2/11『デジタルカメラ』

お題『デジタルカメラ』

プロット

序:デジカメを買うか相談される

破:いらないって言うのにひたすら相談される

急:やっぱりいらないと言われる


「あんたってメカ詳しいの」

「……別に。そんなことはないな」

 ある日、女友達に質問されて俺は正直に答える。

 彼女は別の学校の女子高生なのだが、オタク友達として最近つるんでいる。別に恋人というわけではない。

「そっか。で、デジカメ買うなら何が良いと思う?」

「話聞いてたか? 俺は機械とか詳しくないっての」

「それでも、たぶん私より詳しいでしょ。教えて」

「なんなのその決めつけ?」

 いつの間にそんなレッテルを貼られているのだろうか。昨日SFでメカモノについての解説をしたからだろうか。あるいは、一眼レフマンガをオススメしたせいかもしれない。

「ちなみにどんなデジタルカメラを買いたいんだ?」

「えーと、こういうちっさな。ふつーのカメラ」

「コンパクトデジタルカメラか?」

「そうそう。それ。確かそういう名前」

「買わなくて良いと思うぞ」

「え?」

 俺はただただ素直な意見を述べる。

「いやいや。私はカメラ買いたいんだけど?」

「お前、スマホ持ってるじゃないか」

「そうだけど」

「スマホでいいよ。充分」

「ええええ?」

 目を丸くする女友達に俺は苦笑する。

「じゃあ単純な話するけど、そのスマホ、十万円くらいする奴だろ」

「まあそうね」

「このデジカメは一万円くらい。どっちが性能いいと思う?」

「……そんな言い方されるとスマホの方が性能いい気がしてきた」

 彼女はがっかりしたように言う。

「勿論、使い方次第なんだが、カメラを買って何するつもりだったんだ?」

「友達と写真を撮ろうかなって」

「人物写真?」

「そう」

「じゃ、スマホでいいよ。風景写真とか、遠くのものをズームで撮るならスマホよりコンデジの方がいいけど、人物だったら断然スマホだな」

 彼女は釈然としない顔で首を傾げる。

「そっかー。そうなのかぁ。うーん、いやでも、専用のカメラだよ。なんというか、スマホより綺麗に撮れたりするんじゃないの? どうなの?」

「一眼レフカメラならまた別の話なんだけどな」

「あんな重そうなのは無理」

「中には軽いものもあるんだが、まあ無理なら仕方ないな」

「でもショック。え? じゃあなんでコンデジ売ってるの? そんなんならみんなスマホで済ませちゃうじゃない」

「ああ、だから今コンデジはほとんど売ってない」

「え???? いや、電気屋さんで結構売ってるでしょ?」

「昔は今の十倍以上売られてたよ」

「そんなに」

「さっきも言ったけど、風景撮ったり、ズームで撮影とかそういうのならコンデジの方がいいけどな。自撮りの延長とか、旅行写真とかで人間撮影するならスマホで充分」

「納得いかない……デジカメを買って貰うつもり満々だったのにぃ」

「そんなこと言われてもなあ」

「というか全然デジタルカメラ詳しいじゃない! 詳しくないって言ってたのはどの口!?」

「なんというか、今のは基礎知識みたいなもんで、素人の毛の生えたような話でしかないだろ。どうしても買いたいなら店に行って店員さんに聞けば良いと思うぞ。俺よりちゃんと説明してくれるだろ」

「うーん。なんか店員さんに聞いたら口車に乗せられて店員さんが売りたいだけの高い奴を買わせられそうで」

「親に買って貰うつもりならまず親を連れて行かずにウインドウショッピングしにいったらどうだ? そしたら無理矢理買わされることないだろ」

「うーん。そっかなー。そうなのかなぁ。でも、一人で電気屋さん入ったりするの勇気居るし。無理」

「そうなのか?」

 俺にはまったく分からない感覚だ。

 俺は一人でラーメン屋に入るし、一人で映画館にも行けるし一人でカラオケもする。そこら辺に比べたら一人で電気屋さんに行くくらい全然難しくもなんともないと思うのだが。

「じゃ、付いてきてよ」

「え?」

「どのカメラ選ぶか、付いてきて教えてよ」

「…………話戻すけど、俺は買わなくていい、てしか言わないぞ」

「そこをなんとか!」

 何故そんなにデジカメが欲しいのか。

 話を聞く限り全然スマホで充分の使い方しかしなさそうなのに。

「ちなみに一眼レフカメラを買う気は?」

「無理」

「ないじゃなくて、無理なのか」

「可愛くないし」

 なんというか頭を抱えたくなる。

「そもそも、カメラを買いたい理由を教えてくれ。なんかすごくちぐはぐな気がする」

「修学旅行に行くことになって」

「ふむふむ」

「みんなカメラを持っていくって言ってて私だけスマホなのはどうかなって」

「うわぁ、同調圧力日本って感じの回答」

「いや別にみんなに強制させられた訳じゃないって。ただ、自分だけカメラ持っていかないのなんかヤダし。一人だけごつい一眼レフ持っていくのも嫌だし」

 ――そういうことか。

 おおよその事情は理解した。

 つまり、彼女が欲しいのはカメラというわけでなく、みんなとお揃いのアクセサリーが欲しい、ていう気持ちの方がメインなのだ。なので、ぶっちゃけてしまえばなんでもいいのだ。ただ、あんまり貧相なものを買えば友達に馬鹿にされるのでどうせなら良い奴が買いたい、てところだろうか。

 ――機械買うなら性能をメインに考える俺からしたら理解しがたい思考だ。

 それこそ、スマホより性能が低くても見た目のかわいいカメラが売ってれば嬉々として買いそうである。

「なんというか、それに協力する見返りは?」

「え?」

「なにか俺にメリットあるの?」

「…………」

 彼女は少し考えた後、にこっと笑顔を見せた。

 そしてそのまま押し黙る。

「ないんだな」

「いやっ! でも! ほらっ! かわいい女の子の頼みだよ。友達じゃない。助けてよ」

「ええい、自分でかわいいとか言い出すな。そういうのは日本人の趣味に合わない」

「いいじゃない。事実だし!」

 そんなことを言われると反射的に否定したくなるが、それを実行することによってとても面倒くさいことになることを察した俺はなんとか黙ることにした。

「まあいい。まとめると、カメラ持ってるかわいい私、てのを演出したい訳だな」

「言い方にトゲがある! もっとかわいく言って!」

「……カメラを持ってさらに可愛くなりたいんだな」

「いぇす」

 ――何がイエスだよ。突然信仰にでも目覚めたのか。

「それなら、適当に見た目で決めてこれば?」

「それで変なの来ても困るでしょ」

 俺は目を閉じて眉間を軽く抑えた。いろいろと脳裏によぎった言葉を呑み込む。

 ――どうせ初日でカメラを使うことに飽きて、二日目からはスマホでしか撮影しなくなると思うから無駄な出費はやめたらどうだ?

 言いたい。脳裏によぎった言葉をすごく言いたい。

 というか、そもそもやはり俺はスマホの基礎知識はあっても、詳しい仕様については知らない。どれがいいと聞かれたら結局店員さんに聞くしかないのだが。

「せめて、俺に何かメリットのある話をしてくれないか?」

「えー」

「なんだその無条件で男の子は私の言うことなんでも聞いてくれるはずなのに、みたいな返事は! 大分世の中を舐めてる感じの自意識がダダ漏れだぞ。もっと隠せ! せめて!」

 俺の知り合いの女の子はなんかみんなそんな雰囲気があるのは気のせいか。

「じゃあ、カメラで撮った写真を分けてあげるとか」

「いや、お前の写真貰ってもなぁ」

「一応、風景写真もとるし! 金閣寺とかも、一応!」

 ――金閣寺の写真くらい俺だって撮ったことあるしなぁ。

「よし、かわいい私の自撮りをあげよう」

「それ、スマホでよくないか?」

「えっとじゃあ……ちょっとえっちな自撮りをあげるとか」

「え?」

「…………」

「…………」

 それきり気まずい沈黙が訪れてしまった。

 彼女は顔を真っ赤にしたままうつむいて何も言わなくなってしまった。

 そんな顔をされたらこっちまで恥ずかしくて顔が赤くなる。

「いや、それはなんていうか……遠慮しておく」

「そう? そっかな。うん、やめておくね」

「…………」

「…………」

 なんだこの空気。助けてくれ。

「やっぱりカメラ買うのやめるね」

「おう、それでいいと思う。代わりに別なものを親に買って貰え」

「別なものってたとえば?」

「……タブレットとか?」

「それこそスマホでよくない?」

「ばっ! スマホとタブレットは違うぞ! 画面サイズが違うだけで機能的にはほぼ同じだけど利便性が違う!」

「……分かんない」

 この後彼女に色々とタブレットについてお勧めするのだが、結局理解は得られず、その日はなんか負けた気分で俺たちは解散したのだった。




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