エピソードⅤ 四日目 好敵手

Ⅴ-①

音楽室  10月24日(木) 07:45時――


 ミッション四日目。薫は、いつもの朝のお祈りより15分早く音楽室に着いた。


「さぁて、始めるか」


 薫は黒板の上にある、『戦乙女神 シズルカ』像と隣にある『地母神マキシ・ミリア』像の共にミニチュアに向かい、念話を始めた。


〔母さん、俺だ! 母さん!〕

〔う、う~ん、薫なの?〕

〔寝ぼけてないで、聞いてくれよ!〕

〔ちょっとノイズが入るわね、砂嵐かしら?〕

〔急ぎだったんで、学校のミニチュアで通信してるんだ〕

〔わかったわ。で、急ぎって何なの?〕

〔穂香が女神に乗っ取られるかも知れない〕

〔薫? 真の『黄昏の巫女』になるには、器を捧げないとダメなの〕

〔って事は、ハナからそのつもり、だったのか?〕

〔そりゃそうよ。【憑依受肉】というものはそう言うものよ〕

〔何だって!? じゃあ穂香は?〕

〔可哀そうだけど消滅してしまうわね。 器として選ばれたからには、仕方のない事よ〕

〔でも、あってはならない事だって、コンシェルジュが〕

〔下界にも結構いるのよ? 『神がかり』って聞いた事あるでしょ?〕

〔何てこった……阻止出来ないのか?〕

〔アンタまさか、ミッションを失敗させる気?〕

〔結果的に穂香を護るんだ、失敗じゃないぜ?〕

〔そんな屁理屈、女神様に通ると思って?〕

〔俺は諦めない、切るぞ〕ブチ


「くぅ、そんなのアリかよ!? なあ、女神様よぉ」

 

 薫はシズルカ像のミニチュアを睨んだ。


「アンタでもイイ。何とかしてくれ、マキシ・ミリア様」


 そして次に、隣に置いてあるマキシ・ミリア像のミニチュアに念じた。

 そうこうしていると、音楽室にいつもの面々が入って来た。


「まぁ御機嫌よう、随分熱心ですわね? 薫お姉様」

「御機嫌よう、皆さん」

「今日はお早いのですね。おわかり頂けましたか、お祈りの重要さを」

「ええ、まぁ」


 数人の生徒が入って来る中に、穂香がいた。


「あ、薫ちゃん、御機嫌よう」

「穂香ちゃん、御機嫌よう」


 心なしか薫に元気が無いのを、穂香は感じ取った。


「どうしたの? 伯母さんと何かあった?」

「ううん、大丈夫よ」


「さあ、皆さん揃いました。朝のお祈りを捧げましょう」


 そう言って、例の委員長風の女子が開始の号令をかけた。




              ◆ ◆ ◆ ◆



屋上 12:15時――


 午前授業が終わり、薫たちは屋上に向かった。

 雪乃が例によって屋上の鍵を開けてくれた。


「それで、どうでしたの? 伯母様とは連絡取れましたの?」

「取れた。母さんが言うには、ルート的には俺たちのバッドエンドらしい」

「つまり、穂香ちゃんがシズルカに乗っ取られる、と?」

「ああ。神が人を食うのは、過去に何度もあった事らしいぜ」

「何とかならないのか? アネキ?」

「午前中ずぅっと考えてた。でも何をすればイイか思いつかない」

「相手が女神ですもの。出し抜くのはかなり難しいわね」

「穂香には何て言ったんだ? アネキ?」

「母さんにもわからない、って事にしておいた」


 雪乃のお手製弁当を食べながら、今後の対策を話し合う。


「それ以前の、男子生徒のけが人と状態異常が、後を絶たない件なのですが」

「何かわかったのか?」

「どうも、超長距離で魔弾を射出しているのでは? と思う節がありまして」

「どうしてそんな事がわかる?」

「保健室に来た男子生徒に、異常を感じた時間と場所を地図にマークさせたんですの」


 雪乃は太刀川高校とその周辺が入った地図に、マークが入ったものを広げた。


「いずれも校舎東側の、ある方向で発生しているのです」

「この先って……え? 聖オサリバン、じゃないか!?」


 地図を見る限り、それで間違いは無さそうだ。


「でも距離があり過ぎるだろ? 2、3kmは離れてるぜ?」

「あそこには鐘を鳴らす塔がありましたわよね? 魔弾なら狙えない距離では無いかと」

「しかし、何でそんな事をしてんだ?」

「本当に『害虫駆除』だったりして?」


 薫は考えるときの、顎に手をやる仕草をしている。女子がやると違和感が残る。


「放課後に仮説を実証する。忍、囮になれ。リナ、『鷹の目』を使って射出先を見極めろ。」


「「了解」」



              ◆ ◆ ◆ ◆



3-B教室 15:10時――


 放課後、忍は穂香をあるスポットに連れ出した。


「穂香クン、ちょっとイイかな?」

「なぁに? 忍クン?」

「花の名前、教えて欲しいんだ」

「え? イイけど」

「じゃあ、花壇に行こう」クイ


 忍はさりげなく穂香の手を取り、花壇に連れて行く。その途中では、


「やるな黒田、隅に置けねえぜ!」

「憎いよこのぉ! もっとくっ付け!」

「悔しいけど、お似合いよねぇ?」


 などと言われる始末。


「し、忍クン、ちょっと恥ずかしいよ」

「この位しないと、出て来ないんだ」

「え? 誰が?」


 穂香が不思議な顔をして、首をひねった。


「穂香クン、ゴメン」ファサ


 花壇に着くなり、忍は穂香を軽く抱いた。


「ふぇ? えぇぇ~!?」カァァ


 穂香の顔がみるみる赤くなっていく。


「もう少し、このままでいて」

「ふぁうぅぅ」



              ◆ ◆ ◆ ◆




 その少し前、穂香たちとは少し離れた、花壇を見通せる位置に薫たちはいた。

 薫はポケットに入っていた、以前雪乃に買ってもらった風船ガムを噛んでいた。


「よし、連れ出し成功っと。リナ、準備はイイか?」

「いつでもオーケーだ。あの塔辺りをみてりゃあイイんだろ?」

「そのうち、奴さんが出て来るって寸法よ。おっと、始まるぜ?」




              ◆ ◆ ◆ ◆



「もう少し、このままでいて」

「ふぁうぅぅ」


 忍にハグされ、目を回している穂香。忍は感覚を研ぎ澄ませる。



「ふっ!」パキィィン!



 忍は右手に障壁を張り、飛来物を弾いた。 



「協力ありがとう。穂香クン」

「え? 何? 何なの?」

 

 穂香の頭上に?マークが3個回っている。




              ◆ ◆ ◆ ◆



「【鷹の目】!」パァ


 リナが鷹の目を使った。


「いた! アネキ! 塔にいるぞ!」

「よし! 行け!」ピシッ


 薫はリナの合図で噛んでいたガムを親指で弾いた。この時の瞬間レベルは3であった。



  ビシッ!



「クッ!」


 狙撃手の視界がピンク色に染まる。狙撃手がライフルのスコープに貼り付いたガムを取ると、中から小さく巻かれた紙が出て来た。



 『甘味処 ロプロス 16:30時』


 と書いてあった。


「……チッ」


 狙撃手は舌打ちした。

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