2/17『演説×こちょこちょの刑×人形』

お題『演説×こちょこちょの刑×人形』

プロット

序:バレンタインデーまでに彼氏が欲しいと女の子が演説「失敗したらこちょこちょの刑にしていいよ」

破:三人の女の子であーでもないこーでもないと作戦会議

急:人形型のぬいぐるみみたいなチョコをプレゼントするってことに。


「諸君! 決戦の日は近い! 我々は聖戦に挑まねばならぬ!

 そう、これは聖戦。

 男と女の愛を賭けた聖なる戦い!

 恋せよ乙女。

 その秘めたる思いを発露せよ!

 大和撫子は告白するのは無粋?

 馬鹿言っちゃいけないね!

 今は女が男を狩る時代!

 ただ、あんまりおおっぴらにやると外野がうるさいだけ!

 それでも、そう、聖ヴァレンタインこそは自由。女は幾らでも攻めてオッケーなのだだだだだ!」

 茶髪の少女の言葉に残り二人の女子高生がふーん、と気のない返事をした。

 放課後の教室で三人の女子高生が何をするでもなくダベっていた。

 三人ともとくに部活に入っておらず、かといってすぐに家に帰るのもなんだかなぁ、と思い放課後の教室でダラダラしているのである。喫茶店に行っても良いが、今はちょっと懐が厳しいのだ。

「……で、狩る相手いるの?」

「え?」

 演説をしていた茶髪の少女がきょとんとする。

 メガネの少女が呆れた顔をする。

「告白する相手のこと。いるの?」

「……それが、不思議なことにこのクラスの男どもはみんなガキンチョで」

「はぁい、解散。告白相手もいないのにヴァレンタインデーも何もないでしょ」

「ぐぐっ」

「そもそも、そんなに彼氏欲しいの?」

 ぼさぼさ髪に垂れ目の少女がふわぁぁ、と眠そうな声を出す。

「彼氏なんて面倒くさいものにとらわれたくないねぇ。私はずっと寝ていたいねぇ」

 そんなぼさぼさ髪の少女の言葉に茶髪の少女とメガネの少女はえっ、と言う顔をする。

「リッチャン。あんた毎日一緒に登校してる幼なじみは?」

「そうそう。いつも昼ご飯に弁当作ってきてくれるあの幼なじみは?」

 二人の友人の追求にぼさぼさ髪の少女――リッチャンは首を傾げる。

「ただの幼なじみだけど?」

「ざっけんなよ! どう見ても付き合ってるじゃん!」

「そうでなくても、あの男の子絶対リッチャンのこと好きじゃん!」

「んー、そうかもぉ」

「うわぁぁん! 勝者の余裕! ずるくない?」

「え、ちょっ、疑問なんだけど、毎年ヴァレンタインデーの時はどうしてるの? リッチャンチョコあげてるの?」

「んーん? そんなことしてないねぇ。カーくんが毎年私の名前入りの手釣りチョコをプレゼントしてくれて、私はそれを食べてるだけ」

「うわぁぁぁぁ! リア充だ! 彼氏なんていらないって言いながらこの子、彼氏持ちじゃないの!」

「ズルい。あまりにもズルい話だわ」

「んにゃー、カーくんとは夫婦みたいなもんだし。カーくんは私の嫁よ」

 リッチャンの大胆な発言に残る二人は声も出なくなる。

 付き合う付き合わないなどの次元を彼女はとうに過ぎているのだ。

「ううう、キィちゃん。私はもう心が折れそうだよ。リア充の溢れる幸せオーラに溶けて消えてしまうよぅ」

 茶髪の少女の言葉にメガネの少女――キィちゃんは机を叩く。

「ばっか! ヴァレンタインデーが戦いの時だ! とか言ってた奴が始まる前に溶けて死ぬな! せめて玉砕してから死になさい!」

「ちょっ! なんで玉砕前提なのさ! 絶対に勝つっての!」

 茶髪の少女の言葉にキィちゃんはメガネをくいっと押し上げつつ笑う。

「ほう。そもそも告白相手も居ないのによくもそんな大口を叩けたものね」

「私はかわいいもん! 私から告白すれば絶対に男の子はうんって言ってくれるもん!」

 茶髪の少女の言葉にキィちゃんとリッチャンは顔を見合わせる。

「どう思う?」

「まあ、ユーキチは美少女だから性格知らない子ならだませるんじゃない」

「確かに」

「ちょっとぉ! 二人ともなんで私の性格が最悪という前提で話してるのよ!」

「……それは」

「…………私達の口からはねぇ」

 意外とマジなトーンな友人二人の言葉に茶髪の少女――ユーキチはがぁんと涙目になる。

「なになに? その扱い! ひどくない!?」

「まあ、可愛いのは確かだから適当な男子の腕くんでおっぱい押しつけたらほとんど勝てると思うよ」

「うん、ユーキチなら余裕。失敗したらこちょこちょの刑をしてもいいよ」

「うぐぐぐ、言葉の表面だけで言えば誉めてくれてるのに全然嬉しくない! むしろ泣きたい!」

 両手で頭を抱えてうがぁぁぁ、と暴れ回るユーキチ。

「こう、美少女なのにマンガみたいなオーバーリアクションなの良いよね」

「分かる、見てて楽しい」

「珍獣のレビューみたいな評論やめて!!! 美少女ならもっと美少女らしい扱いをして!?」

 ユーキチの言葉にリッチャンとキィちゃんは見つめ合い、考える。

 そして同時に答えた。

「「無理」」

「ぬわぁんで!!」

「いや、話が逸れてるから戻すけど、まずは告白相手決めよう。誰か好きな人、と言わないまでも気になってる男の子はいないの?」

 キィちゃんの建設的な意見にユーキチは唸る。

「うぅん。いや、まぁ。うん。気になる人。そうね。先輩。そう、三年のえっと、ほら、陸上部のエースの人」

「接点あったっけぇ?」

「毎朝電車で同じ車両にいるからねー。ちょっと気になってる」

「へぇ、そうなんだ」

「毎朝、綺麗な彼女連れてるなぁって」

「彼女いるじゃんっ! ダメじゃん! というかそれ気になってるの意味違うじゃん!」

「もう、私帰って寝ていい? バカバカしくなってきた」

「リッチャンはいつも寝たいだけでしょっ!」

 ユーキチのあまりにも恋に恋してまったく具体性のない話に友人二人も流石に付き合ってられなくなる。

「というか、キィちゃんはどうするの?」

「え?」

「キィちゃんは誰かに本命チョコあげないの?」

「別に。私はいつも通り友チョコ・義理チョコを配るだけだけど」

「……隣のクラスの子にも?」

「いや、隣のクラスの子には流石にあげないけど」

 ポーカーフェイスを保つキィちゃんの脇腹をちょんっとユーキチはつつく。

「うっそだぁ。あげるんでしょ、あの、同じ図書委員の、あの子にっ」

「あーげーません。あの子はチョコ嫌いだからね」

「チョコが嫌いなところまで把握してるんだ」

「うっ!」

「聞きまして、リッチャン。キィちゃんもこう見えてなかなか隅に置けない女ですよ」

 めらめらと嫉妬の炎を燃やしながらユーキチがリッチャンに話を振る。

 が、リッチャンは朗らかに笑った。

「じゃ、彼氏いないのユーキチだけになるね」

「……うっ」

「別に、私のは仲のいい男友達なだけだけど、そういうことになるわね」

「ぐはぁっ」

 ユーキチは膝から崩れ落ちる。

「酷い。二人ともずっと仲の良い友達だと思ってたのに、二歩も三歩も先を進んでいたなんて。いつの間に私を置いてけぼりにしていったの?」

「私とカーくんの付き合いは幼なじみだから二人より付き合い長いけどねぇ」

「うるさーい! のろけで返答するな! 私が惨めさで死んでしまうでしょっ!」

 三人の中では一番の美少女なはずなのにユーキチはどうにもモテない。

「うう、どうすれば……」

「というか、ホントにまずは好きな人を見つけなよ。で、その好きな人の人形みたいな、ヒトガタのチョコレートとかクッキーをプレゼントすればいいと思うよ」

「そっか。キィちゃんはそうするのね」

「まあ、そうするよ」

 もはや開き直ったのかヴァレンタインの予定を語るキィちゃん。

「でも、うう……正直私が好きになるタイプの男の子って分からない。彼氏は欲しいけど、好きな男の子が出来ない」

「もしや、女の子が好きなタイプとかぁ?」

「んー、それは違う感じ」

 頭を抱えるユーキチに友人二人は肩をすくめる。

「あんまり偉そうなこと言えないけど、それなら無理に恋人作ろうとしなくていいと思うよ」

「え」

「そうそう。まずは誰かを好きになってから、告白を考えれば良いんだから。それまでは今まで通りのユーキチでいいと思うよぉ」

 友人二人の言葉にユーキチは我が意を得たりと返事をしようとし――正気に戻った。

「でも、二人とも相手いるじゃんっ! お前らが言うなぁああああああああ!」

 がっ、と鞄を掴んでユーキチは泣きながら教室を出て行った。

「そんなこと――」

「――言われてもねぇ」

 残された二人は顔を見合わせる。

 結局、ヴァレンタイン当日に、ユーキチは友人二人にチョコを渡して終わるのだった。




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