第3話 運命の出会い
「だいち、一年生連れてきたよ」
「あのさ…俺一応先輩だから一年生の前では先輩ってつけてくれない?」
「だいちはだいちだからいいの、じゃあよろしく」
あんちゃんさんはだいちさんにそう言い残してパーカスの練習場所に戻って行った。やっぱりあんちゃんさん少し怖い…さっきのやりとりを見た感じだいちさんは三年生、あんちゃんさんは二年生なのだろう。だいちさん立場低いのかな…いや、あんちゃんさんが強いだけか…
「さて、サックスやりたいんだって?ソプラノサックスとアルトサックス、テナーサックス、バリトンサックスがあるけどどれがいい?」
「えっと、バリトンサックスをやってみたいです」
「お、まじかちょうどバリサクやってる人がいないから助かるよ」
だいちさんはそう言いながらバリトンサックスを楽器ケースから取り出して僕に渡す。重い…バリトンサックスを持った僕の首にバリトンサックスの重みが加わる。
「重いです…」
「まあ、バリサクだからね…とりあえず吹いてみなよ」
僕はだいちさんに言われた通りバリトンサックスを構えてリードを口に加わる。うげぇ……リード独特の木の味が舌に伝わりなんか嫌な感じになる。アイスの棒を加えてるような気分になりながらも僕は息を吹き込む。
「指はリコーダーと同じだからいろいろ試してみて」
だいちさんに言われた通りリコーダーの運指を思い出しながら僕は息を吹き込む。スカスカな音だがちゃんと音は鳴っている。
「お、いい感じじゃん」
だいちさんはそう言いながら自分のアルトサックスを手に持ち真似してみてと言いながら手本を見せてくれる。
数十分バリトンサックスを吹いていると首がかなり痛くなってきた。それをきっかけに僕は他のパートを回ることにした。
「あれ、りょうちゃん今から移動?よかったらユーフォパートに来ない?」
だいちさんと控え室を出た僕にあーちゃんさんが声をかける。せっかくだからユーフォ二アムパートに行ってみることにした。
「はいこれユーフォ二アムのマウスピースね。ユーフォ二アムのマウスピースはトロンボーンと大きさが同じなんだけどまだトロンボーンパートには行ってないんだよね?」
「はい、まだトロンボーンパートには行ってないです」
「なるほど、了解!じゃあまずはマウスピースだけでやってみようか。あ、その前にバジングをやっておこう。私の真似をして唇を振動させてみて」
僕にそういうとあーちゃんさんはバジングをして見せる。僕も真似してやってみるが全然上手くできない。
「バジング難しいよね…じゃあマウスピース使ってみようか。マウスピースがあればちゃんとできるって人は結構いるから」
僕はマウスピースを口につけて唇を振動させる。
「お、ちゃんと鳴ったね。ちなみに上手くなればマウスピースだけで曲を吹けたりするんだよ」
あーちゃんはそう言いながら簡単な曲をマウスピースだけで演奏してくれた。めちゃくちゃ上手い…
「じゃあそろそろ楽器につけてみよう」
あーちゃんさんはそう言いながら側に置いてあったユーフォ二アムを僕に渡して持ち方を教えてくれた。そしてあーちゃんさんも自分のユーフォ二アムを持って椅子に座る。
「とりあえずピストンを押さずに吹いてみて、こんな感じの音が鳴らせれば理想的かな」
あーちゃんさんはそう言いながら手本の音を吹いてくれる。すごく綺麗でまっすぐ伸びる音だった。僕はあーちゃんさんの音をイメージして楽器に息を吹き込んだ。
「「………………」」
あーちゃんさんの鋭く伸びる音とは違いかなり鈍った重い音が鳴った。
「え、なんかすごく低い音でてるね…ユーフォでこんな音鳴るんだ…ちょっと鳴らし方教えて欲しいかも……」
あーちゃんさんが僕の音を聞いてそう呟く。ぶっちゃけかなり低い音だった。僕もユーフォ二アムでこんな音が出るんだと思ってしまった。その後何度か試したがずっとその音しか出なかった。
「うーん、りょうちゃんチューバ向いてるかもよ。ちょっと試しにチューバパート行ってみよう」
「あ、はい…」
ぶっちゃけこんなユーフォ二アムの音を聞きたくないので僕は喜んでユーフォ二アムパートを後にした。僕がユーフォ二アムをやったら『響かない!ユーフォ二アム』になってしまうな……
「及川君、及川君チューバ体験したいって子連れてきたよ」
「あーちゃん、ありがとう!まじでありがとう!」
「ユーフォでめっちゃ低い音出せてたからたぶんチューバに向いてるよ」
「まじか、それは楽しみだわ」
「じゃあ私は戻るからりょうちゃんのことよろしくね」
あーちゃんさんはそう言い残してユーフォ二アムパートの練習場所に戻って行った。チューバパートの練習場所は舞台の上手だった。下手側でパーカスが練習をしてるため結構うるさい。
「えっと、りょうちゃんだっけ?さっそくチューバ吹いてみようか、この楽器使っていいからさ」
及川さんは嬉しそうに僕の前に楽器を置く。さっきから思っていたのだが及川さんちょっと怖い…別に顔が怖いとかそういうわけではないのだがオーラ?が怖い…プレッシャーを放っているというような感じだ。
「チューバ重いですね」
「うーん、まあそのうち慣れるよ。とりあえず試しに吹いてごらん」
僕は及川さんに言われた通りチューバに息を吹き込む。
「………まじか」
及川さんは僕の音を聞き引きつった笑みを浮かべていた。え、そんなにひどい音だったのかな…
「ゆめみん、ゆめみん、今の聞いた?この子いきなりpedalB♭でたよ。すごくない?」
及川さんが端っこでチューバの手入れをしていた女性に声をかける。短い黒髪を1つに縛った白い肌、すごく、優しそうで可愛らしい女性だった。もしかしたら、一目見たこの時にはすでに………
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