2/13『建前×象×飲む』

お題『建前×象×飲む』

プロット

序:象を飼いたいという建前をネットで呟いてたら象が届く

破:どうしようかと悩んでたら象が暴れ出し、周囲のものを破壊していく

急:ひとまず水を飲ませてなんとか落ち着かせる。




「そうですねぇ。私の将来の夢はぁ。象を飼うことでーす!

 やっぱり、象と一緒に生活するのって憧れじゃないですかー!

 私、将来は、そんな象とか飼ってる人の奥さんになって、象と仲良く暮らしたいなぁ、て思ってまーす。

 あ、石油王のアラブくんさんスパチャありがとうございまーす。

 ネズールさん、スパチャどうもです! はい、私もいいお嫁さんになりたいです。

 日本大好きモハメッドさんもスパチャありがとうございます! モハメッドさんも象がお好きなんですねー。

 え? モハメッドさんは象を四体も飼ってる? すごいですねー。

 じゃあ、本日の配信はここまでです!

 雑談放送おつきあいありがとうございましたー。

 みなさん、この動画が面白かったら、『チャンネル登録』と、『いいね』をお願いしまーす!」

 カメラに向かってにこやかに手を振りながら、私はライブ配信終了のボタンを押した。

「はぁぁぁぁぁぁぁ、オタクどもに媚び売るのマジで疲れるわぁ。

 まあでも、なんかスパチャをよくしてくれる人達、アラブ出身を何故かアピールしてくるからアラブっぽいことを言ってるとガンガンスパチャ飛ぶから最高だわ」

 私はそこそこ売れてる美少女配信者の冥土田ピクリン。

 大学卒業後、就活に失敗し、メイド喫茶のバイトをしながら食いつないでいたのだが、流行の動画配信サービスでオタクキャラに媚びた配信をしてたらそこそこスパチャによる課金が飛んでくるのでそれを生業にしている。やはり胸が大きいことがポイントらしい。そこは両親に感謝だ。

「んーでも、オタクに媚びるのホント疲れた。そろそろ結婚とかしたいわぁ。マジで」

 まあ愚痴ってても仕方ないので今日はさっさと風呂に入って寝てしまおう。

 深夜配信で眠いし、色々と生活サイクルが崩れまくりだ。

「よーし、明日はFPSゲーム実況でバンバン人を殺すぞぉ☆」




ピンポーン

 早朝。インターホンの音に起こされる。

「んなによぉ、私は昨日の配信で疲れてるんだけど」

 私は無理矢理身体を起こし、インターホンに出る。

「はーい、秋田です」

『お届け物です。ハンコをお願いしまーす』

 買い物のほとんどを通販に頼っている私だが、いつも時間指定で夕方にしているために早朝に配達が来るのはまずないのだが。

「分かりましたー」

 寝起きの低い声で対応しつつ、外に出る。

「ここにハンコくださーい」

「はい。えーと、荷物はなんですか?」

 テンションの低い私に対し、配達屋さんは朗らかな笑顔で語る。

「インド象でーす」

「え?」

「失礼しまーす」

 パチンっと配達屋さんが指を鳴らすとどうぉぉん、と音がした。

「え? え? え?」

パォォォォン

 映画やテレビでしか聞いたことがないはずの甲高い象の鳴き声と共にマンションがごごごごごっと揺れる。恐れおののいているとバキバキバキッとマンションの壁を破壊しながら廊下を象が突破してきていた。

「うぇぇぇぇぇええええええ???」

「こちら、『石油王のアラブくん』さんからの贈り物、インド象のペペスくんです」

「あわわわわわ」

 私がまともにコメント出来ずおそれおののいているとさらに配達屋さんは指を鳴らした。

 途端、再び地響きが発生し、反対側の廊下から巨象が廊下を破壊しながら突撃してくる。

「こちら、『ネズール』さんからの贈り物、アフリカ象のネズールスくんです」

「げぇぇぇ! 二頭も!」

「さらに」

「さらに!?」

 配達屋さんが指ぱっちんするとバシバシバシバシ、と階段を破壊しながら中型クラスの象が上ってくる。

「『日本大好きモハメッド』さんからの贈り物、アフリカ象のモハメリスくんです」

「ぱぉぉぉん」

「ぱぁぁぁぁ」

「ぷぉぉぉぉぉぉん」

 三頭の象が私の部屋の前で思い思いに叫び、ズシンズシン、と床を叩く。

「ちょ、これ……なに、なんなの?」

 そう言えば聞いたことがある。

 欲しいものリストを公開していると、リストにないものを買って送りつけられることもあると。だがまさか、象が送りつけられるなんて。

 ――まさか私の配信のリスナーは全員石油王だったの???? だとしてもホントに象を送ってくることある?

「では、私はこれで」

「ちょ、あんた! こんなもの押しつけてどうするつもり!」

「ははは、大切にしてあげてくださいね」

 三頭の象に左右と背後を取り囲まれ、配達屋さんも逃げ場がないはずだが、なんと彼はそのままマンションの廊下から飛び降りた。

「えっ! 嘘!? 飛び降り自殺!?」

 慌てて私は地上を見下ろしたが、下でばさっ、と小型パラシュートを展開する様が見えた。

「……マンションの五階からの飛び降りでパラシュート意味ある? 距離足りなくて死ぬのでは?」

 冷静にツッコミを入れてしまったが、配達屋さんはそのまま五体満足でトラックに乗って去っていった。

 後に残されたのは――。

「ぱぉぉぉん」

「ぱぁぁぁぁ」

「ぷぉぉぉぉぉぉん」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ! 誰か助けてぇぇぇぇ! あの指ぱっちんで象を操れる配達屋さん帰ってきて!?」

 泣き叫ぶ私が、象たちは動じることなく、その長い鼻を使い、金属製のマンションの扉を掴むとばきぃぃ、と扉を破壊した。

「ぎゃぁ!」

 そして象たちはなんの疑いもなく私の玄関を破壊し、勝手に私の部屋へと入っていく。

 もちろん、人間サイズの廊下は象が入るスペースなどどこにもないのだが、彼らは構わず次々と壁を破壊しながら突き進む。

 マンションの最上階だったおかげか上の階はなく、ただただ屋根が破壊され、破片が次々と地面へと落ちていく。

「ぎゃぁぁ! みんな落ち着いて~! ちょ、落ち着いて! というかなんで普通に私の部屋を自分の縄張りだと認識してるの?? 指ぱっちんで全部操作されてるの? 意味分かんない! 誰か助けてぇぇぇ!!」

 私の風呂も、リビングも次々と三頭の象に踏みつけられ、更地にされていく。

「あわわわわわ。な、なんとかこの子達を落ち着けさせないと」

 と、そこで視界に象の突進によって風呂場からはじき出された湯船が転がっていた。

「はっ! これだ!」

 私は転がっている湯船を掴み、よいしょぉぉぉっと強引に起こす。

 そしてずぉりゃぁぁぁぁとひきずってシャワーの前に持っていき湯船に栓をして水道の蛇口をひねった。

「よし、出る! 水が出る!!」

 じゃぁぁぁぁ、湯船に貯まっていく水。

「あんたたちー! 落ち着いてー! ほら、この水飲みなさーい!!」

 ずしーんずしーんと暴れていた三頭の象たちが私の声に振り向く。

 そして貯まっている湯船の水を見つけると象たちは殺到し、長い鼻を伸ばして水をごくごくとすごい勢いで飲み始めた。

「ふぅぅ、収まった」

 ――しかし、まさか象をリスナーさん達が送ってくるなんて。

「ああもう、どうせなら結婚してよ! 象を送るくらいの金持ってるなら! 婚姻届送ってきたらサインするからさぁぁ!」

 泣き崩れる私の背後で象たちは楽しそうに水を飲む。

「……配信するか」

 私はスマホを取り出し、自撮りカメラを起動し、配信を開始する。

「どぉも! あなたの美少女メイドの冥土田ピクリンでぇす!

 みてください! なんと先週配信で象が欲しいって言ってたらホントに象が送られてきましたー! すごいですよねぇ!

 はい、この子はインド象のペペスくん! 目元がかわいいですよねぇ。

 あー、なんかマンションの下で警察とか集まってるみたいですねー。

 えへへー、どうしよう。

 あ、スパチャありがとうございまーす。

 神回決定さん、赤スパチャありがとうございまーす。

 配信してる場合かさん、スパチャどうもです!

 実は、ねーみなさん見てください、私の卓は暴れる象くんたちですっかり更地になっちゃいました。あははのはー。

 あ、頭いかれたのかさん、スパチャありがとうございまーす。

 通報しましたさん、スパチャありがとうでーす!」

 かくてこの回の配信は神回として豪邸が建つほどのスパチャが飛び交い、私は見事マンションを弁償し、象を変えるほどの豪邸に引っ越しすることが出来た。

 これもすべて象が贈られてきたおかげである。

 塞翁が馬とはまさにこのこと。象だけど。

 人生、何が起こるか分からないものだ。

「めでたし、めでたしになぁれー! あはははははは」

 などと明るい未来を夢想しながら私は配信を続けるのだった。




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