第4話 靴隠し
「靴、隠そうぜ」
上履きを脱ぎ、それを下駄箱にほいと放り込むと、啓太は口走っていた。
悪意があったわけではない。純粋に、そうすれば面白くなると思ったのだ。
牧野だって、外靴がなくなっていたら、すぐに陸たちが犯人だとわかるはずだ。そうしたら、牧野は笑いながら追いかけてくるに違いない。それを見てみんなで大爆笑。それから牧野に靴をかえし、そこからはいつも通りいっしょに帰る。
啓太の頭のなかで、有名なドッキリバラエティの映像が再生された。面白いツッコミをいれながら靴をさがす牧野の映像を、スタジオにいる自分たちが笑いながら見ている。
「やば、いいね」
啓太の提案に、隣で外靴のヒモを結んでいた陸は、白い歯をにやりと見せて笑った。
「よっしゃ」
啓太は、陸の反応にいきおいを得て、自分の外靴といっしょに、その隣にある牧野の外靴をとり出した。
☆
それから先、あまり記憶が残っていない。
牧野の靴を持って、陸たちと一緒にそそくさと昇降口を出たまではいい。しかし、そのすぐあとには、牧野が憤然とした顔つきで、自分から外靴をひったくっていく光景だけが頭に残っていた。
ふざけんなよ。
昨日以来、この一言が、啓太の耳にこびりついて離れない。
☆
校門を出て、最初の曲がり角のところで、啓太たちは牧野の様子をうかがっていた。
いつもの帰り道に通る角なので、校門から出た牧野も、真っ先にこっちに向かってきた。
最初は、靴下姿で近づいてくる牧野を見ながら、みんなでくすくす笑っていたが、牧野の表情が見えてきた辺りで、啓太は妙な緊張を覚えた。
啓太の予想に反して、牧野は鋭い目つきで、啓太たちを睨みつけていたのだ。
啓太はどうしてよいかわからず、中途半端な笑みを浮かべながら、角から姿を現した。
「牧野、くつ、これ」
にやけている啓太の顔を一目見ると、牧野はチッと聞こえよがしの舌打ちをして、啓太の手から靴をひったくった。
「ふざけんなよ」
牧野は、眉間に皺を寄せ、ひったくった靴を履きながら啓太を睨みつけた。
「キレんなって、牧野」
牧野の予想外な反応にあっけにとられた啓太の横から、陸が口を出して、牧野の肩を軽く叩いた。
「ほんとウザい」
牧野は小さな声でそうこぼすと、陸の手を振り払った。
「俺、今日あっちから帰る」
牧野は靴を履いてそう言い残すと、憤然とした態度のまま、来た道を戻っていった。
「牧野ごめんって」
おどろきで固まってしまった啓太の隣から、陸は牧野の背中にそう叫んだ。
しかし、牧野は振り返ることも、足を緩めることもなく、そのまままっすぐ離れて行ってしまった。
「あ、今日水曜日じゃん」
牧野が去ってから、その場にいた一人が、思い出したようにそう言った。
「あ、ピアノ・・・・・・」
牧野が怒った理由に気がついた陸は、わざとらしく舌を出した。
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