第23話 変化

 車通りの少ない夜の道を、ライトを点灯した三台の自転車が、一列に並んで走っていた。

 二人の回転する細いタイヤを、前田のライトが照らしている。見上げると、空はすっかり暗くなっていた。路上の街灯がうつしだす三人の影は、つぎつぎと右から左へと走り去っていく。


 神社のところまで戻ると、先頭の大倉が、突然スピードをゆるめた。前田も急いで、ブレーキをにぎる。キィッという嫌な音が、銀色のママチャリから夜の空へと響き渡り、けたたましい虫たちの鳴き声にかき消されていく。


「どうした?」


 完全に止まった大倉に、前田は後ろから声をかけた。


「あれ」


 大倉の代わりに、すぐ前にいた啓太が、前方を指でさし示した。

 啓太の指の先をたどってみると、そこには複数の自転車が、路上にはみ出して駐められていた。神社に続く、木材を土に埋め込むような形で作られた階段の前である。


「サッカー部かな」


 大倉は言うと、マウンテンバイクをひょいとおり、駐められている自転車の傍らに並べた。スタンドを蹴りおろす小気味好い音が、夜の森林に吸い込まれていく。啓太と前田もそれに続いて、自転車をおり、なるべく雑木林に沿うように自転車を置き、スタンドをおろした。虫たちの雑多な声が、さっきより一段と大きくなっている。


 大倉は、ずんずんと階段をのぼっていく。その背中を、前田と啓太は並んで追いかけた。

 階段が折れ曲がり、少し広くなっている傍らに、背の高い灯りがぽつんと置いてある。その周囲の葉だけが、みずみずしい若緑色になっていて、夜の森林にささやかなグラデーションをほどこしている。近づくと、その光を中心に、小さな虫たちが飛び交っていた。


「いた」


 階段の上から、大倉が、前田と啓太を振り返って言った。

 二人も追いつくと、大倉が顎で示した方向に目をやった。すると、砂利道に立てられた街灯の明かりの下に、若者数人が群がっているのが目に入った。間違いなく、サッカー部だ。

 三人は、砂利を踏みながら、サッカー部に近づいた。その音に気がついたのか、一人がこちらを振り向き、両手をあげた。さらに近づくと、その一人の後ろに、地面にひざまずいている人影が見えた。それを見て、新しく来た三人は、思わず足を止めた。


「ごめん、俺のせいだ。ごめん」


 涙を砂利の上に落としながら、陸はむせび泣いていた。時々しゃくり上げるように息を吸い、嗚咽とともにそれを吐き出す。五十嵐が何かをささやきながら、陸の背中をさすっていた。

 新しく来た三人は、それをサッカー部の輪の外からただ見つめていた。

 啓太は、むせび泣く陸を見て、自分の頬が熱くなるのを感じた。鼻の先がツーンとして、何かが溢れてくる。啓太は、必死にこらえようと、唇を噛みしめ、夜空を見上げた。

 重たい曇天の夜空には、闇の濃淡ができていた。その最も暗い、雲の切れ目を、啓太はじっと見つめた。

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