2/10『もやし×呼び声』
お題『もやし×呼び声』
序:男の子がもやしっ子なのを馬鹿にされる。
破:「力が欲しいか」と声がする。別の女の子が筋トレを紹介してくる
急:女の子が何故かケンカし始めたので仲裁する
「パワーこそ正義って言うじゃない」
女友達の言葉に俺はきょとんとする。
「言う?」
「言うらしいのよ」
俺と彼女は恋人というわけでなく、ただのオタク友達である。別々の高校に行っているのだが、ふとしたきっかけで友人となり、こうして時々会っては会話したりしている。
今日も今日とて駅の近くにある巨大なショッピングモールのフードコートでオタクトークをしていたのが、彼女がそんなことを言い出したのである。
「で、何が言いたい訳?」
「あんたもやしっ子よね」
「オタクだからな」
「いやぁ、オタクだから筋肉がなくていいってのもどうかしら。もう少し鍛えたら?」
「余計なお節介だ。別に俺は今の体型のままで困ってない」
よく分からない言いがかりに俺は首を振る。
「そんな……正義になりたくないの?」
「むしろ、ダークサイドの方が俺の好みだ」
「分かるー。決まり事とか強要してくる善人面した偽善者ども、どう考えたって好きになれないもんね」
「誰もそこまで言ってないが」
「いやあ何というか……貧相な体つきでちょっと心配なのよ」
「それはどの立場からの心配?」
意味の分からない指摘だ。俺は別に何かのスポーツをしてる訳でも何でもないので気にする必要はないのに、何故そんなことを強要してくるのか。
「力が……力が欲しくないですか?」
「え?」
「何?」
突如割って入って来た声に俺と彼女がびくっと後ろを振り向く。
そこに居たのは背の低い銀髪ジト目の美少女だった。俺たちとはまた別のお嬢様学校の制服を着ている。
突如現れた銀髪美少女は無表情のまま淡々と続けた。
「筋トレを……筋トレをするのです。さすれば力があなたに授けられましょう。
裏切りません。筋肉は。
ただただ、鍛えるのです」
俺と女友達は顔を見合わせた。
「「誰?」」
俺たちの問いに銀髪美少女は無表情のまますぅぅぅ、胸の前で腕をクロスさせ、謎のポーズをとる。
「私は――通りすがりの怪しい美少女です」
「こいつ、自分で美少女と名乗りやがった!」
「ちょっとかわいいけど、台詞のすべてが馬鹿っぽい子ね」
お嬢様学校行ってるからにはきっとお嬢様なのだと思うが、なんというか、浮き世離れした雰囲気の子である。会話のキャッチボールが成り立たない。
「きんにくわぁ♪ うらぎりません♪ なぜなら、なぜなら♪ じゃすてぃぃぃす、だからでぇす♪」
しまいには謎のダンスまで始めてしまい、俺と女友達は顔を見合わせた。
「帰るか」
「そうね」
「すとぉっぷ! れでぃーすあんどじぇんとるめん! まだ帰るのは早い! よかったらこちらのジムに来ないかべいべー!」
さっと銀髪少女がチラシを差し出してくる。
「……駅前のジムだコレ」
「今なら入会特典にもやしも付いてくるよー。もやしっこももやしを食べて筋肉モリモリになろう!」
「え? 煽ってるの? お断りなんだけど?」
「勧誘へたくそすぎ」
俺たちの言葉に銀髪少女はがぁん、と自分で口で呟いてその場に崩れ落ちる。
「よよよ、言ってはならないことを。何故私が口べたで全く勧誘に失敗してきた事例を言い当てたのです?」
「いや、見たまんまだよ」
「そりゃ、ねぇ」
「なんにしても! あなたはもやしっ子! そしてその彼女ももやしっこの彼をなんとかしたい! 私はジムになんでもいいから勧誘したい! 利害は一致しているはず!
カムヒアにゅうちゃれんじゃぁ!」
がぁぁあっとテンションの上がる銀髪少女。
「いや、お断りします」
「普通に怪しいし」
「うそん」
かくて俺たちは怪しげな少女の勧誘から逃れるべくさっさとフードコートから出て行くのだった。
変な人は相手にしないのが一番である。
了
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