第12話 悔しさ




「あー、もう!こうなるからあのじいさんのレッスンは嫌なんだよ」


楽器を持ってホワイエに到着して早々、及川さんはかなり不機嫌そうな態度を示した。


「りょうちゃん、こうなっちゃってごめんね。まだ、できないことは気にしなくていいからね」


不機嫌そうにしながらも及川さんの怒りの矛先は決して僕には向かなかった。もちろん、先程まで僕の練習を見ていてくれたゆめみん先輩にも向いていない。及川さんの怒りは召田先生や自分に向いているようだった。


「とりあえず練習しようか、指番号はもう覚えた?」

「はい、ゆめみん先輩からいくつかの音階の指番号は教えてもらいました」

「じゃあ、手本を吹くから続いて吹いてみて」


及川さんはそう言いながらマウスピースに口をつける。及川さんが吹いた音に続いて僕が吹くがやはりFより高い音は鳴らない。


その後しばらくしてFの音、そしてAの音とB♭の音は出せるようになった。


B♭音階は基本、B♭・C・D・E♭・F・G・A・B♭、という順番で吹いていく。何度やってもGの音が出ないのだ。


「及川…先輩、今から十五分間各パートで練習の時間みたいです。十五分後にまた舞台で集合です。あと、あーちゃん先輩が、呼んでました」


及川さんにそう言ったゆめみん先輩は顔に泣いた後が残っていた。よほど酷いことを言われたのかな…


「わかった。じゃあ少しだけ行ってくるからゆめみんはりょうちゃんの練習をしてもらっていい?」

「わかりました」


ゆめみん先輩の返事を聞いた及川さんはチューバをソファーに立てかけてあーちゃん先輩のもとに向かった。


「あの、ゆめみん先輩大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫、少し怒られただけだから…さ、練習しよ」


ゆめみん先輩は僕に心配をかけないように無理な笑みを浮かべて僕に言った。後で他のパートの人から聞いたのだが、ゆめみん先輩が僕にいろいろ教えてくれていたわけだが僕が吹けてなかったことについていろいろ言われて完全に萎縮していたゆめみん先輩に苛立ちを覚えたからかゆめみん先輩の人格まで否定されたらしい。その話を聞いて僕はゆめみん先輩に対してとても申し訳なくなってしまったのは数日後の話だった。







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