第二章
第6話 前田康太朗の冷や汗
――俺は、捕まるのか。
昼休みが終わる頃、二年B組の
朝の鐘が鳴ってから、震えと冷や汗が止まらない。昼休みには、下着全体に汗がしみ込んで、まだ夏の暑さが残る九月中旬だというのに、窓から吹き込む弱々しい風に寒気を感じる。
いつも自分より早く登校する牧野の席が空席であるのを見たとき、前田の全身に、鳥肌が走った。
それでもなんとか平静を保ち、前田は教室に誰かが入ってくるたびに、そちらに首を回して顔を確認した。しかし、牧野はとうとう姿を現さなかった。
それに加えて、担任の石崎も、一向に教室に姿を現さない。会議中だと聞かされたときには、心臓がびくんと跳ね上がった。
――警察は必ずあの男にたどり着く。そしたら自分の名前も挙がるはずだ。もし、そんなことになれば・・・・・・。
前田は青ざめた表情で、午前を過ごすことになった。給食もろくに喉を通らず、同じ班の女子にも「ねえ大丈夫?保健室行ったら方がいいんじゃ」と心配された。前田自身、本当に保健室に行って身体を休めようと思った。しかし、身体が動こうとしない。牧野のことを考えると、後悔と恐怖に支配された身体はどんよりと重たく、歩くことすらできなかったのだ。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、学校全体が次の授業に動き始めた。生徒が続々と教室に戻ってきて、ほとんどの生徒が揃ったとき、教卓の前に現れたのは、担任の石崎だった。
教室中の視線が石崎に集まった。
次の時間は、数学だ。石崎ではない。
クラス中が、一度に困惑したのがわかる。
「え、先生数学できるんすか」
クラスの一人が、からかい混じりの言葉を放った。いつも先生にちょっかいを出しては怒られているやつだ。この程度のからかいであれば、石崎はいつも笑って対応する。しかし、
「いいから、座れ」
神妙な顔つきの石崎から発せられたのは、短くて小さいが、生徒を圧する威厳をもつ声だった。
生徒は石崎の反応に、ただ事ではない何かを感じとったようで、それ以上何も言わずに席に座った。
「生徒会は仕事か。それ以外は、全員揃ってるな」
石崎はクラス全体を見渡すと、啓太の席が空席であることのみを確認し、再び教室全体に視線を投げた。
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