エピソードⅧ 六日目 さらば、涙と言おう(最終回)
Ⅷ-①
黒龍寺 10月26日(土) 01:05時――
瞑想していたシズルカの目が、ゆっくりと開いた。
『時は満ちた。この星が我に飲まれる様を、とくと見よ!』
シズルカは、赤い星を背に両手を広げる。するとそこにマキシ・ミリアが現れ、
『『戦乙女神 シズルカ』、アナタは間違いを犯した。よってこの『地母神 マキシ・ミリア』が、裁きを下します!』
『裁きだと? 面白い、やってみよ』
シズルカの前に、薫、リナ、雪乃、忍、それに穂香が立ちはだかった。
『この者たちに、女神の祝福を与えます。【メテオ・ブリージング】!』ファァァ
マキシ・ミリアの両手から、桃色のオーラが放出され、4人を包んだ。
桃色のオーラが消え、残った4人は、
「ヤリィ、元に戻ったぜ」
「アナタはほとんど変わっていなかったでしょう?」
「ある。ない。やった。戻った!」
リナ、雪乃、忍は、【事象改変】から解放され、元の姿に戻っている。そして、薫も。
「薫ちゃん? なの?」
「ワリィ、そう言うこった」
穂香は、目の前の変わり果てた薫を見て、驚きを隠せないでいる。そこに静流が、
「穂香姉さん、騙すような恰好になってしまい、すいません。僕や薫兄たちは、女神の依頼を受けて、穂香姉さんを護る為にココに来た、別の世界の者です」
「静流、補足説明サンキューな」
「そうか。そうだったんだ……」
「怒らないのか?」
「ううん、怒るなんて、逆に感謝しかないよ」
「そう言ってもらえると、少しは楽になるな」
薫は癖である、首の後ろを搔く仕草をする。
「その癖……やっぱり薫ちゃんだ」パァァ
「この姿でちゃん付けは、こそばゆいな」パァァ
穂香と薫は、穏やかな顔で語り合っている。するとシズルカが言う。
『ええい、何を話している! まぁイイ。この星が生まれ変わる様を、せいぜい眺めていろ!』
マキシ・ミリアは、ここぞとばかりに祝福を与えたみんなに告げた。
『今です皆さん! 武器を召喚するのです! そして先ほど皆さんの脳に直接、魔法の術式を送りました。ぶっつけ本番ですが、あの星に、かましてやって下さい!』
静流が言っていた、「マキシ・ミリアからのプレゼント」とは、この事だったのだろうか?
「だってよ? アニキ」
「ああ、ぶちかますぞ! お前たち!」
「「「了解!」」」
薫は、オシリスを呼んだ。
「おい、ケツ! もう一度召喚だ!」
「え? もう一回呼ぶの? 出来るかしら?」
「つべこべ言うな! 早くしろ!」
「はぁ。懐かしいわ、この感じ。精霊扱いがヒドいのよね」
「おい、早くしろ、ケツ」
「術式展開! オッケーです、薫様」
オシリスが魔法陣を展開した。
『逆巻け烈風、轟け雷鳴、吹き荒れろ、嵐!』ゴゥ
薫が呪文を唱えると、身体を桃色のつむじ風が覆う。
つむじ風が止み、金色の鎧をまとった薫が現れた。
「ククク……この感覚。これでイイんだ!」
「ふぅ。今度はちゃんと呼べたわね」
薫が召喚した鎧は、先ほどの頼りない女性用とは全然違う、ゴツい男性用の鎧だった。
「お前たちも準備しろ! 来い! 『震電』!」ブンッ
薫の鎧召喚に見とれていた他の者たちも、武器を召喚する。
「おうよアニキ! 来い!『カイザーナックル』!」ガシィン!
「来なさい!『アーネスト・ボーグナイン』!」シュン
「来い!『夢幻苦無』」シュパ
「穂香、お前も出すんだ!」
「わかった! 来て、『ザクレロス』」ブンッ
全員の武器召喚が終わり、静流が露払いを務めるようだ。
「先ずは僕が攻撃位置を決めます。行くぞ!『一刀両断』『疾風迅雷』『疾風怒涛』!!」バヒュッ!
静流は、先ほど放った斬撃に、技カードを2枚重ね、上乗せコンボを狙う。
静流が放った衝撃波が、物凄い速さで赤い星に向かって真っすぐ飛んでいく。
「次、お願いします!リナ姉」
「おうよ! 行くぜ!【ギャラクティカ・インフェルノ】!!」ゴゥ!
リナが技名を叫び、右ストレートを放つ。炎をまとった拳が目標に向かって真っすぐ飛んで行った。
「次は私ね? 蹂躙せよ!【千本ノック】!!」タタタタ!
雪乃が技名を言うと、無数の光球が生み出され、それを雪乃は見えない位速いスイングで、正確に目標に向かって打ち出している。
「削ぎ落せ、【ブラックレイン】!」
忍が技名をつぶやくと、物凄い量の苦無が、目標に向かって飛んで行った。
『何をする! まぁお前たちの攻撃など、何とも、ま、待て!』
余裕ぶっていたシズルカは、目まぐるしく変わる状況に狼狽えた。
「シズルカさんよ、これで終わりにしようぜ?」
「食らえ! 【ローリング・サンダー・スラッシュ】!!」ザシュッ!
最期に薫が放った斬撃は、赤い星に当たり、斜めに傷を付けた。
『ぬうぅ……神格を切り裂いた、だと?』
『今です! 穂香、あの傷に、すべての魔力を注いだ矢を放つのです!』
「はい! 打ち破れ!【破魔矢】!!」ビシュッ!
パァァァァ!
薫たちが作った傷に穂香の矢が刺さり、矢から桃色のオーラが放出され、赤い星がオーラに飲み込まれていった。
『おのれ、マキシ・ミリアめぇぇ!』
思念体である、半透明のシズルカが、次第に薄くなっていく。
桃色のオーラが消え、赤い星の代わりに空から桃色に光る立方体が、ゆっくりと降りて来た。
それをマキシ・ミリアが受け取る。
『皆さん、これは、シズルカの神格です。危機は去りました』
女神の宣言により、シズルカの野望は潰えた事が確定した。
「やったのか? 終わったんだな?」
「どうだい! アタイたちの必殺技!」
「静流ぅ、今行くわ」
「さしずめ、『荒ぶる女神を鎮めた英雄たち』とでも呼んでくださいまし」キリッ!
「うぉぉぉー!」
この場に残った少数のスタッフたちが、勝どきを上げた。
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