第1話 確かなる決意

「今日から2人には魔王継承権を巡って対決してもらう!」


 魔王である父様にそう高々と宣言した。そのことに思わずはぁ?と言ってしまった。ルシラ姉様もあらといつもの微笑みを消して言ったため、姉様も少なからず動揺しているようだ。


「でもお父様、わたくしラファちゃんと対決だなんて…したくありませんわ」

「うむ、お前たちが仲の良い姉妹なのは知っているが…これは決まりだ」

「どうして対決なんてしなくてはならないのですか?まだ父様は元気でお若いじゃないですか」

「何が起こるか分からないのがこの世だ。早めに決めておいた方がいいこともある。グライアス様死後直後では次期魔王を決めていなかったため玉座の空白が長く、アンガノフが混乱した時代もある」

「あの時は戦争もしていたから余計に混乱したでしょうね」

「確かに備えがあった方が安心ではありますね…」


 グライアス様は1000歳〜1500歳まで生きる魔王族の中で、507歳という若さで戦死してしまった王様だ。自ら戦地に赴き勝利に導いたが、その後戦死してしまったことによりアンガノフは王の空白期間で混乱に陥り、王族も次期魔王を決めていなかったために長い話し合いが続いた。そのため戦況は覆ってしまい、グライアス様の残したものを守れなかった。アタシは全然まだ生まれてないからどうしようもないけど。

 でもそんな歴史があるため次期魔王を決めておくというのはいいかもしれない。


「ですが父様、アタシは姉様より劣る存在です。なのにどうして結果が分かりきった対決をしなくてはならないのですか」

「お前は何も分かっていない」

「…何がです」

「とにかく、この対決には意味がある。お前たちに拒否権はない。各々準備をしておくように」


 まだ納得がいっていないのに解散するように促されて、渋々王の間を出る。本当に意味がわからない。どうしてわざわざ対決なんてしなくちゃいけないわけ!?


「姉様!対決だなんて…納得してんの!?」

「うぅん…でもお父様が決めてしまったものだし…あのお父様相手に抗議は難しいわ…」

「頑固だしね…!」


 あぁ、ムカつく…!

 姉様は困ったような笑みを浮かべながら、どうしようか考えているのか右手の人差し指を親指の爪で引っ掻くように撫でている。姉様がイラついた時にする仕草だ。爪を立ててはいないためそんなにイラつきはしていなさそうだが、今回のことに少なからず不満があるらしい。それが自分と同等にさせられたことだったらどうするべきだろう、嫌われるのは勘弁だ。


「ルシラお嬢様、ラファお嬢様」


 名前を呼ばれて姉様と同時に声のした方に振り向くと、マーヤという侍女が2人の男を従えてこちらを見ていた。昔からここで働いているマーヤはアタシや父様に臆することなくいつも毅然とした態度をしている。そんな彼女を見ると、なぜ自分はこんなにイラついてるのかわからなくなるように、自分も落ち着いてくる。


「あら!マーヤったら!やっといい男の人を見つけたの?私応援するわ!…でも、どちらの男性となのかしら?」

「早とちりですルシラお嬢様。この人たちはあなた方の付き人になる者です」

「「付き人?」」

「旦那様のご命令で継承権争い中に何か不正を行わないか監視する目的と騎士としてお嬢様方を守るお役目を務められる方をお二人に付けるようにとご命令されていました」


 アンガノフの王族は基本的に自分の身は自分で守ることが多い上に生活も自力でなんとかする。魔法が強大であるため人に頼らずとも大抵のことはできるからだ。それでも自分の身の回りのことだけを自力でやるため、城全部の掃除や秘書、庭の手入れなど人に頼むことは多い。だから城には侍従はたくさんいる。そうしたほうが国民の仕事も増えるという計らいもある。そして、そんな強大な力を持つアンガノフの王族にもちろん騎士がつけられることはある。アタシたち姉妹も幼い頃は騎士もお目付役もいた。その他にも子が1人であったり魔力が弱かったりと様々な理由でつけられることはあるが…。この歳になってそういった理由もなく突然つけられるとは。まぁ、監視役も備えてるようだけど…。


「女性はいなかったの?」

「性別を気にすることはないかと思いまして。それから、この人たちは性別はありません。見た目、性格ともに男性寄りですが生殖するための器官が存在していないのです。ですからそういった面での心配はないかと」

「!」

「あら…」


 監視役というならばほとんど共に過ごす必要があるのになぜ異性を選んだのか問い詰めると、思いもしない返答がきた。ちらりとマーヤの後ろに立っている白髪の男を見るが、彼は目を伏せこちらを見る気配はなかった。いや、男ではないということなのか?身体的特徴を見る限り魔人族ではありそうだが…性別がないとなると名前を知らなければ困る。

 そんなことを考えながら観察したが、その人たちはどことなく生気を感じられなく、生きた魔族なのかを問う。


「いえ…傀儡くぐつを作り出すのが得意な魔女が生んだものです。その魔女が魔力を注いでいるため魔法も少しですが使えます」

「だから性別は関係ないと思ったのね…」

「魔力を注がれているのなら悪魔族に近しいのかしら?魔力が尽きたらどうするの?」

「その魔女も近々こちらにきて過ごす予定ですので心配なさらず。さぁ、お前はルシラお嬢様に、お前はラファお嬢様に尽きなさい」


 マーヤに指示されたように男たちは動いた。白髪に黄色い目を持つ男は姉様の元に近寄り跪く。自分の立場は分かってるみたいね。

 そしてアタシの元には黒髪黒目のなにを考えているか分からないような男は小さく会釈をした。その後に跪く男を見て同じように跪いてみせた。


「ルシラお嬢様の方はカイル、ラファお嬢様の方はアランといいます」

「「よろしくお願い致します」」

「カイルね、よろしく」

「…よろしく」


 姉様に見られていないことを確認してカイルを睨みつける。姉様にとって不利益なことを少しでもしてみせたら殺してやる。どうせ傀儡だ、罰にはならないだろう。親の魔女にも奴が何したか説明すればいい。


「姉様、アタシもう部屋に行くわ。昨日徹夜してあまり寝てないから眠たい」

「あらあら、だからお顔が少しお疲れ気味だったのね。姉様が添い寝しましょうか?」

「っ…もうアタシは1人で寝れる年齢よ、姉様」

「えー…そんな寂しいこと言わないで?たまには一緒に寝たいわぁ」

「そ、それは…また別日、夜にいたしましょう。お昼寝に付き合わせるのは心苦しいから」

「そういうなら……今度絶対よ?」


 姉様が上目遣いで言うものだから、抵抗することもできず頷く。これで自分の可愛さを分かってるわけじゃないんだから恐ろしい…。姉様に負けて欲求を全て飲まないようにそれじゃ行くからとその場を去る。


「行くわよアラン」

「はい」


 従順に後ろをついてくるアランの気配を感じつつ、振り返らずに真っ直ぐ自室に向かう。

 監視まで付けるなんて父様が本気なのは分かった。今後どんな試練を与えてくるかは分からないけど何か策を練らなくてはならない。アタシは絶対に魔王なんかにならない。なりたくない。あんな…あんな…。


 めんっどくさそうなものやりたくない!


 魔王で偉いって言っても仕事は多い。人に仕事を割り振るのも仕事だから全てをやらねばならないわけではなく、自由時間は確かに多いができることは限られる!丸一日寝て過ごしたりなんかしたら家臣の評価も下がるだろうし。そうやって周りの目を気にしなきゃいけないのも嫌!めんどくさい!アタシは寝て好きなことして好きな人に囲まれて過ごしたいのよ!何もしたくない!養われたい!働きたくない!だってめんどうだから!!


 だから絶対に魔王になんてなってやるものか!継承権は姉様に譲るわ!!

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