終章
第20話 捜索開始!
目が覚めた。目の前にあるのは、殺風景で、うすくらい天井。朝日が、カーテン越しに部屋を明るく照らしている。
前田は、上体を起こした。寝汗で下着がしめっていて、肌寒い。
――バタバタバタ!
カーテンの向こうで、鳥の羽ばたく音がした。
家の中は、しんとしていた。物音ひとつしない。前田は、学習机の上に置いてあるデジタル時計に目をやった。時刻は、午前十時をまわっている。もう両親は、とっくに仕事に出ている時間だ。
前田は髪をくしゃくしゃと乱しながら、ベッドから降りた。足の裏にも汗をかいているのか、床に足をつくと、皮がひとひとと張り付いた。
居間に出ると、トーストをのせた皿が、ひろい食卓の中央におかれていた。前田はそれを皿ごと手に取り、台所の電子レンジに放り込んだ。ピ、ピ、と温める時間を設定していたそのとき、
ピンポン。
インターホンが鳴った。
前田は、電子レンジはそのまま、居間にあるモニターをのぞいた。郵便かなにかだろうと思ってみると、モニターには見慣れない光景が映っていた。大倉が、そわそわしたふうで立っていたのだ。
「なに」
応答ボタンを押し、ぶっきらぼうに前田は言った。すると大倉は、顔をインターホンに近づけてきた。
『前田さ、牧野のこと、なんか知らないの』
画面越しの大倉の言葉に、前田の心臓がびくんと飛び上がった。
「知らないよ」
動揺を悟られぬよう、前田は必死におさえた語調でこたえる。
『そっか』
大倉はうつむいて、しばらく何かを考えるように沈黙した。そして、ふたたびモニターに視線を向け、口をひらいた。
『捜しに行かない?』
「え」
『なんか、サッカー部も捜してるらしい』
大倉の提案に、前田は言葉をつまらせた。大倉は、前田の返答をまちのぞむ目をこちらに向けている。
――でも、ここで断る方が、不自然か。
やがて、そう考えた前田は、平静を装いながらこたえた。
「わかった。行こう」
前田がこたえると、大倉はほっと安堵した表情を浮かべた。
「待ってて。今、着替えて降りるよ」
階段を降りると、大倉が白いマウンテンバイクに手をかけて待っていた。白いTシャツを着た大倉は、制服姿の大倉より、いくらか輝いて見える。
「どこまで、行くつもり」
「わからないけど、神社のある山の方とか」
大倉はそう言って、マウンテンバイクにまたがった。前田は狭苦しい駐輪場から、銀色のママチャリを引っぱり出す。
「天気、大丈夫かな」
カギを差しながら、前田は白んだ空を見上げた。灰色の雲が、空一面を覆っている。いつ降り出しても、おかしくはない空模様だ。
「大丈夫。今日は曇るだけって天気予報で」
大倉は、ペダルを一周ぐるりと回し、片足をかけた。「行こう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます