2/7 『不老不死』

お題『不老不死』

プロット

序:ある日女子の死体を見つけるが、相手は不老不死だった

破:不老不死の女の子を殺した相手に襲われる

急:女の子と協力して撃退


「うお、死んでるっ!?」

 その日の俺は最悪に不幸だった。

 学校帰りにふと裏路地を散歩してたら女の子の死体を見つけたのである。

 ――なんてこったい。裏路地は治安が悪いけどいきなりこんなのに遭遇するなんて。

 それなりに治安の悪い街に住んでる俺でもまさか死体と遭遇するのは初めてだ。

 やはり人間の生死が関わるラインについては一線がある。

 とはいえ、流石に放置しておくのは忍びない。

 警察に通報くらいはしても良いはずだろう。

 そう思ってスマホに手を伸ばそうとした時、むくりと死体が起き上がった。

「え?」

 ちょっと意味が分からない。

 脈を測ったわけではないが、血だまりに倒れており、ぴくりとも動いてなかったのだ。普通は死んでると思うところだ。が。

「あん、びっくりしちゃった」

 女の子がかわいく声をあげると地面に散らばっていた血がまるで動画の逆再生のごとく女の子の傷口へと吸い込まれていき、胸元にばっさりと合った斜めの切り傷も何事もなかったかのように消え去った。

「……あ、え……あれ???」

「あ、今の見ちゃいました?」

 ぐるんっ、と女の子が振り返った。

 白髪の、赤い目をした私服姿の女の子。

 その見た目だけならただのカワイイ少女と言って差し支えなかっただろう。服に真正面からばっさりと斬られた跡がなければ、の話だが。

「やん、ブラとか斬られちゃって胸元が見えちゃう」

「……あ、はい。じろじろみてすいませんでした。帰ります。ぐっどないとです」

「だ☆め☆」

 がしっ、と肩を掴まれ動けなくなる。

 ――なんて力だ。これでも俺は力それなりに強い方なのに。この子、身長145cmくらいだろう? なんだこの強さ。

「ちょっ、離してくださいっ!」

 わしづかみにされた手をはたくと、あっさりと向こうは引き下がってくれた。

「んもう、女の子に乱暴はダメなんだぞ!」

「……はぁ」

 やたらぶりっ子をしている女の子から距離をとる。

 彼我の距離は約四メートル。今から背を向けてダッシュすれば逃げ切れるだろうか。

 ――いいや、この距離なら追いつかれる可能性がある。

 俺は両の手をそっと挙げた。

「俺は通りすがりです。何も見なかった。そういうことになりませんか?」

「ただの高校生がこんな裏路地を歩くの? おかしくなあい?」

「それは、悪ぶりたい年頃なので」

「感心しないねえ。いつの時代も若い子はそういう無鉄砲なとこあるけど、ダメだぞ☆ お姉ちゃんとの約束だ☆」

「えっと……すいません、年上なんですか?」

「これはあくまで冗談なんだけど、数百年くらい年上かもね」

 ――笑えない冗談だ。

 もちろんそんなことはありえないのだが、先ほどの再生能力を見る限り、この目の前の女の子が人外の存在なのは間違いない。それくらい長生きだとしても何も不思議ではない。ただ気になるのは――俺をどうしたいかだ。

「分かりました、お姉さん。僕はお姉さんの言うことを全部信じますので、帰っても良いですか?」

「ダメだね」

「じゃあ、どうすればいいんです? 記憶でも消しますか?」

「そんな便利な能力があれば、私もよかったんだけどね」

「……じゃあ、殺しますか?」

「選択肢の一つだね!」

「もしかして、何も考えてないとか」

「うんっ!」

 ――あ、ダメだこの人外。

 満面の笑みでこんなこと言われて俺はどうすれば。

「秘密は――、秘密は絶対に守りますから、解放してください」

「うーん、それは信じたいところだけど――動かないで」

ひゅばっ

 薄暗い裏路地で何かが煌めく。

「うがぁっ」「ぐぉっ!」

 途端、背後で二人の男の悲鳴があがった。

「――え?」

たんっ

 女の子が地を蹴ったと思ったら姿がかき消え、次の瞬間には背後にいた男達二名の胸元をそれぞれの腕で貫いていた。

「よしっ、一丁上がり!」

 彼女の脳天気な言葉と共に倒された男の身体は四散し、ドロドロに溶けた後、彼女の手のひらに吸収され、消えてなくなった。

「……とまあ、こんな感じで君を食べちゃうことも選択肢にあるね」

 ――なんて事言うんだ、この人。

 致死攻撃を食らっても蘇る再生能力。長い寿命。そして人間を液状にしてから食べることの出来る捕食能力。何もかもが恐ろしい。

「さてどうして欲しい?」

「え?」

「んー、君を食べちゃってもいいんだけどね。せっかくだし逃がしてあげてもいいんだけど、その場合は、何か信頼にたる何かを欲しいなって」

「つまりその、生き延びたかったら誠意を見せろ、と」

「そんなかぁんじぃ!」

 びびしっ、と指をつきたてて人外少女は笑う。なんというか天真爛漫っと言った感じでとてもかわいらしいのだが、言動があまりにも幼い。うちの妹を見てるような感覚になる。精神年齢だけだとうちの中学の妹よりしたかもしれない。

「分かりました」

「おお! 何が? 何が分かったの?」

「俺はあなたに惚れましたので、誰にもこのことは言いません」

「わぉ、突然の告白う!」

 びっくりしたが、案外気分は悪くないらしく、彼女は頬を赤く染める。

「でも、嘘かもしれないしなあ」

「ほ、ホントですよ! 俺はこう、お姉さんみたいな銀髪赤目の女の子メッチャ好みなんですっ! ほら、スマホの待ち受けもそんな感じの女の子ですので!」

「なるほどぉ」

 唇に人差し指を当てて、ふむふむと思案する人外少女。

「それなら私の彼氏になってみる?」

「え? いいんですか?」

「うーん、実はねー。お姉さんも君みたいにちょっと善良さを持ちつつずる賢そうな子好きなんだよねぇ」

「……ずる賢いですかね?」

「オーラあるよ、オーラ。うんうん、身長もまあ平均くらいあるし、いいかもだねぇ。まあ、見た目と違ってかなり私の方がお姉さんなんだけどぉ!」

 あっはっはっはっ、と無邪気に笑う人外少女に俺は内心胸をなで下ろす。

 ひとまずいきなり殺されることはなくなったらしい。

「じゃ、一緒に戦おうね」

「え?」

「彼氏なら、私を守るために死ぬ気で戦わないと」

「え? え? え?」

 俺が戸惑う間に彼女は俺の身体をひっつかむとその場から跳躍した。

 一拍遅れて、それまで俺たちが居た場所を黒い影が通過する。

 現れたのは――黒い刀を持つ黒スーツの男だった。

「――いきなり攻撃するなんてひどいぞっ☆」

「ちゃんと死ななかったお前が悪い」

 たんっ、と黒スーツの男が地を蹴ると共に黒刀が煌めき、人外少女の右腕が切断された。

「ぎぃっ」

 彼女は壁を蹴り、三角飛びで黒スーツの男の上空をとる。

「その動きはもう見た」

 黒刀が上空から迫る人外少女の身体を両断する。

 右肩から左腰にかけて真っ二つ。

 先ほど受けていた斬撃と全く同じ場所だ。

「残念☆狙い通り」

 落下する彼女の身体は瞬時に再生し、そのまま黒スーツの男の胸元を右手で貫いた。

「ぐぁあああっ」

 黒スーツの男が悲鳴を上げ、そしてドロドロに溶けた後、彼女の手のひらに吸い込まれ消えていった。

「いえーい! 愛の勝利ぃ!」

「俺、何もしてませんけど!!!」

 突然そんなことを言われても困る。

「んっふっふっ、女の子はねー。好きな子が出来ると再生能力が三倍くらいあがるのさ」

「それ絶対思いつきで話してますよね?」

「ホントだって。まー、普段の私って目的なく生きてるからね、再生能力もゆーーっくりしか再生してなかったけど、彼氏が出来るって思ったら瞬間再生しちゃったのさ!」

「……そう、ですか。まあ、俺が役に立ったのならそれでいいですけど」

「あと、この黒スーツの子、君を守りながら戦おうとしてたから、さっきより隙が大きかったしね」

 ――やべぇ、俺は何かとんでもないことをやらかしてしまったのでは?

 だが、もう後には引けない。

 あと、人外のカワイイ彼女が出来るならばすべてを受け入れるしかない。

「分かりました。俺の名前は殿居亮喜<とのい・りょうき>です。

お姉さんのお名前、教えてらってもいいですか?」

「いいよ。私の名前は――」

 かくて俺はこの不思議な人外少女と危険な恋に走ることとなるのだった。

 これは――俺が彼女の最期を看取るまでの物語である。




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