第7話 ゆがんだ木目
「牧野のことなんだが、けさ牧野を見たというやつはいないか」
石崎が投げかけると、まだ昼休みの余韻が残っていたクラスに、妙な緊張と困惑が広がった。
誰かが椅子を引く音が教室に響き、突如として広がった静寂をきわだたせる。
石崎はしばらく生徒一人一人の顔を確認するように、教室全体を見渡した。
前田は思わず、視線を伏せた。机のぐにゃぐにゃとゆがんだ木目模様を、じっと眺める。
しばらくして、反応がないとわかると、石崎は一つ嘆息して続けた。
「実は、牧野が行方不明なんだ。けさいつも通り家を出たそうだが、学校には来ていない」
静まり返っていた教室に、各々の不安や動揺が漂い始めた。それは電磁波のように教室の隅々にまで渡り、緊張感を漲らせる。
前田は、その電磁波がすべて自分に集まっているように感じた。額から汗が噴き出し始め、大きなしずくが、木目模様の上に落ちる。
石崎は、息を大きく吸い、ゆっくりと口をひらく。
「わかった。もし、この場では言えないが、なにか心当たりがある人がいれば、あとで職員室に来て、申し出てくれ」
石崎はそう言い残すと、足早に教室前方のドアから教室を出て行った。教室を出たすぐ後に、石崎の小さな声で、すみません、と言ったのが聞こえると、交代に数学の先生が教室に入ってきた。
数学教師は教壇に立つと、いつもと変わらぬひょうひょうとした物言いで、出欠をとりはじめた。このクラスに漂う不気味な電磁波に感づいて、わざと雰囲気に合わない態度をとっているようにも思える。
数学教師のかんたんな出欠確認が終わり、あと数秒で授業はじめのチャイムが鳴るというとき、生徒会の仕事で遅れたらしい啓太が、後方のドアからそそくさと教室に入ってきた。
啓太が席に着くのを待ったようにチャイムが鳴り、数学の授業が始まった。
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