2/6 『視力検査』
お題『視力検査』
プロット
序:隣の席の女の子に「委員長カワイイよね」と言われて、そうでもないという
破:「なんで。視力検査でもしたら?メッチャ美少女でしょ」と言うけど俺の本命は隣の女の子。あの手この手で相手の女の子を口説くが気づかれない
急:ラスト、相手が気づいてないふりしてるだけに気づいて両想い発覚
「言うまでもないことだけど、美少女だよね。委員長」
隣の席に座る田所ねねかがぼけっとしたことを言う。
「そっか? 別に」
なんとなく気に入らなくて俺は適当に否定してみた。むやみに他人のことを否定したくなる時期は誰にだってある。それは高校一年生の俺も例外ではない。
「は? 三波ってば目悪いの? 視力検査したら?」
しかし、折り悪く田所の逆鱗に触れたらしい。すごく睨まれてしまう。
「悪いけど、メガネが不要なくらい視力は良いっての」
「じゃあ、なんで委員長のこと美少女じゃないって言うのさ。おかしーじゃぁん」
「んー、いやまぁ、カワイイかも知れないけど、俺の好みからは外れるからなぁ」
――というか、お前他の女を誉めたらそれはそれで怒るじゃないか。
むしろ、毎度隣の席であの子かわいいよね、て話しかけてきては同意するとキレてくるこいつはなんなんだ。そんな話題振ってくるなよ、と。
「じゃあどういう奴が好きなのさ?」
「そうだなぁ……まあなんというか、委員長は高嶺の花だしなぁ。やっぱり、もっと気さくに話しかけてくれる女の子がいいかなぁ」
「そっかそっか。三波ってばそういう女の子が好きなんだねぇ」
「そうそう。お高くとまってる女の子には手が出ないっての」
どうやら正解を引いたらしく、田所はにやにやと笑う。
これでこの話題も終わってくれるとありがたい。女の子と好みの話をする時ほど、なんか居心地の悪いことはない。
「で、他には?」
「え?」
「他にはどんなのがいいの?」
「……今日は切り込んでくるな」
「せっかくだし三波の性癖を理解してあげようかなって、寛大なねねかちゃんは思うわけだよ」
「寛大な心はありがたいけど、そんなの俺が恥ずかしいだけで何も得がないんだが」
「だーいじょうぶ。好みを教えてくれたらばっちり会う子を紹介してあげるからさ。これでも色んな友達の恋のキューピットやってきた実績あるんだから」
「その実績は初耳だな」
――というか、俺が好きなのはお前なんだけど、気づいてくれないかな。
まあそんなこと一言も彼女の前で言ったことはないので気づかれるはずがないのだが。
「あーうん、そうだなぁ……胸が、大きい子とかその、好きだなやっぱり。俺も男だし。委員長はかわいいけど、その、控えめだしな。胸とか」
ちらちらと田所を見ながら言う。
すると田所は視線に気づいてか自分の大きな胸を豪快にわしづかみにしてにひひっと笑う。
「なるほど。私みたいにこーんな胸のおっきな子が好きなんだー。ひゅー、三波くんもスケベだねぇ。男の子ぉ」
「ま、まあな」
――というかお前が好きなんだけどな。気づいてくれよ。
「というか、女の子が胸をわしづかみにするとか、ちょっと性にオープンすぎないか。他のクラスの奴らもいるんだし」
そう、今は学校の昼休み。教室には他の生徒達がそれなりにいる。別に注目されてる訳ではないが、おおっぴらにする仕草ではないと俺は思うのだ。
「あー、もっと恥じらいがある女の子の方が好きなんだ」
「いや、それはどっちでもいいかな。性にオープンなのはそれはそれでとても好きだ」
「へー。そーなんだ。三波くんもえっちだねぇ。えちえちだ」
ちょっと顔を赤らめながら彼女が見つめてくる。
――ぐっ、女の子の口からえちえちとか言われるのはなかなかクるものがあるな。
「そらぁ、そうだろ。まあ、実際には恥ずかしがって俺からはなかなかそういう話題触れないだろうけど、こう、大胆な子が好きかも知れないな」
「大胆な子。そんな子いるのかなー」
――お前だよ! 気づいて。何が視力検査したら? だ。お前が視力検査しろ! さっきから明らかにお前が守備範囲に該当してることに気づいて!
「いやいやいや。世の中にはいる。そういう子が俺は知ってるぞ、そういう子がいることを」
「へー。誰のこと?」
「んー……んぅ……さぁなぁ」
――しまった。今のタイミングで勢いで告白すればよかった。肝心な所でヘラッてしまった!
「後、他には、なんか好みの特徴がある?」
「…………そう、だな。泣きぼくろがあるとか」
「泣きぼくろって何?」
「ほら、こう、目尻、ここら辺、目の端っこ、にほくろがあることだよ」
「あーね! これ? これのこと? 私もあるわ、泣きぼくろ」
――そう、つまりお前のことが好きなんだよ。気づいて。
「そっかー。初めて知ったわ。三波って意外と物知りだね。他に何かある?」
――ダメかぁ。なんか知識欲が満たされて満足しやがったよこの女。
「他か。そうだな。身長は大きめの子の方がいいかなぁ。平均身長より背の高い子。なんなら俺と同じくらいの身長とかいいな。目線が合いやすいし」
と、俺とほぼ同じ身長である田所に目を合わせて言ってみる。
「なるほどね。三波ってばこういう、同じくらいの目線で話すのが好きなんだ。意外! 大抵の男子って背の低い子が好きじゃない? 私みたいなデカ女嫌われがちだけど、そういうの好きなんだね」
「おう、俺は好きだぞ」
「変わってるねー」
――変わってるねじゃねーよ! 気づいて。お前が好きなんだってば。
そこで視線を感じてはっと周囲を見渡す。
何故か俺はクラスの他の女子からメチャクチャ睨まれていた。いや、女子だけでなく男子しもだ。明らかに俺を睨んでいる。
俺はテレパシーの使い手ではないが、彼らの言わんとすることははっきりと分かった。
――「「「早く告白しろやこの意気地なし」」」――
そんなテレパシーがバシバシに伝わってくる。
無茶言わないで欲しい。俺にだって告白するタイミングってものがあるし、こんな衆人環視の中で出来るわけがない。
「他にもなんかある?」
「まだ続くのか?」
――俺はもう終わりにしたいのだが。
「そりゃそうだよ。三波の好みをばっちり把握しとかないとだからね」
「そうだな。ポニーテールってのいいよな」
「ああ、ポニーテール? こういうやつ?」
そう言って田所は自分のポニーテールにしている髪の毛を指さす。髪がしばられたことによって露出したきれいなうなじを見せつけられて図らずも「いいな」と思ったがなんとか声に出さないようにとどめる。
「そう、そういうの。俺は結構好きだな。結んだ髪をほどいた時とか急に大人びた感じにもなるし」
「へー。そーなんだ。フェチっぽいところあるんだねー」
「まあ、でも髪型は好きになった子ならどんな髪型になっても好きになるだろうけど」
「おっおっ、言うねぇ。独り身<ソロもん>なのに言うじゃなーい」
――急に変な造語使い出すな。反応に困る。
「あと、他には、なんかある?」
「そうだな」
――何かこう、相手に自覚させるような決定打はないか。
このまま行くと、えんえん終わりがない。この会話を終わらせるにはどこかで「あ、これ、もしかして私のことでは?」て気づかせないと。
「……かわいい名前をしてる」
「名前。そんなところにこだわりが」
「まあな。こう、そうだな。名前がひらがなとか、そういうの良いよな。漢字の名前と違ってまたなんかカワイイ感じが出てくる」
「そっかー。ひらがなの名前ねー。私もそうだけど、ひらがねの名前ってなんかかわいいもんねー」
――だからお前のことだってば!!
――『田所ねねか』ってメチャクチャかわいい名前してるじゃないか!
――メチャクチャひらがなの名前じゃないか。
――いい加減自覚してくれないか。
心の中で罵詈雑言を吐きながらも必死で口に出すのを抑える。
「でも、ひらがなの名前の子ってちょっと少ないからね。ひらがな+漢字の子とかは? うちの担任のやす子先生みたいなのとか」
「そこは断然全部ひらがなだな」
「へー。即答だねぇ」
「えっと、後は運動が得意な子とか」
「お、乗ってきたね。運動が得意か。いいね。活発な子が好きなんだ」
「ああ、バスケが得意な奴とかいいな」
「あー分かる! 私もバスケしてるけど、バスケが上手い子ってなんかいいよね。うちの女子バスケ部の子はみんなかわいい」
――くそう、これでも気づかないのか。
「そうだな。それで日焼けで夏休み明けとか日焼けしてる子とかとてもかわいくて良いとも思う」
「うんうん、分かるよー。うちの部員とかみんな夏休み明けそんな感じだもん」
――くっそ、部活仲間全員に逃げ道が出来てしまったか。こっちのアプローチはダメだ。考えろ、何かこいつに自覚させるワードを。
「幼なじみとか、昔ながらの付き合いよりは、最近知り合った子の方がいいかな。中学までの知り合いとか無理。やっぱり高校になってから知り合った子の方が良い」
「え? なんでなんで。昔ながらの知り合いの方がよくない?」
「それじゃ、友達にはなれても、恋人にはなれないな。なんというか、もう友達って感じで定着してるからな」
「そっかー。そういうのもあるんだね」
――ダメか。こっちでも気づかれない。
「あーと、目とかはつり目とか好きかも」
「えー? 意外! 垂れ目の子の方が男の子は好きじゃないの?」
「いやいや、こう、猫っぽい感じのつり目な感じの方が、俺は好きだなあ。元気というか、野性味があるというか、そうそう、性格も明るい方が良いな。後男子にも積極的に話しかけてくるような、気さくなやつ」
「おうおう、良い感じだね。分かる分かる。
じゃあ、他には私のこと、どこが好き?」
「あーそうだな、他には――ん?」
「ん?」
――今なんかこいつ、すごいこと言わなかったか?
「どうしたの、三波。急に黙り込んで」
「いや、ごめん、ちょっといいか。今なんて言った?」
「他にはどんな子が好きって、言っただけだど」
「……嘘だな」
「嘘じゃないって」
「俺思うんだけど、実はお前、俺が好きな人のこと気づいてるんじゃないか」
勇気を振り絞ってカマをかけてみる。
――頼む、さっきのは聞き間違いじゃない感じであってくれ。
「んー、どうかなー。というか、もう好きな人いたんだ」
「……いるな」
「私の知ってる人?」
「……そうかもしれないな」
気がつけば、空気がひりつき始めていた。
明らかに俺の周りの奴らの雑談が止まっている。
クラスのみんなが明らかに俺たちの会話に耳を傾けている。
喉がからっからだ。口の中の水分がいつのまにか全部なくなっている。
「ぎゃ、逆に聞きたいのだけど」
「いいよ」
「田所は好きなやついるのか?」
言った。言ってやった。
逆転の手だぞ。
「秘密」
「はぁぁぁ、人にさんざんそんなこと聞いておきながら自分は秘密かぁい! ずるい!」
「ずるくありませーん。乙女の秘密です」
「乙女ってガラじゃないだろ」
「は? ぴちぴちの乙女だけど?」
「うーん、男勝りな感じはあんまり乙女って感じじゃないな」
「ひっどーい! そんなこと言うなんて」
「たりめーだろ。俺はなんかはぐらかされるの嫌いなんだよ」
「なるほど、そういうのは嫌いと」
「でも、お前のことは好きだぞ」
俺の言葉についに田所は黙り込む。
しびれを切らして言ってしまった。
もう大丈夫だろ。
ここまで来て不毛な争いに終止符を打とう。
衆人環視の中の告白は趣味じゃないが仕方ない。
「え?」
「え?」
「聞こえなかったなー。もっと大きな声で言って欲しいな」
――こいつ! 欲張りか! メチャクチャ聞こえてたリアクションしてたじゃねーか今。
そうでなきゃ、視力検査じゃなくて聴力検査でもして耳に異常がないか確認してこいっての。
「あー言ってやるよ。俺は俺のことを好きだと思ってくれる奴が好きだね。名前がかわいくて、胸が大きくて、泣きぼくろがあって、運動が得意で、ポニーテールしてて、気さくで明るい性格してて、まあなんというか、そんな感じの奴が好きなんだよ。
お前はそういう奴をちゃんと紹介してくれるんだよな?」
「…………」
教室の誰もが黙り込んだ。
誰もが彼女の答えを、田所の返事を待っている。
もうここまで来たらエンディングはただ一つのはずだ。
――さあ、応えてくれ。田所。お前の返事を聞かせてくれ。
「んー、そういう子が見つかったらまた教えてあげる」
がくっと膝から崩れ落ちる。
俺だけではない、教室の色んなところからなにやら憐れんだりする目線や声が聞こえてきた。
キーンコーンカーンコーン
授業開始の予鈴が鳴る。休み時間は終わってしまった。
男子達が席に戻る最中、何人かが背中を叩いて「どんまい」と声をかけていく。
終わった。
何もかも終わってしまった。
と、スマホにメッセージの着信が届く。
ちらりと覗くと「告白とか、は二人っきりの時にするのが好みかな」と書いてあった。
はっとして隣の席を見る。
いつの間にやら田所の顔は真っ赤になっていた。
俺はスマホで「放課後、時間ある?」とメッセージを送った。
「メチャクチャある」って即座に返ってきた。
どうやら、まだ俺にはチャンスが残っているらしかった。
了
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