エピソードⅥ 五日目 サムライ

Ⅵ-①

五十嵐家 茂の部屋 10月25日(金) 07:00時――


 ミッション五日目、いよいよ穂香の『儀式』が、今日の深夜に迫った。

 穂香の兄である茂が、携帯で誰かと何か話している。


〔おい、どうなってるんだ? 穂香の奴、まだピンピンしてるぞ?〕

〔すいやせん坊ちゃん、ことごとく横から妨害が入るんでさぁ〕

〔もう時間が無い。多少手荒でもイイから、何とかしろ!〕

〔へい、坊ちゃん〕


「全く、使えない奴らめ」

(早く何とか手を打たないと、俺のメンツが……穂香め)


 茂は癖なのか、親指の爪を噛む仕草をした。




              ◆ ◆ ◆ ◆




太刀川高周辺 07:00時――


 リナが『組』の手下を数人連れ、何やら指示している。


「指示した所に穴、用意したな?」

「へい、ぬかり無く」

「姉様の指示通り、【遠隔障壁】で蓋をして、土被せときやした」

「よし、あとは獲物が掛かるのを待つだけだ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




バス停周辺  07:30時――


 路線バスがバス停に到着し、ドアが開いた。 プシュー


「御機嫌よう、穂香ちゃん」

「あれぇ? 薫ちゃん。早いね」

「今日は、穂香ちゃんと一緒に学校に行こうと思って」

「それでわざわざ? お家、逆なのに?」

「いいのよ。さあ、行きましょう」


 そう言うと薫は穂香の手を取った。

 薫たちには最後の登校になるので、それぞれが思うように過ごす事にした。

 当然、警備も怠らずに。


「明日、誕生日だね? 穂香ちゃん」

「ん? うん。とうとう来ちゃった、って感じだよ」

「大丈夫だよ。穂香ちゃんは私たちが護るから」

「ありがとう。でも危ない事は止めてよ?」


 高校が見えて来た。通学路にぽつぽつと生徒が見える。


「おかしいわね、この時間なのに、やけに生徒の数が少ないわ」

「確かにそうだね」


 薫は用心の為、身体レベルを1.85に上げる。

 異様な気配に気づき、振り向くと、黒いスーツの男が二人、近づいて来た。



「何ですか? アナタたちは」

「穂香お嬢! お覚悟!」


 黒いスーツの男がそう言うと、腰の後ろからドスを抜いた。


「うりゃあ!」

「せいっ!」ドゴッ!


 薫は穂香の前に立ち、ドスを交わしてボディに右ストレートを叩きこんだ。


「ぐはぁ」バタッ


「こいつぅ、やりやがったな!」


 一人の男が倒れた。もう一人がドスを抜いた。


「穂香ちゃん、学校の中に入って、早く!」

「わかった。気を付けて、薫ちゃん!」


 穂香は学校に向かい、駆けだした。


「穂香ちゃんに、何をするつもり?」

「うるせえ! お前には関係ねぇ!」

「こっちも、本気出すわよ? 来い!『震電』」ブン

 

 薫は震電を呼び出した。

 前に高円寺先生から聞いた事を思い出した。

 この震電は、雷系統の魔力を流すと、『高周波ブレード』のような特性を発揮するらしい。


「やってみるか。フン!」パァァ


 薫が雷系統の魔力を流す。すると刀身が紫色に光った。


「しゃらくせぇ! どけこらぁ!」

「クッ!」


 ガチィィィン!


 ドスに震電の刃が当たった瞬間、ドスは紙のように抵抗なく折れた。


「へ? 嘘だろ?」

「はぁぁ!」ドス!


 薫は刀の威力が凄まじい事に驚いたが、すぐに気持ちを切り替え、柄の部分で黒スーツ男の脇腹を突いた。


「ぐふぅ」バタッ


 黒スーツ男は気絶した。

 薫は刀身を鞘に納め、ノビた二人を拘束魔法で縛り、脇に転がしておく。


「穂香が心配だ。急ごう!」


 薫は学校に向けて走り出した。 




              ◆ ◆ ◆ ◆



通学路  07:35時――


 薫たちがいた地点より少し学校寄りに待機していたリナと手下。

 状況が動いた事に、リナはいち早く察知した。


「ん? おい! お前ら『平城京エイリアン』始めんぞ!」

「ウス!」

「まずは1番だ、よぉく引き付けろよ?」


 リナはタイミングを見計らっている。


「姉様、まだですかい?」

「もう少し、今だ、障壁解除!」

「ウス、【障壁解除】!」


 リナの視線の先で、黒スーツ男がいきなり陥没した地面に飲み込まれる。


「うっしゃぁぁ!」



「良し! 次2番!」

「ウス、【障壁解除】!」


 またもや黒スーツ男が地面に飲み込まれている。

 薫が追い付いて来たので、リナも合流する。


「よくやったリナ! 組員さんも!」グッ!


 薫がリナと手下をねぎらった。


「は! 勿体なきお言葉でやす。親分」

「え? 親分? 私が!?」


 薫が困った顔をし、リナは白い歯を見せ、悪戯小僧のように笑った。 


「そういう事にしといてくれよ、アネキ!」

「かましてやってくだせぇ、親分」

「ご挨拶、おねげえしやす、親分」


 リナが顎で指した先に、穴に落ちた黒スーツ男がいる。


「何だガキャア!」


 リナたちにあおられ、薫は穴に落ちた黒スーツ男を見下ろし、




『篠田組と言うもんですわ。今後とも、よろしゅう、お頼申します……じゃゴラァ!!』




「ひぃぃ、すんましぇん」


 薫の可愛い声を、精一杯ドスを利かせて黒スーツ男に浴びせた。

 黒スーツ男は、薫の内面から湧き出ているオーラに気圧されて、ビビりまくっている。


「しびれるなぁ、アネキィ。惚れ直したぜ!」

「さすがは、リナ姉様がアネキと呼ぶお方。ただもんじゃねえぜ!」

「親びんカッコイイ!」


「そうかしら? ちょっとやり過ぎたわね。フフフ」

 

 癖である首の後ろを搔く仕草をしながら、少し顔を赤らめた。その時、




 パァン!




 学校の方から乾いた銃声が聞こえた。


「は! リナ、穂香ちゃんは?」

「さっき、校門に入る所までは見えたぜ?」

「急ぐわよ! リナ!」


 薫はリナを連れ、一目散に校門を目指した。

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