2/12『学園×武闘×笛』

お題『学園×武闘×笛』

序:由緒ある音楽学校に入学した主人公は入学初日に音楽バトルに巻き込まれる

破:リコーダー使いの主人公に対し、決闘を挑んでくる炎使いのヒロイン。バトルが始まる

急:バトルの末、女の子とちょっと仲良くなる


「ここがエーデルフェイスト音楽学校か……いよいよ俺もこの由緒ある音楽学校に通うことが出来ると思うと胸が熱くなるな」

 丘の下に見えるサクラの樹に囲まれた古めかしい校舎を見下ろしながら俺は思わず笑みを浮かべていた。

 俺の名は笛賀吹人15歳。代々笛使いの家系であり、様々な笛の使い手を輩出しているそこそこ歴史のある家系だったのだが、在野の家系であったため、エーデルフェイスト音楽学校のようなアカデミックな場所に通う人間は出てこなかった。

 なので、俺は一族初の音楽学校入学者だ。一族の名に恥じぬよう、一流の音楽使いになれるよう勉学に励みたいと思う。

 鼻唄で歌いながら長い長い坂道を下り、ようやく校門へ入ろうとした時――背後から爆音が響いた。

「どいたどいたぁ!」

 轟く爆発音と共に背後から少女が一人吹き飛ばされ、俺の頭上を越えて見事校門の柵の上へと着地した。

「よっとぉ! はっはぁ! 危なかった。あやうく初日から遅刻するところだったぜ!」

 燃えるような赤い短髪につり目の少女がに野性的な笑みを浮かべ、柵の上で謎のポーズをとる。よく分からないがすさまじいバランス感覚だ。

 ――関わり合いにならない方が良さそうだな。

 俺はちらりとパンツの中を確認しつつ校門をくぐった。

「おい」

「…………」

「おい、そこのチビ男。今お前、オレのパンツ覗いてっただろ?」

 無視をしていたのだが、チビといわれては立ち止まらざるを得ない。

「はて、何も心当たりがないのだが」

「嘘つけよ。男は気づかれないと思ってるかもしれないが、女からしたらそういう視線は全部バレバレなんだぞ」

 赤髪少女の言葉にオレはため息をついた。

「視界には入ったが、覗いてはいない」

「屁理屈言ってんじゃねぇぞ、チビが。炎使いのこのオレが焼きを入れてやろうか!」

「炎使い!? 音楽学校なのに!?」

「おうよ! オレはこの炎の力で音楽学校のテッペンをとってやるんだよ!」

「……どうやって?」

 音楽学校に炎の力はいらないと思うのだが。

「それを――てめぇの身体で味合わせてやるよぉ!」

 しゅばっ、と彼女は胸元からカスタネットを取り出すと、素早く装着した。

カッカカカッ

 ワルツのリズムを刻むと共に彼女の周囲で炎がふくれあがり、球体へと変形していく。

カッカカカッ カッカカカッ カッカカカッ

 ――すごい。雑に見えて性格にズンチャッチャのワルツのリズムを刻んでいる。その正確な音が正しく呪文として機能し、三つの火炎球を形成し、襲いかかってきた。

「くそっ、やるしかないのか!」

 俺は鞄から笛入れを取り出し、中空に投げた。

 空中で笛入れの中で三つに分解されていたリコーダーのパーツがガシャインッ! ガシャインッ! ガシャインッ! と合体し、白いラインの入った黒いリコーダーの姿になる。

 俺は空中で変形合体した黒いリコーダーをバク転しながらつかみ取り、息を吹き込んだ。

ピィィィィィィィィィィィィンッ

 甲高い音が響き渡り、一瞬、赤髪の少女の刻むワルツのリズムが崩れた。

 そこへすかさず俺はリコーダーで『剣の舞』を演奏する。

ファァァァァァァドファファファドファファファファミミレレドファファァァァァァァ

 演奏と共に幾つもの刀剣が中空に実体化し、赤髪の少女に襲いかかる。

 だが、少女も手練れ。実体化した刀剣の攻撃を避けながらむしろ俺の演奏に合わせてカスタネットを叩き始めた。

カカカカカカッカカカカカッカカカカカカッカカカカカカカカッ

 幾つもの炎が刀剣を絡め取り、むしろ燃やし尽くさんとする。

 ――すさまじき炎。まさに彼女の音楽性の顕現。

 たった数度の攻防で彼女の音楽センスを俺は肌で感じ取った。

 襟章からして同じ今年の入学生のはずなのに、彼女の鋭利な音楽センスがビリビリと肌で感じられる。誰もが彼女のカスタネットを聞けば捕らわれるだろう。

 ――だが、打楽器に負けてたまるか! 彼女は宣告通りそのリズムによって炎しか扱えないはず。ならば、勝機はある。

 剣の舞からアドリブを挟んで俺は曲目を変更する。

「この曲は――ブラームスの『雨の歌』! しまった!」

 彼女が俺の曲変更に対応すべくカスタネットのリズムを変えようとするがもう遅い。

 俺の無理矢理なリコーダーアレンジの雨の歌によって雨雲が召喚され、彼女の全身をびしょびしょに濡らした。

「くっそ……オレとしたことが、対応が遅れた。

 なんてすさまじい肺活量だ。

 負けたぜ。

 おい、チビ――いいや、リコーダー使い。

 俺の名は可須田炎湖<カスタ・エンコ>。

 お前の名を教えてくれ」

 負けを認めたらしい彼女の言葉に俺はリコーダーの演奏を終わらせ、名乗る。

「俺の名は笛賀吹人<フエガ・フクト>だ。よろしく」

 そう言って俺たちはがしっ、と固く握手する。

 と、そこで気づく。

 雨でびしょびしょになった彼女の制服からはオレンジ色の下着がくっきりと見えていた。

「あ、お前! 見ただろ!」

「見えただけだ! わざとじゃない!」

キーンコーンカーンコーン

 校門で言い合ってる間に鐘が鳴る。

「まずい! 入学式に遅れる! ともかく行くぞ!」

「ちょっ! オレはこの濡れ濡れのまま出ろってか!」

「ああもう! うぉぉぉぉぉぉぉ!」

「こ、これは!? ブラームスの『ワルツ第15番 変イ長調』!! 映画『渇き』で使われているBGM!!! すごい! リコーダー演奏であっという間に服が乾いていく!!」

「よし、これで大丈夫だろ。行くぞ! 可須田!」

「はっ! 炎湖でいいよ! 吹人」

「はぁ? 馴れ馴れしいぞ。勝手に下の名前で呼ぶな。笛賀でいいだろ」

「オレとお名前の仲じゃないか。一度戦ったライバルなんだからいいだろ!」

「なにもよくねぇぇぇぇ!」

 かくて俺はこの炎使いのカスタネッターと共に波乱の学園生活の幕を開けたのである。




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