2/14『肉骨粉×三すくみ×春時雨』
お題『肉骨粉×三すくみ×春時雨』
プロット
序:農家の少女が肥料の肉骨粉を買いに出かけるが、春時雨が降る
破:雨宿りした先で少女>気になる彼>彼の好きな先輩の三すくみの状態になる
急:なんとか三すくみを突破して肥料を買いに行く
「のどかー! 肉骨粉買ってきてー」
母の言葉に私こと豊中のどかは近所のホームセンターへ肉骨粉を買いに行くことになった。
肉骨粉、言わずと知れた家畜の食べられない部分の肉や骨をすりつぶして粉にしたものである。二十年前はなんか色々と事件が起きて病気が流行るとかで規制とかされたりもしたけど、今はふつーに肥料としての利用を再開されている。
「こっぷん、こっぷん、にくこっぷーん」
調子っぱずれの変な鼻唄を口ずさみながら私は田舎道を歩く。
農家の娘である私にとって肥料の買い出しなど日常茶飯事。
とはいえ、自転車などは母が別口で使うように持って行ってしまったので徒歩になってしまった。田舎の建物の間隔は広い。つまりは、ホームセンターまでそこそこの距離なのだ。
まあ、徒歩三十分など私にとっては朝飯前ではあるのだが。
「うわっ、降ってきた」
春時雨って言うやつだろうか。
さらさらとした小雨が前触れもなく降り注ぐ。
私は慌てて近くにあったバス停へと雨宿りに入った。
「あ」
「あ」
「あ」
同時に私以外に二人の男女が入ってきて目を合わせる。
「先輩! 三枝くん!」
「豊中! それに先輩も!」
「あらあら、久しぶりね、二人とも」
入ってきたのは私の幼なじみの三枝浩二と、先輩の遠藤マヤの二人だった。
「卒業式以来かしら」
「そうですね。先輩は東京の大学に行く予定なんですよね」
「ええ、明後日には家を出る予定よ」
「うぁん、寂しいですぅ、先輩ぃ」
「よしよし、豊中ちゃんは可愛いねぇ」
と抱き合う女二人の横で幼なじみの三枝くんは居心地悪そうに立ちすくむ。
「えっと、仲いいですね、二人とも」
「あら嫉妬かしら? 三枝くんも私に抱きつきたい?」
「いや、そんな! 恐れおおいです!」
「ちょっと先輩やめてくださいよぉ! 三枝くんは初心<ウブ>なんだから、そういうセクハラみたいなからかい方はダーメーです!」
「はいはい、豊中ちゃんには敵わないわね」
「うぉい、豊中! 先輩に向かって失礼じゃないか?」
「いいのよ。私と先輩の仲だもん」
「「ねぇ」」
私と先輩は声をハモらせる。
「でも、先輩がいなくなるのはホントにさみしいです」
「正月と夏休みには帰るわよ」
「その後は?」
「うーん、東京に就職かなー」
「そんな……お、僕も東京の大学に行きます!」
「えー? 三枝くんが? 成績的に無理じゃない?」
「なんだよ、お前はどうなんだよ?」
「模試の成績だけなら東京に行くのは余裕だね」
「くっ!」
私の言葉にぐぬぬ、と顔を歪める三枝くん。
なんというか、色々とダメダメである。
「豊中ちゃんこそ、三枝くんを虐めすぎるのはダメよ。幼なじみって言っても奴隷じゃないんだから」
「はぁーい。先輩がそう言うなら」
「ええ、幼なじみ同士、仲よぉくしないとね。ふふふ」
と意味深に笑う先輩。
「ちょっ、別にこいつとはただの幼なじみですよ! 勘違いしないでください!」
「…………そうね。私達はただの幼なじみだもんね」
ふんっ、と顔を逸らす私に三枝くんはえっ、と言う顔をする。
「お前、なんで怒ってるんだ」
「怒ってません」
「いいや、怒ってるだろ」
「怒って、まぁ・せぇ・んっ!」
だんっ、とバス停の床を踏み叩く。
「……メチャクチャ怒ってるじゃなぁい」
ころころと先輩は楽しげに笑う。
「そう言えば先輩は彼氏いるんでしたっけ? 東京に」
「え? なんですかそれ? 初耳なんですけど!!」
私の言葉に三枝くんがあわわっと慌てた顔をする。
「うーん、一年上の先輩と昔付き合ってたけど、東京に行ってからは全然連絡ないから、ね。もう、東京で別の彼女作られたと思うなぁ」
「えー! 先輩みたいな美人を放置するなんてそんなやつ許せませんね!!」
「なんで三枝君が許せないとか言うの。例え、先輩がフリーになったとしてもあんたにはワンチャンないからね」
「ぶうぇつに! 別にっ! そのっ! 俺は! ワンチャン狙ってないから!」
「バーレバレよ。ねぇ、先輩」
「あら、それを私に聞くの?」
「…………っ!」
先輩の言葉に三枝くんが身構える。
あまりにも分かりやすい態度。
そんな彼を見て、ちらりと先輩は私に視線を向ける。
――「なんて言えばいいと思う?」
――「それを私に聞くんですか?」
視線で会話してる間に、その場に変な緊張感が生まれる。
変なにらみ合いの三すくみ状態。
結論を出すのか。今ここで。
いや、出すべきだろう。はっきりと先輩に三枝くんを振って貰うのが一番だ。
が、三枝くんはそんな言葉を聞きたくないと言わんばかりに濡れた子犬のような目をして先輩に訴えかけている。
先輩もなんだか言いづらそうだ。
――ああもう、どうしたら。
「あ」
「え?」
「ん?」
不意に、三枝くんがぽかんと口を開く。
「雨、やみましたね」
「ホントだ」
「そうみたいね」
私達はバス停の中で顔を見合わせる。
「……じゃ、私は肉骨粉買いに行きます」
「俺も、本屋に参考書買いに行きます」
「そ。じゃあ二人とも、また夏休みに会いましょう」
私達の言葉に先輩はにこりと笑う。
「夏休み、ですか」
「そう」
「分かりました。また夏休みに」
「二人とも、仲良くね」
「「それは無理かもですね」」
と、同時に私達の言葉がハモる。
――あ。
と私と三枝くんの視線がぶつかり合う。
それを見て先輩はくすくすと笑いながらバス停を出て行った。
残された私達は。
「……じゃ、次は始業式でな」
「うん、またね」
なんとも言えない雰囲気のまま、別れた。
彼はまた夏休みまでのんべんだらりと先輩の帰りを待つ腹づもりのようだった。
が。
――そうはさせるか。
一つ目標が出来た。
――夏までに、絶対に三枝くんを落としてみせる。
私は強い誓いを胸に肉骨粉を買いにホームセンターへと走るのだった。
了
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