第7話 楽器決め
新歓が終わった日の夜、僕はゆめみん先輩にLineをした。
Lineの内容は自分はチューバパートに入ることが出来るのかという単純な質問だった。それに対してゆめみん先輩はたぶん大丈夫だよ。と返事をくれた。
その後、安心した僕はゆめみん先輩とどうでもいいような内容の会話をした。すでに夜遅いのに全く眠れないくらい楽しいひとときだった。人と面と向かって喋るのが苦手な方な僕だがLineではちゃんと話すことが出来た。僕はずっとゆめみん先輩と話を続けてゆめみん先輩が眠くなってきたところで話をやめて眠りについた。
翌日、サークルの時間が始まるとともに一年生が控え室に集められた。
控え室には団長、副団長、指揮者、顧問の先生と一年生全員がホワイトボードに向かう形で座り団長がホワイトボードの前にたちホワイトボードに文字を書き始める。
「はい、皆さんまずは合奏研に入団していただき本当にありがとうございます。皆さんからいただいたパートの希望表を見てこちらで皆さんのパートを決めさせていただきましたので発表させていただきます」
団長のあーちゃん先輩がそう言いながら机の上においてあった紙を持ちホワイトボードに次々と文字を書いて行く。
合奏研に入団した一年生は十一人、それぞれが希望した楽器を扱えるといいのだがそうなる可能性はかなり低いがもし少しでも可能性があるのならその可能性を信じたい…
サックスパート(バリトンサックス)・・・ふくくん
チューバパート・・・りょうちゃん
トロンボーンパート・・・ゆうこちゃん
クラリネットパート・・・ぐっさん
パーカッションパート・・・かいくん、ゆうくん
トランペットパート・・・ゆいちゃん、まさとくん
フルートパート・・・だいちくん、りかちゃん
保留・・・さほちゃん
ホワイトボードに記された文字を見て喜ぶ者と落ち込む者…そして絶望する者がいた。
「かいくんとまさとくんには申し訳ないけど第二志望の楽器でお願いします。そしてさほちゃんには申し訳ないけどフルート以外の楽器で…できれば経験のあるパーカッションをお願いしたいんですけど…」
「…………」
あーちゃん先輩の言葉を聞いてもさほちゃんはまだフルートを諦め切れていないようだった。
「……どうして、フルートじゃないんですか」
さほちゃんは震えながらそっと今の気持ちを言葉にする。
「人数の関係上仕方なく…」
「どうして私なんですか…」
あーちゃん先輩が申し訳なさそうにいうのをさほちゃんは大声で遮った。さほちゃんの声を聞いて、涙を見て、その場にいた全員が驚き、僕はさほちゃんに同情した。だが、僕にはどうしようもできない。
「どうして私なんですか…私じゃなくてだいちくんやりかちゃんが他の楽器という選択肢もあったはずです。どうして…どうしてですか…私がパーカッションの経験者だからですか…」
さほちゃんは泣きながら震える声であーちゃん先輩に尋ねる。
「悪いけどだいちくんとりかちゃんを選んだのは私よ。あーちゃんを責めるのは間違ってる」
控え室に入ってきたフルートの先輩、咲先輩がさほちゃんに向かって言う。
「さほちゃんには悪いと思うけど合奏のバランスを考えるとフルートは新しく二人いれば十分、その中で経験者のだいちくんは選んで当然だと私は思うしさほちゃんよりもりかちゃんの方が才能が上だと感じた。だから申し訳ないけどさほちゃんには他のパートに行ってほしい」
咲先輩は真剣な表情でさほちゃんを見つめる。冷え切った空気になり、緊張が走る中、さほちゃんは怯むことなく口を開く。
「才能…プロでもない先輩に人の才能がどうとか言える資格はあるんですか…」
大人しそうな性格のさほちゃんは先輩を相手に一歩も引く姿勢を見せなかった。その瞳に涙を溜め震えながら先輩に訴えかける様子からさほちゃんがどれほどフルートを吹きたかったのかが伝わってくる。
才能があるかないか、咲先輩にとってそのようなものはどうでもよかった。正しい努力をすれば誰もが上達する可能性があることを咲先輩は自身の経験から知っているから。だから咲先輩はさほちゃんにフルートを吹かせてあげたかっただが、部のことを考えさほちゃんには申し訳ないがきつく言ってでもフルートを諦めてもらおうと考えていた。自分は悪者で構わない少しでも部の音楽が良いものになるのなら悪者になる覚悟だった。
「資格があるかないかを聞かれたら私には資格はないと思う。でも私はずっとフルートを吹き続けてきた。少なくともさほちゃんよりかは正しい選択ができると思う」
「っっ…」
咲先輩とさほちゃんのやりとりはとても苦しいものだった。特にあーちゃん先輩や顧問の先生、上級生たちにとっては…
みんな咲先輩が必死に三人にフルートを吹かせてほしいと懇願していたのを知っているから…
「とりあえずさほちゃんは今からいろいろなパートを見て回ってくれないかな?他の一年生はそれぞれのパートに行って先輩たちと練習してきてください」
あーちゃん先輩の指示を受け控え室からさほちゃん以外の一年生はいなくなった。
「あ、りょうちゃん、悪いけど指揮者としてやることがあるからゆめみん先輩に色々教えてもらってね」
「はい。わかりました」
及川さんに返事をして僕はゆめみん先輩が練習している場所に向かった。
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