第22話 合流

 アスファルトの坂道を、啓太は駆けあがっていた。息を切らしながら、重力に逆らって、足を前へ、前へと進めていく。視界を流れていく黒色のアスファルトの上に、白色のスニーカーが現れては消え、現れては消える。


「けいた!」


 聞き覚えのある声に、啓太は顔を上げた。前髪をつたっていた汗が、きらめきながらはじける。見ると、道路の反対側を、二台の自転車がスピードをゆるめながら下ってきていた。


「なにやってんの」


 白色のマウンテンバイクを止め、片足をペダルからはずした大倉が、道路越しに声を張った。その後ろに、ママチャリが止まった。ママチャリに乗っているのは、前田だ。


「サッカー部、見なかった?」


 膝に手をつき、息をぜえぜえさせながら、啓太は声を張りあげた。

 啓太の言葉に、大倉と前田は顔を見合わせた。


「牧野を、捜してるのか」


 言いながら、大倉は車が来ていないのを見計らって、向こう側から道路を横切ってきた。前田もそれに続いて、こちら側に渡ってくる。


「うん、まあ」


 近づいてきた大倉のマウンテンバイクのベルのあたりに手をかけ、啓太は息を整えようと、大きく深呼吸した。


「この先には、いないと思う。誰にも会わなかった」


 大倉が、坂を見上げて言った。


「そっか、ありがとう」


 啓太は呼吸を落ちつかせながら、頷いた。アスファルトの上に、髪の毛をつたった汗が落ちる。


「チャリじゃないの」


 大倉の後ろから、前田が顔をのぞかせた。


「チャリのカギ、家に忘れてきちゃった」

「うちに、もう一台あるよ」

「え」


 前田の言葉に、啓太は前田の顔を見返した。


「兄ちゃんのが、一台残っている」



 それから三人は、前田の団地まで戻り、啓太は、少しサドルの高いママチャリにまたがった。


「次は、どこに行く」

「ちょっと遠いけど、神社かな」


 大倉は、マウンテンバイクの骨に取り付けられたボトルを手に取り、水をふくみながら言った。

 

 陽は、もう傾きはじめていた。空一面を覆う雲の向こうに、皿のような太陽が見える。神社に向けて走り出した三人のうすい影が、車道に伸びている。タイヤの楕円形の影が、照らされたアスファルトの上を滑っていく。


 神社を通り過ぎ、隣町の中学校につく頃には、日は暮れかけていた。曇り空の果てに、赤い夕日が輝いている。東側の空は、すでに濃厚な、とっぷりとした紺色が優勢だ。

 三人は、中学校の校門の前で顔を見合わせ、引き返すことにした。さっきよりも細長く、三人の影は伸びていた。

 

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