Ⅶ-③

 忍たちが相手にしているのは、吽形うんぎょうと呼ばれる方の仁王像である。


 カカカカッ


「硬い、コイツ、木彫りだったよね?」

 

 忍は苦無を投げ続けているが、一向に刺さらないので、イラついている。


 ガチィィン


「確かに硬いな。アタイの右ストレートが全然効いてない」


 リナは吽形に籠手でパンチを繰り出すも、ビクともしなかった。


 ボゴッ


「それ、態勢が崩れましたよ! 攻撃の手を緩めないで!」


 雪乃が吽形の足を殴ると、吽形の姿勢がグラついた。



              ◆ ◆ ◆ ◆


「うりゃあぁぁぁ!」


 ガチィィィン! 


 薫は先ほどから阿形に、ことごとく攻撃を受け止められ、苦戦している。


「薫様、もっとパワーを!」

「クッ! ダメだ! この身体じゃ、レベル3が限界か!?」


 薫が阿形に押し負かされそうになっている。その時、


「薫兄、避けて!」

「静流か!?」



 『一刀両断!!』ビシッ!



 ズ、ズゥーン



 静流が刀から放った波動を浴び、阿形が真っ二つに裂け、倒れた。


「よし、先ずは一体と」


 静流は刀を鞘に納めた。


「お前、静流、なのか?」 

「薫兄、今は薫姉か。久しぶりだね」ニパァ

「お前、強いな。惚れちゃうぞ?」

「いやいや、フルパワーの薫兄だったら、こんなの瞬殺でしょ?」

「ま、まぁな。おいケツ、お前のご主人様って、静流なのか?」


 薫がそう聞くと、オシリスが静流の肩に飛び移った。


「そう。いろいろあって、今のご主人様は静流よ」

「静流、お前も女神からの依頼を受けたのか?」

「うん。そんなところ。薫子姉は?」

「悪い、アイツとは色々あってな。ココにはいない」

「そうなんだ。おっと、もう一体やっつけないと」

「おい静流、この後、どうすんだ?」

「女神様からの、素敵なプレゼントがあるから、楽しみにしてて」

「何だよそれ?」

「薫姉は、穂香姉さんに付いててあげてよ」

「穂香の所に行けばイイんだな? わかった」



              ◆ ◆ ◆ ◆



「クッ、強い!」

「おい、これじゃあ、らちが明かないぞ?」

「三人相手でこれですもん、どうしようも無いんですの」


 吽形を相手に三人がかりで戦っている所に、


「よし、このカードにしよう!」


 静流は腰にあるデッキケースから、技コマンドカード『疾風迅雷』を取り出し、カードスロットに挿入した。


「行くぞ!『疾風迅雷』!」シュババ


 静流は刀を抜き、超速でひたすら斬りまくっている。やがて、


 ズ、ズゥーン

 

 吽形は、無数の剣戟を食らい、もはや形を留めてはいなかった。

 それを横で見ていた三人に静流は、刀を鞘に納め、こう言った。



「皆さん、お待たせしてすいませんでした」ニパァ



「静坊、なのか?」

「静流さん?」

「はい。『ご無沙汰してます』であってます?」


 リナと雪乃は、呆気に取られたような顔をしていたが、


「じ、じずる~!!」ガシィ

「ぐぇ、うわぁ、忍、さん?」

 

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている顔の忍が、静流に危険タックルぎみに抱き付いた。


「静流、静流ぅ」

「ち、ちょっと落ち着いて、どうどう」


 忍に危険タックルで押し倒された静流は、抱き付かれた忍に甲冑越しに頬をスリスリされている。


「痛くないですか? 忍さん?」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 困った顔をしている静流には、右に忍、左に洋子がべったりとくっついている。


「静流ぅ、もう離さない!」

「静流様ぁ~。もうドコにも行かないで下さいぃ~」

「あー、もう。よしよし、全部終わったら、キミたちの話を聞くから」


 二人の頭を撫でてやり、落ち着かせる。


「「ぷしゅぅぅ」」


 忍たちが少し落ち着いたので、静流はこの後の段取りを、みんなの前で説明した。


「強くなったな、静坊」

「皆さんが知ってる僕って、中学生の頃でしょう? そりゃあ成長ぐらいしますよ」

「静流さん、アナタさっき、女神と対等に渡り合ってましたよね?」

「ああ、その事ですか。実はシズルカは、僕がベースですから」


 「「「「何ィィィ!」」」」


 一同は目を見開き、驚愕した。


「そう言えば、ちょっとどころじゃなく似てるな」

「僕が美術部のバイトでやった女神役を、名も無き高次元生命体が勝手に気に入って『神格』を手に入れたようです。名前も美術部の部長が思い付きで考えたものです。他の世界線にいた名も無き女神は、その時に同時に存在が書き換わったみたいです」


「つまり、ある意味静流さんは、『創造主』と言う事?」

「そう言う事になりますね。おっとしゃべり過ぎたかな? 詳しくは今度お会いした時に」

「それで、コッチのシズルカ様は、何でこんな無謀な事を?」

「そこまでは僕も。なんせ女神ですから」

「『神のみぞ知る』を地でいってるワケか」


 静流とシズルカのただならぬ関係を知り、一同はうなった。


「現状を確認します。シズルカは今、神格を呼ぶ事に集中して、瞑想に入っています」

「じゃあ、この隙に総攻撃するんだな? 静坊!」

「それじゃあダメなんです。あれは思念体なので、攻撃しても無意味です」

「じゃあどうすんだよ? このまま指くわえて見てんのか?」

「いやいや、ほっといたらシズルカに星ごと乗っ取られて、好き勝手に書き換えられちゃいますよ!」


 雪乃が赤い星の異変に気付いた。


「ねぇ、あの赤い星って、あんなに大きかったかしら?」

「うわぁ、もうこんなに? 頑張ってるな、シズルカ」

「結構余裕だよな、静坊」

「まぁね。僕らには『地母神 マキシ・ミリア』様が付いてるから」



『嬉しい事、言ってくれますね。静流』パァァ



 人間サイズのマキシ・ミリアが姿を現した。


「マキシ・ミリア様!?」

『穂香、アナタには随分な重荷を背負わせてしまいましたね。代わって謝罪します』

「そんな、私など……」


「マキシ・ミリア様、頼りにしてますよ? ね? 薫姉?」

「ん? 何だ、静流? 言ってる意味が良くわからんが?」

「薫ちゃん? 何か喋り方、変わってるよ?」

「そ、そぉかな? 気のせいだよ穂香ちゃん」


 ここからは、女神が直々に説明を始める。


『神格を限界まで近づけて、傷を付けます。破壊までは無理でしょうから』

「あの星に傷をこさえるのって、かなり無理ゲーじゃねぇ?」

『そこで、アナタたちに祝福を与え、【事象改変】を解除します』

「祝福? フルパワーでやれるって事っすか?」

『神同士の争いはご法度です。従ってアナタたちには、わたしの代理として、全力で神格を攻撃してもらいます』

「そんな事をしたら、バチあたりませんの?」

『あたりません。むしろ、『女神ポイント』はアップするでしょう』

「何ですの? それ」

『出たくないのですか? 『流刑ドーム』』

「もちろん、出たいです!」

『であれば、女神の言う事は、素直に聞いておく事がベターですね』


 この中で、穂香だけが会話についていけていない。


「みんなの言ってる事、よくわからないんだけど?」

「ほ、穂香ちゃんは、気にしなくてイイのよ」


『シズルカが瞑想から覚醒した時が、攻撃開始の合図としましょう』

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