Ⅶ-②

『こうなったら神格を呼び寄せる。この星すべてを憑りつくしてくれよう! フハハハ!』

『なんて愚かな。直ちにお止めなさい!』


 シズルカは人差し指をクイッと曲げた。すると、赤い星がひと際輝いた。


『フム。少しは時間稼ぎにはなるか。お前たち、適当に暴れていろ!』パチン


 シズルカが指パッチンをすると、少し間を置いて、地響きが起こり始めた。


「何だ? 地震か?」

「おい! アレを見ろ!」

「何じゃ、ありゃあ?」



 ズシン、ズシン、ズシン、ズシン



 何かが入口の石段を上って来る。


「仁王像、か?」

「動いてるぞ?どうなってるんだ?」


 入口の門にあった、4mほどの高さの二体一組の、仁王像であった。


「皆さん、裏門から避難してください!」

「うわぁぁぁ!」

「逃げろぉぉ!」


 スタッフたちがギャラリーたちを裏門に誘導している。


「親父、俺たちも避難しようぜ!?」

「ならん、私たちは最後まで見届ける」

「けどよぅ、俺たちがいても、邪魔なだけなんじゃないか?」


 兄が父親と非難するか否かでもめていると、穂香の意識が戻った。


「あれ? 私、どうしたのかしら?」

「穂香! 目が覚めたのね? 良かった」

「お母さん! 私、ごめんなさい!」

「謝るのは私! 穂香が無事なら、もう何もいらないわ」


 穂香が目覚め、母親と抱き合って泣いている。とそこに、


「穂香ちゃん!」

「薫ちゃん!?」


 泣いている二人に、薫は厳しい顔で告げた。


「叔母様、穂香ちゃんをお借りしたいのですが」

「そうね。けじめはつけないと。穂香、行きなさい!」

「うん、お母さん、行って来ます!」

「穂香ちゃんは、私が護ります!」

「頼んだぞ、薫クン」


 父親に穂香を託された薫は、穂香に手を差し伸べた。

 穂香は薫の手を取り、立ち上がって薫と共に、ステージの方へ駆けて行った。




              ◆ ◆ ◆ ◆




『この星は、我が自ら統治しよう。我に抗うお主らは、終いじゃ! フハハ!』


 シズルカは、神格と呼ぶ赤い星を呼び寄せる為、星に意識を集中させている。

 その間のつなぎとして、仁王像を暴れさせている。


「とりあえず、アイツらを止めるわよ! 穂香ちゃん、下がって!」

「私も、戦うよ!」

「大丈夫。穂香ちゃんにはもっと大事な役目があるから、そこでじっとしてて」

「うん。わかった」


 穂香を後方に下げ、薫は、リナ、雪乃、忍と共に、仁王像の所へ向かった。


「オシリス、いるか?」

「何? 薫様」

「アレ、召喚出来ると思うか?」

「アレ? ってまさか『風の精霊王』の鎧?」

「この身体じゃ、無理か?」

「一か八か、やってみましょう!」

「そう来なくちゃ!」


 薫はオシリスと共に、仁王像の一体の前に立った。


「術式展開! イイですよ、薫様」


 オシリスが魔法陣を展開した。



『逆巻け烈風、轟け雷鳴、吹き荒れろ、嵐!』ゴゥ



 薫が呪文を唱えると、身体を桃色のつむじ風が覆う。

 つむじ風が止み、金色の鎧をまとった薫が現れた。


「これが、アノ鎧か? 何か頼りないぞ?」

「随分乙女チックな鎧になったわね」


 薫が召喚した鎧は、女性用と言う事もあり、いささか華奢に見えた。

 

「来い! 『震電』!」ブンッ

「薫様、その刀は?」

「最近出来た相棒さ」


 黄金の鎧をまとった薫は、新しい相棒の『震電』を構え、仁王像に向かった。


「とりあえず召喚出来たんだ、ひと暴れするか!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 ちょっと離れた所で、薫が鎧を召喚しているところを見たリナたち。


「お? アネキが鎧召喚したぞ!」

「やるじゃないのオシリス。アノ身体でも、召喚出来たのね?」

「俺も、やってやるぜ!」

「忍?やけに気合入ってるじゃない?」

「早く終わらせて、静流に会いに行く! フン!」


 三人はそれぞれの相棒を召喚した。


「来い!『夢幻苦無』」シュパ


「来い!『カイザーナックル』!」ガシィン!


「来なさい!『アーネスト・ボーグナイン』!」シュン


「雪乃? そいつの名前か?それ」

「ほっといて下さい! 行くわよ! みんな!」


「「おう!!」」



              ◆ ◆ ◆ ◆


「うらぁ!」


 ガチィィィン! 


 薫が戦っているのは、阿形あぎょうと呼ばれている方の仁王像だった。

 阿形は、法具と呼ばれる武器を振り降ろし、薫はそれを震電で受け止めた。


「おい、コイツらって木彫りじゃなかったか?」

「シズルカが強化したのかも。油断しないで、薫様!」




              ◆ ◆ ◆ ◆



「穂香姉さん!」

「ゆず、静流クン、だね? いろいろありがとう」

「まだ安心出来ない。薫兄、じゃない薫姉たちは?」

「向こうで仁王像と戦ってる。私も行かないと」


 穂香が立ち上がろうとするのを、静流は制止した。


「待って、姉さんにはこのあと、やってもらいたい事があるんだ」

「私に? さっき薫ちゃんもそんな事、言ってた」

「そう。姉さんにしか出来ない事」

「僕は薫姉たちに加勢して来るから、ココで魔力を温存してて」

「気を付けて、静流クン」


 静流は、穂香にそう言うと、変身の構えを取った。

 静流は首に提げた勾玉を握り、変身のキーとなるワードを唱える。


「行くぞ!『念力招来』!!」ゴゥ


 静流の身体を桃色のオーラが覆い、バチバチとプラズマ現象が起こる。

 オーラが消え、中から戦国時代の鎧武者を思わせるデザインの防具を付けた静流が現れる。

 藍色を基調にした、オーソドックスなタイプの甲冑だった。


「じゃあ姉さん、行って来ます!」シュタッ


 そう言って裏ピース敬礼をした静流は、薫がいる方へ駆けて行った。


「あ、思い出した。アノ時のお侍さんだ」


 穂香は口に手をあて、目を見開いて驚いていた。


「夢じゃ……なかったんだ」

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