時間だから戻ろうか」

「はい」


僕とゆめみん先輩は楽器を持って再び舞台に戻る。すでに他のパートの人たちは集まっていてチューバパートが最後だった。僕とゆめみん先輩が座ってから少しして及川さんが遅れてやって来た。


「よし、全員揃ったな、じゃあB♭音階最初から」


全員が集まって早々にB♭音階のロングトーンが始まった。全員の音が一斉に奏でられる。先程とは全く違う音があちこちから聞こえてきた。


「うん。まだ、マシになったな。やっぱり初心者は伸び幅が広い、簡単なことなら教えればすぐにできるようになる。初心者がどう育つか、それは先輩たちにかかってると思えよ」


召田先生はそう言ったあと細かいところを指摘していく、みんなかなりボロクソに言われて雰囲気は最悪だった。初心者がいるパートは重点的に指摘されて初心者にはとても耐え切れる状態じゃなかった。何人かは泣かされるくらいボロクソに言われている。


そしていよいよ矛先がチューバパートに向いた。


「チューバ、初心者は音が揺れすぎてるから気をつけろ。及川がいるから技術的なことはあまり言わない。おい、そっちの二年生」


召田先生は及川さんに一目置いているらしくチューバパートはあまり技術的なことは言われなかった。だが、その分ゆめみん先輩がボロクソに言われたのだった。


「音が聞こえない。及川の音がでかすぎるってのもあるけどあまりに小さいまだ初心者の方がマシなレベルだ。及川がいなくなったらお前が合奏を支えるんだからな及川に頼ってばかりいるなよ」


ゆめみん先輩は泣きそうになりながら黙って頷いた。


「ちゃんと声に出して返事をしろ。そんなんだから音がまともに出せないんだよ。わかったか」


ゆめみん先輩は小さな声で返事をしたがその後もいろいろなことを言われて傷ついているようだった。








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