第2話 強制連行




入学式の翌日、その日は朝から新入生ガイダンスがあり午後からはサークル展示会があった。またあのキャッチセールス地獄が始まるのである。


「ねえねえ、ラグビーに興味ない?」

「興味ないです」


見ず知らずの人とはいえ先輩に対してこの返事はどうかと思ったがこうやってはっきりと言った方がしつこく勧誘されなくて済むのだ。


「へい、そこの少年、合奏研に興味ない?」


ラグビーサークルの勧誘を切り抜けた僕にかなりぽっちゃりした男性が話しかけてくる。なんかどこぞのマスコットキャラクターみたいだな…


「ちょっといーくん、もっとちゃんと勧誘しなさいよ」


僕に声をかけてきた男性にちょっと押しが強そうな感じの女性が言う。


「急にごめんね。私は清水綾、合奏研でフルートやってるんだけど、合奏研に興味あったらりしない?」

「え、えっと…」


押しが強くて僕が反応に困っていると女性は僕の手を掴み…


「とりあえずホールに行こうか!」


と言い僕を強制連行する。


「ごめんね。綾先輩結構強引な人だから…」

「いーくん、うるさい」

「ごめんなさい…」


綾さんに睨まれてあっさりと黙ってしまういーくんさん、綾さんちょっと怖い人かも…


「そういえばまだ名前聞いてなかったね。聞いてもいいかな?」

「あ、はい。桐谷亮太と申します」

「亮太か…じゃあ、りょうちゃんでいいか、りょうちゃんは楽器の経験とかあるの?」

「えっと…ピアノを少しだけやってました。ピアノ以外の楽器はやったことすらないです」

「そっか〜初心者でも丁寧に教えるから大丈夫だよ〜フルートどう?フルートやってみない?」

「えっと…考えてみます……」


そんなやりとりをしている間に合奏研が練習しているホールに着いた。かなりしっかりとしたホールで入って結構びっくりした。


「あーちゃん、一年生連れてきたよ〜」

「あ、綾ちゃん。おつかれ様〜いーくんもおつかれ〜じゃあこの子の案内は私がやるから二人はまた外お願いね」

「はーい、じゃありょうちゃんまた後でね。フルートおすすめだよ」

「トロンボーンもよろしく」

「いーくん。せっかくの一年生を取ろうとしないで〜」


そんなやりとりをしながら綾さんといーくんさんは再びホールの外に行ってしまった。


「えっと、りょうちゃんだっけ?私は合奏研団長の天谷よしな、みんなからはあーちゃんって呼ばれてます。よろしくね」

「はい。桐谷亮太と申します。よろしくお願いします」


あーちゃんさんはすごく優しそうで穏やか感じの印象だった。


「えっと…じゃあ楽器体験をしてもらおうかな。何かやってみたい楽器はある?」

「えっと…特にないです…」


ぶっちゃけ楽器の種類すらまともに知らない可能性があったのでとりあえず希望なしにしておいた。


「じゃあこの子パーカスがもらってくけどいいですか?」


あーちゃんさんの横に現れた女性があーちゃんさんに声をかける。ちょっと小柄だけど明るくて元気いっぱいって感じの女性だった。


「うーん、希望パートないみたいだしとりあえずパーカス連れてってあげて、よろしくねあんちゃん」

「はーい、じゃあ行こうか」


僕はあんちゃんさんに連れられてホールのステージに向かう。ステージの端っこにはたくさんの打楽器が置いてあったがドラム以外は何かわからなかった。


「とりあえずスネアからやってみようか、叩いてみて」


僕はあんちゃんさんからスティックを受け取り適当に叩いてみる………難しいなこれ……


「このテンポで叩いてみて」


あんちゃんさんがそう言いながら僕の腰をスティックで軽く叩く。あんちゃんさんが刻むテンポで僕もスネアを叩く。すると先程までとは全く違いテンポよく叩くことができた。でも痛い…腰が…


「さて、じゃあそろそろ他のパート回ってもらわないと…何かやってみたい楽器とかないの?サックスとかフルートとかユーフォとかさ」

「えっと、サックスやってみたいです」


実は興味を持っていたサックス、是非やってみたい、そう思い僕はあんちゃんさんに案内されてサックスパートが練習してるホールの控え室に向かった。






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