2/9『ミルク』

お題『ミルク』

プロット

序:牛乳飲めない女の子のお話

破:すぐお腹を壊すという女の子に飲めなくても生きていけると慰める

急:母乳もののエロ本が見つかって気まずいエンド


「なんで、給食って牛乳出るんだろうね」

「栄養たっぷりで身体に良いからだろ。家庭科で習っただろ」

「ホントに? ホントにあれ身体に良いの?」

 俺は知り合いの女の子の家に居た。

 互いに別の高校に行く、片やオタクっぽい陰キャの男子高校生、片や陽キャっぽい金髪のゆるい明るい女子高生なのだが、共通の作品が好きなのでいつの間にか意気投合し、何故かのオススメを紹介し合ったりするオタク仲間となっていた。

 彼氏彼女の関係ではなく、あくまでただのオタク友達である。

「私、牛乳飲むとお腹壊すんだけど」

「ああ、そういう体質の子いるよな」

「まあね。珍しい訳じゃないんだけど、ともかく子供の頃から給食で牛乳でるのいやだったなぁ」

「なるほど大変だな」

「後、牛乳+ご飯の組み合わせもあり得ない」

「分かる。小学生の頃からあれはおかしいと思ってた。それでもなんとか食べれたけど、今同じ事やれ、て言われたら食べれないな」

「牛乳とお米、絶対食い合わせ悪いよ。なんというか、お正月とクリスマスはどっちもめでたいから同時に開催しよう、て言い出すくらい頭悪い。どっちも良いことかもしれないけど、方向性違うじゃん!」

「そうだな。そもそも、牛乳というか、母乳なんて血液だし」

「え? 何それ?」

「……当たり前だけど、牛乳は牛の中にある体液だよな」

「うん」

「その体液ってのは……血液だよ。元々は。それが、こう、胸の中で色々あって、血液が栄養分たっぷりの母乳として作られるんだ。赤ちゃんの食事としてな」

「へー。そっか。子供を産んだ母親は、赤ちゃんに血を飲ませてるんだね。なんというか、吸血鬼みたい」

「まー人間や牛にかかわらず、ほ乳類のほとんどがそうして生きてる訳で」

「ふーん、その為にあるんだねー、これ」

 と、彼女が自分の胸に目線を下ろす。

 つられて俺も彼女の胸へ目を向ける。

「ちょっと、何見てんのよ」

「えぇ? 今そっちが視線誘導しなかった? これって指さしただろ?」

「誘導なんかしてないしっ! 個人的に見ただけだよ! ……ばぁか」

「おぅ、その、ごめん」

 顔を赤らめて文句を言われてしまえばこちらとしても謝らざるをえない。

「ともかく、赤ん坊の食事になるくらいには、牛乳は栄養たっぷりなんだよ。でもまぁ、俺たちはもうそんな子供じゃないしな。牛乳以外のもので栄養とれば良いんだ。無理して牛乳を飲む必要はない」

「そっか。まあそうだよね。子供じゃないし」

「ああ」

「…………」

「…………」

 何故か知らないけど会話が途切れてしまった。

 俺たちは子供じゃない。

 不意に、脳裏に先ほど凝視してしまった彼女の胸のことが膨らんだ。

 ――子供じゃないといならどうなのだろう。

 なんだかよく分からないけれど、とても気まずい雰囲気だった。

 ちなみに彼女の胸は大きい部類に入る。

「か、帰るわ。今日は」

「お、おう……そう。分かった。また来なよ」

 と、彼女が立ち上がった瞬間本棚の上からどしゃぁぁあ、と荷物が崩れて床にぶちまけられた。それは明らかに十八禁の同人誌の山だった。

 大胆にも本棚の上においてある箱の中に隠してあったらしい。

「あ、ちょっ、これは――」

「お前。牛乳は飲めないのにTS母乳本は読めるんだな」

 その後のことはよく覚えていない。

 なんだかこれまで見たことないほど恐ろしい形相の彼女にボコボコにされたような、そうでないような、なんだかそういうことがあった……と思う。

 今日得た教訓は、彼女は牛乳は飲めないけど、フィクションで牛乳を飲むシーンは大好きっぽいということだった。

 人とは、よく分からないものだ。




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