2/16『馬刺し×ガムテープ×ぱんつ×赤提灯×冥王星』
お題『馬刺し×ガムテープ×ぱんつ×赤提灯×冥王星』
プロット
序:遂に始まった高級馬刺しを賭けた戦いが。冥王星の力を持つ女の子とぱんつの力を操る男の子が激突。
破:女の子の攻撃で男の子が怪我をして、ガムテープで無理矢理治療
急:戦う二人だったが、赤提灯のレッドカードで両方退場
「レディース&ジェントルメン! 異種格闘大会"馬刺杯"もついに決勝戦となりました。
数々の戦いを繰り広げた猛者達の頂点がいよいよ決まろうとしています!」
実況が格闘大会の決勝戦を盛り上げ、会場のボルテージを上げていく。
「赤コーナーは冥王星の力を操る、プルートーバトラーこと野々垣メルト! そのすさまじい冥王星の力でついに決勝戦まで上ってきました! 彼女の力ならばもしや初の女性チャンプもありえるでしょう」
実況の言葉と共に赤コーナーより茶髪のロングヘアの女子高生が現れ、一足飛びにリングサイドからリング上へと飛び上がった。その驚異的な身体能力は誰が見ても圧倒的なものである。
「悪いけど、優勝賞品の高級馬刺しは私が貰うわ」
じゅるり、と口元に垂れたよだれをさっとぬぐう野々垣メルト。
「対するはぁぁぁ! 青コーナー! パンツがあればなんでも出来る! 脅威のぱんつ使い! ハンツ・クルートーだぁぁぁ!」
青コーナーから現れたのはこれまた格闘大会には似つかわしくない小柄な少年だった。
ハンツ・クルートーと呼ばれたアジア人らしき少年はにやにやと笑いながら入場すると、ぱんっ、と謎の破裂音と共に跳び上がり、あっという間にリングサイドからリング上へと飛び乗った。
両者ともにスカートをはいた異様な風景である。
そう、ハンツは少年にもかかわらず、セーラー服を纏う戦士だった。
「まさか、決勝戦が二人ともセーラー服を着ているとは、因果な運命ね」
「いや、どんな運命だよ。ただの偶然じゃねぇの」
冥王星パワーを持つ女子高生のマイクパフォーマンスを冷たく流すハンツ。
「言っておくが、俺は相手が女だって容赦はしないぜ」
「……ふん、おかしな格好は女装だけにしてよね」
「てめぇだって女装してるだろうが!」
「女が女装するのは普通でしょ!」
カァァン
二人の舌戦に呼応するかのように戦いのゴングが鳴る。
それと同時に二人はにらみ合ったままぴたりと動きを止めた。
「あーーーーっと! これはどうしたっ!!! 互いに見つめ合ったまま動かなくなったぞ! 解説の中原さんこれはどういうことでしょうか!?」
「ええ、互いに相手の力は未知数。どんな力を使うのか出方をうかがっているのでしょう」
「なんと! 決勝戦にもかかわらず、互いに相手の手口が不明! 故に探り合いとなっております!」
「よく分かんないですからね、冥王星の力って。なんなんでしょうね」
「今更そこをツッコむんですか、中原さん!」
「なにせ、今までの対戦相手、すべての冥王星の力が何かを解明することなくあっさりと負けてますからね」
「ふがいない! ふがいないぞ準決勝までの対戦相手! まさに未知の冥王星パワー。一体どんな力が秘められているんだぁぁぁぁ!」
「たぶん、カバラ魔術系の、秘数術を応用したものだと思われますが」
「え? なんですかそれ。初耳なんですが」
「カバラをご存じでない? 古代のユダヤ教において――」
「あぁぁっと! ここで試合が動き出したぁ!」
カバラ秘術の解説を遮るかのように試合が動き出す。
先に動いたのは――ぱんつ使いこと、ハンスだった。
ぱぁんっ
謎の破裂音と共にハンスの身体が高速移動を開始する。それは円を描き、女子高生を取り囲むかのようにぐるぐると動き回る。その素早い動きは残像を発生させ、複数人のハンスがいるように見えた。
「貴様にこの動きが見切れ――」
「見切った!」
ハンツの残像に際し、女子高生がさっ、と右足で踏みつけた。
途端、女子高生の周囲をぐるぐる回っていたハンツは転倒しっ、ずざぁぁぁ、と地面に倒れた。そして彼女の右足が踏みつけているのは――ぱんつ。そう、ぱんつだった。
「あぁぁぁ! なんということでしょう! ハンツ選手のスカートの下から伸びた長大なぱんつ! それの端を野々垣メルト選手が踏みつけているっ!」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「どういうことだったんですか、中原さん!」
「おそらくハンツ選手の能力はその名の通り、ぱんつを伸縮自在に操る力なのでしょう。そしてスカートの下からぱんつを高速で伸ばして地面に激突させ、その反動で高速移動を行っていたと思われます」
「そ、それはすごいんだか、すごくないのかよく分かりません! なんというコメントに困る能力!!」
倒れていたハンツは「ちぃっ」と毒づくと踏みつけられたぱんつをさらに伸ばし、触手のように女子高生へと伸ばした。が、女子高生はあっさりと踏みつけていた足をどかし、背後へ退避する。
回避された伸びたぱんつはすぐさま短くなり、ぱちぃぃぃんっと彼のスカートの中へと戻っていった。
「ふっ、俺のロンガー・パンツ・ムーヴを見切ったのはお前が初めてだ」
「あっそ。そんなどうでもいい名誉私はいらないけど」
「ふん、涼しい顔をしてられるのも今のうちだっ! これでもくらえっ!」
彼はスカートの中から複数のぱんつをばさぁぁっと取り出し、中空に投げた。
途端、空中に投げ出されたいくつものぱんつ達がまさに意志をもつかのように空を飛び、女子高生へと襲いかかる。
「なんということでしょう! 襲い来るぱんつの姿はまるで獲物を狙う海鳥の急降下のように鋭い!」
「おそらくですが、彼はぱんつのそれぞれになんらかの鳥の霊を憑依させ、擬似的な使い魔として使役しているのでしょう」
「さすが解説の中原さん、一瞬にしてそこまで見抜くとは」
「ぱんつを操るという力をここまで鍛えたハンツ選手の異能はAランクの超能力者にふさわしいものとなっていると言えるでしょう。ですが、それだけです。それでは彼女の冥王星の護りを突破できません」
「ああっと、次々と襲いかかるぱんつの大群を、野々垣メルト選手はすべて躱していくっ!」
「冥王星の加護により、彼女は近未来の擬似的な未来視を実現化させ、せまりくる死のイメージを認識し、それを避けることが可能になっていると思われます」
「それは、よく分からないですけどすごそうなことしてますね!」
「言っておきますが二人ともとてもすごいことしてますよ」
そんな解説と実況のよく分からない会話を尻目に二人の戦いは佳境を迎えていた。
幾つもの飛来するぱんつの群れをすべて回避しつつ、女子高生はハンツへと肉薄していた。
「冥王星ブレード!」
「でたぁ! 謎の力場がハンツ選手の胸元を袈裟切りに切り裂く! これは勝負あったか!?」
リングの上にハンツの胸元から飛び出した鮮血が飛び散る。
「ぐぅぅぅっ! だが負けん!」
ハンツはスカートの中から今度はぱんつではなくガムテープをささっと取り出し、傷口に強引に貼り付けた。
「傷口にはガムテープかダクトテープを貼っておけばなんとかなる! 聖書にも書いてあるぜ!」
「おおっと! ハンス選手、めちゃくちゃ顔色が悪いのに台詞だけは立派だっ!」
「そうでしょうか。彼の台詞、全然立派じゃないと思いますよ」
「中原さん! 今更そういうこと言うのやめましょう! すべてはノリですよ!」
そう、この大会はなんでもあり。
なのでぱんつを操ろうが、冥王星の加護を貰おうが、なんでもあり――なのだが。
ピピピピピーッ
「おっと! ここで赤提灯! 審判が赤提灯をかざしてレッドカードの宣言です!」
「どういうことでしょうか。見たところどちらも反則はしてないようですが」
「レフェリーが今両者を武装解除させ、リングの真ん中へと連れて行きます」
会場の観客達が見守る中、審判は厳かにマイクで告げる。
「両者、共に十八歳未満により、失格となります」
「なんとぉぉぉ! この馬刺杯は十八歳以上しか参加出来ません! なのに二人とも実は十八歳未満! 未成年です!」
「あちゃぁ。未成年に殺し合いをさせる訳にはいきませんからね」
「いや、成人してても殺し合いはダメじゃないですかね、解説の中原さん」
「なにはともあれ、両者失格です」
「あっけない幕切れ……まさか今の今まで大会運営は気づかなかったとは」
「ええ。かわいい女子高生に目がくらんで大事なことを忘れていたようですね」
「では、今年の馬刺杯の優勝者はなし! 商品の馬刺しは次回へ持ち越しです!
それではみなさん次の大会でお会いしましょう!
さようなら!」
了
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