夢海の景色
りゅう
第1話 夢海の景色
無数のスポットライトを浴びてまるで自分が世界の中心になっているような感覚に襲われる。いや、今この瞬間だけは自分たちがこの舞台の主人公だろう。
去年までの自分では想像もつかないような景色…眩しすぎる照明に包まれたくさんの観客の視線を集めて楽器を演奏する。
コンクールという舞台は自分にとって夢のような景色だった。
自分たちに与えられているのは本当に僅かな時間だった。この僅かな時間は本当にあっという間で気づくと自分は夢から覚めていたのだった。
いつまでもこの景色を…この夢を見ていたいと思ったがその夢は時間にして僅か十数分で終わる。
この夢の景色は一瞬しか味わえない特別な景色なのだ。
「お前が栖鳳大学を受験する?うーん、確かにお前の夢を叶えるなら栖鳳大学はお前にとって最高の大学だけど…ぶっちゃけ落ちるぞ」
高校の進路相談で担任の先生から突きつけられた現実、ぶっちゃけ栖鳳大学に受かるとは自分でも思っていないがこうもはっきりと言われるとかなりショックだ。
「まあ、お前がどうしても受験したいというならとめないけど滑り止めで菊花大学を受験したら?」
「え、でも…」
「お前が数学の教師になりたいのは知ってる…だけどな夢を全て完璧な状態で叶えるのはかなり大変だぞ…菊花大学は小学校の教員免許と中学の社会の教員免許を取れる。お前は理系なのに社会の成績もいいから中学の社会の教員も目指せるはずだ」
先生が言っていることは正論だった。現状、栖鳳大学は受かる確率がかなり低いが菊花大学はかなり高い判定が出ている。
「わかりました。菊花大学も受験します」
僕は先生にそう述べて職員室を後にした。先生が言っていたことは事実だ。菊花大学に行けば数学の教師になるという夢は叶わないが教師になるという夢は叶う。夢を完全な形で叶えるにはかなりの努力が必要、高校三年の秋、僕は全く努力をしてこなかった。だから僕に夢を完全な形で叶えたいと言う資格はないだろう。だから僕は先生の提案をあっさりと受け入れて菊花大学を受験すると決めたのだった。
こんなことになるならちゃんと努力すればよかったな…と今更後悔しても遅い。僕は今、自分が持っているなまくらな武器を鍛えて受験を戦う以外の選択肢はないのだ。周りの受験生たちは僕なんかよりもずっと前から研ぎ澄ませている武器を持っている。そんな連中がたくさんいる戦場に僕は放り込まれたのだった。
結果はもちろん惨敗だった。栖鳳大学だけでなく第二志望の大学にも落ちて受かったのは菊花大学と興味のない大学だけだった。ぶっちゃけ僕は菊花大学も落ちたと思っていたので菊花大学に受かった時は本当にホッとした。これで教師になる夢を諦めずに済むと……
菊花大学合格の通知を受けてから一ヶ月と少し…僕は菊花大学に入学した。
自宅から電車で約1時間半駅を降りてすぐの場所に大学の門があり門をくぐると巨大な坂道があった。受験の時も思ったのだがこの坂かなりきつい…長い坂の途中には様々なサークル勧誘の看板があり坂を登りきったところにはたくさんのサークル勧誘の人々が待ち構えていた。
「バスケサークル入りませんか?」
「バレボールサークル楽しいですよー一緒にバレボールやりましょう!」
………ぶっちゃけ駅とかののキャッチセールスよりしつこいな。
僕は次々とやってくるキャッチセールスマン…もといサークル勧誘の波を押し切り入学式会場の体育館にたどり着いた。
入学式は大体一時間くらいで終わった。学長の長い話や市長さんからの祝辞の代読とありきたりな入学式だった。
入学式の最後には僕たちの入学祝いにと吹奏楽サークル、合奏研のミニコンサートがあった。多くの人に楽しんでもらえるようにと有名な曲をたくさん集めていた。合奏研の演奏を聴いた僕の感想は下手ではないけど上手くもないという感じだった。
まあ、合奏研に興味はなかったのでこの時の僕はあっさりと聞き流してしまっていた。
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