第8話 憧れの音
「ゆめみん先輩、及川さんにゆめみん先輩に教えて貰うように言われたのですが…」
僕がいつも通りホールの倉庫で練習していたゆめみん先輩に声をかけるとゆめみん先輩は慌てて楽器を置いて立ち上がった。ゆめみん先輩はパート練の時以外は基本倉庫に閉じこもって練習している。狭くて蒸し暑い部屋なのにきつくないのかな…
「りょうちゃんチューバパートに決まったんだね。おめでとう。これからよろしくね。一緒に頑張ろう」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあまずはりょうちゃんの楽器を選ばないとね」
「いくつか種類があるんですか?」
「うん。二つ余ってるよ。ちょっと待ってて、今から出すから」
ゆめみん先輩は僕にそう言い、楽器庫の奥からチューバケースを取り出した、
「開けてみて」
僕はゆめみん先輩に言われたとおりにチューバケースを開く。中にはピストン式のチューバが入っていてとても綺麗な輝きを放っていた。
「それはピストン式のチューバでね。ユーフォニアムみたいな感じの吹き方をするんだ。そしてもうひとつが体験の時にりょうちゃんが使ってたこの子だよ」
ゆめみん先輩がどでかいチューバケースを僕の前に置く。すごく綺麗なロータリー式のチューバが入っていた。
「どっちのチューバがいい?」
「えっと、こっちのロータリー式のチューバがいいです」
「わかった。この子ね。昨日私がちゃんと手入れしておいたから今はすごく吹きやすいと思うよ。今度手入れの仕方とかも教えてあげるね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、練習しようか、その子を持って上手で待ってて、すぐに行くから」
「わかりました」
僕はチューバを持って上手に向かいゆめみん先輩と僕の椅子を用意してゆめみん先輩を待つ。ゆめみん先輩が来るまでの間、僕はチューバの名前を考えていた。楽器に名前をつけるのはゆめみん先輩いわく当然のことらしい。ゆめみん先輩のチューバはチーズと言う。僕のチューバの名前は…どうしよう………うーん。バターとか?バター…うん。なんかいい感じだしバターにしよう。
「遅くなってごめんね。はい、これあげる」
ゆめみん先輩はそう言いながら一冊の本を僕に渡す。
「えっと、これは?」
「チューバの教本だよ。私は大体覚えちゃったから見る機会あまりないし、私のお古だけどもしよかったら使ってね…」
「ありがとうございます」
僕はゆめみん先輩から教本を大切に受け取る。教本にはゆめみん先輩の文字でいろいろ書かれていた。なのにすごく綺麗で、ゆめみん先輩が大切に使い続けてきたのだろうということがよく伝わってきた。
「あと、これもあげるね」
ゆめみん先輩は自分の楽譜ファイルからいくつかのプリントを取り出して僕に渡す。
「今年の課題曲の楽譜とした方がいい基礎練習をまとめたやつね。私と及川さん二人ともいなかった場合はそのプリントに書いてあることを個人基礎の時間にやってね」
「わかりました。ありがとうございます」
ゆめみん先輩の手書きで書かれたこのプリントには何度も消した跡があり僕のためにわざわざ基礎練習のメニューを考えてくれたのがすごく嬉しかった。あと、ゆめみん先輩字がめっちゃ綺麗…羨ましい……
「あと、そのプリントに書いてあることが終わって時間が余ってたらさっきあげた教本にあるデイリートレーニングをやるのもおススメだよ」
「わかりました」
僕はゆめみん先輩に言われたことを忘れないようにメモ帳に言われたことを書き込んでいく。
「まあ、そのプリントに書いてあることとデイリートレーニングはまだ難しいだろうからまずはしっかりと音をならせるようになろうね」
「はい」
僕はまだチューバの音を全然鳴らせなくて基礎的な音階もできないレベルだ。頑張って、早く上手くなりたい。そして、今、横にいる人みたいに綺麗な音を鳴らしたい。
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