第11話 レッスン





「本日、練習を見てくださる召田先生です。普段はユーフォニアムのレッスンをみてくださっていますが、今日は全体をみてくださるそうなのでお願いしました。召田先生、よろしくお願いします」


全員が合奏の体型を整えたあとあーちゃん先輩が指揮台に立つおじさんを紹介する。見た感じの年齢は五十歳くらいだろうか、かなり有名なユーフォニアム奏者のようだ。その先生のレッスンのおかげかあーちゃん先輩と小さくて可愛らしい印象のゆな先輩はかなり上手だった。吹奏楽を始めてすぐの自分がここにいていいのか、という不満は残るが僕は黙って楽器を構えた。僕以外の初心者の一年生もみんな緊張しているみたいだった。それとは対照的に経験者の一年生や先輩たちは堂々と楽器を構えている。


「じゃあ、とりあえずB♭音階のロングトーン、八泊吹いて四泊休む。乗降して下降して」


召田先生は時間が惜しいと言わんがばかりに早口で指示を出してハーモニーディレクターを鳴らす。ハーモニーディレクター、通称ハモデはまあ、簡単に言うと電子キーボードだ。様々な楽器の音を出すだけではなく、ピッチの調整やメトロノームの機能、平均律と純正律をどちらも鳴らせるなどなどパート練習やチューニング、基礎練習などでかなり活躍してくれる。


召田先生が下のB♭の音を鳴らすとそれに続いて全員で音を奏でる。そして次の音、また次の音へ上がっていく途中、召田先生は強引に中断させた。


「バリサク、なんで音を鳴らさない」


召田先生は不機嫌そうに僕の前に座っていたバリトンサックス担当のふくくんに尋ねる。武田息吹、あだ名はふくくん、茶髪のおちゃらけキャラといった印象を抱いていたが接しているとかなりいい人で学部と専修が同じこともあり結構仲良くできていた。バリサク、というより吹奏楽初心者の彼は途中で止めてしまったことに罪悪感を覚えながら答えた。


「すみません、指がわからなくなりました」

「おい、先輩はなんでちゃんと教えてない、話にならん外で教えてこい」


召田先生が不機嫌そうに言うとサックスパートの三年生の先輩が慌てて立ち上がりふくくんを連れて舞台裏の控え室に向かった。


その後、トランペットの初心者の一年生二人とフルートの初心者であるりかちゃんも先輩とともに追い出された。


そして、いよいよ僕が追い出される番になった。先程から止めるたびに最初からを繰り返していたからよかったのだが、人が減るに連れて先に進むようになっていた。B♭音階で僕はFより高い音は出せない。Fの音の次の音をミスりその次の音も僕がミスったのを聞き合奏は中断された。


「おい、さっきから音違ってるけどお前も初心者か」

「はい」


僕は恐る恐る召田先生の質問に答えた。


「すみません、私が忙しくてあまり教えてあげられませんでした。今からちゃんと教えてきます。ゆめみん、りょうちゃんとホワイエで練習してくるから少し席を外すね」


及川さんがそう言うと召田先生は黙って出てけというジェスチャーをした。


僕がちゃんと吹けなかったことに罪悪感を覚えたからかゆめみん先輩が及川さんに謝っていた。


僕が吹けなかったのが悪いのに…ゆめみん先輩は自分にきちんと教えてくれたのに、ゆめみん先輩に頭を下げさせてしまったことがものすごく申し訳なかった。







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