Ⅳ-③

「イイですね。青春ですね」

「おい、居座るつもり、か?」

「大丈夫だよリナちゃん、いろんな意見が聞きたいし」


 穂香の相談は、想定外の左京を交えてやる事となった。


「おまたせ。じゃあ話して?」



「うん。私、巫女になるの、イヤだなぁ、って思うの」



 穂香の発言に、一同は戸惑った。


「え? 光栄な事じゃないですか?」

「大人には、わからねえだろうよ。穂香の気持ちは」

「リナさんにはわかるんで?」

「もし、正式に巫女になっちまったら、いろんな事を我慢しなきゃならねえんだ」

「確かにそうでしょう。ですが、代わりに社会的地位が約束されますから、不自由は無いのでは?」


 左京の言い分にリナが穂香の代弁をしている形となった。


「ありがとうリナちゃん。半分正解、かな?」

「どういう事だよ、穂香?」

「確かに、リナちゃんが言う、不自由な事も悩みの一部だけど、それだけじゃないの」


「どんな事なの? 穂香ちゃん」


 薫は穂香に聞いた。



「『黄昏の巫女』になる時、シズルカ様に私の身体の一部を捧げる事になってるの」



 一同は絶句した。台所にいる雪乃も、料理している手が止まった。

 暫しの沈黙の後、リナが口を開いた。



「一部って、片目、とか?」

「そんな、中二病みたいな事があってイイわけ?」


 リナと薫が言い合っている。


「そんなので済むなら、私は構わない」

「そんなのって、穂香ちゃん?」

「体の一部なら、あげてもイイと思うけど、もし、『心』だったら?」

「それって、女神様に意識を乗っ取られる、という事?」

「うん。私が私でなくなっちゃうんじゃないかって思ったの」


 あまりに飛躍している話に、一同は再び絶句した。すると左京が、


「『憑依』と言いますか、一時的にお身体をお貸しする事はあると考えますが」

「イタコみたいなやつね。イメージ的にはそう言う感じよね? 巫女さんって」

「ううん、夢で見たの。私がシズルカ様に、飲み込まれてしまう夢」



 うーん、とリナ、薫、左京が腕を組み、首を傾げていると、



「伯母さんに相談したら?」

「母さんか。その手があったわね」

「薫、アノ学院に行かなくても、音楽室の小さいのでも出来るんじゃない? 通信」


 忍と薫がそう話していると、


「通信? って何?」


 穂香が不思議な顔をして、薫に聞いて来た。


「あ、それはね穂香ちゃん、モモさんは今、携帯の電波も入らないようなずっと遠い所にいて、念話で話す際にシズルカ像を触媒にしているのよ?」


 雪乃はあわてて説明を始めた。


「そうなんだ。スゴいね。念話なんて出来るのもスゴいけど、出来ても普通10mくらいしか届かないのに」

「女神様の加護、かしらね」


「とにかく、明日母さんに聞いてみるわ。何かわかるかも」

「ありがとう。薫ちゃん」


 巫女の儀式等について、明日モモに調査させる事にした薫。


「みんな、夕ご飯にしましょう!」


 雪乃は夕食の配膳を始めた。


「さあ、おあがりなさい」


「「「「「頂きまーす」」」」」


「雪乃先生、このハンバーグ、とっても美味しいです」

「そう言ってくれると、嬉しいわね。作り甲斐があるわ」


「確かに料理だけは上手いよな、雪乃は」

「料理だけ、とは聞き捨てなりませんね? リナさん?」

「うるさい、黙って」


 いつもの掛け合いが始まった。すると穂香は、


「クスッ。仲イイね。みんな」


 と言って微笑んだ。



              ◆ ◆ ◆ ◆




 穂香を最寄りのバス停まで送る薫。


「夕御飯、美味しかったよ。ご馳走様」

「調べ物は私たちがやるから、穂香ちゃんはいつも通りにしててね?」

「うん。わかったよ」

「特にミミ叔母さんには、気取られないようにね?」

「うん。ありがとう」


 バスが来て、乗り込む穂香。


「じゃあね。また明日。おやすみなさい。薫ちゃん」

「おやすみなさい、穂香ちゃん」


 穂香が乗ったバスを見送り、雪乃の部屋に帰る。


「お疲れ様でした、薫様。いきなり穂香様がいらした時は少しビビりましたが」

「左京さん、どう思います? 穂香の言ってる事」

「あながち、間違いではない、かもしれませんね」

「女神様は、下界に降りて直接何かをしようとしているんでしょうか?」

「さぁ? 神が直々にまつりごとを行うような事は、あってはならない事ですからねぇ」


 薫がちゃぶ台に座ると、雪乃はお茶を淹れて薫の前に置く。


「そこまで下界に興味がおありなのかしら?」

「シズルカ様は、神としては生まれたばかりの赤子同然ですから」

「少々、おイタが過ぎるのではありません事?」

「もしそれが本当だとしたら、他の神々が許さないでしょう」

「左京さん、通報って出来ますの?」

「そうですね、機関には匿名でタレコミを入れて置きましょう」

「ガセの場合もあるしな」

「はい。取越し苦労で済めばイイのですが……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



「そうだ雪乃、お前、武器召喚しとけ」

「武器召喚、ですの?」

「そうだ。ココの世界線ならではの魔法だ。やっておくに越したことは無いぞ?」

「みんなは授業で?」


「ああ。こんな感じ。来い、『震電』」ブン!

「日本刀? 瞬時に出せるの?」

「慣れれば、念じるだけで呼び出せるらしいぞ?」


「見てくれよ雪乃、アタイの装備 来い! 『カイザーナックル』!」ガシィン

「来い、『夢幻苦無』」シュパ

「リナ、中二病みたいなネーミング、やめたら?」

「ほっとけ! 無名の場合は主人が付けてイイんだからよ」


 みんながそれぞれ武器を召喚したのを見て、雪乃も挑戦してみる事となった。


「まあ、楽に構えるこったな。どうせろくなもん呼べないだろうから」 

「何ですって? 私だって、『伝説の名刀』出しますわよ!」


 リナに茶化された雪乃は、苦心して調整したレベル1.8に引き上げ、召喚を始める。


「行きます!【サモン・アーマメント】!」バチバチィ


 雪乃の前に出現したものは、子供用のバット位の大きさで、ゴテゴテの装飾のてっぺんに赤い宝石が埋め込まれているものであった。


「何ですか? コレ。魔法の杖? 見た目より軽いですわね」


 雪乃はソレをブンブンと振り回す。 


「ああ、ソレは『メイス』と呼ばれる、いわゆる棍棒こんぼうですよ」

「棍棒? 打撃系武器ですか?」


 左京の説明を受けたが、今一つ理解していない雪乃。


「プッ。お似合いだよ雪乃。『撲殺天使ユキノちゃん』だなこりゃ」

「お黙り! でも、私には野蛮過ぎますわ」

「それほど悪くはない武器ですよ? 試しにそこの漬物石、殴ってみて下さいよ」

「こうですの? えいっ!」コン。バキャ


 雪乃はあまり力を入れてない状態に見えたが、石は真っ二つに割れた。


「まぁ! 非力な私でも、これなら出来そうね? 戦闘」

「おい、スゴい破壊力じゃねえか? アタイもそれがイイな」

「ダメです。リナは自分のを可愛がりなさい!」

「ちぇ、ケチンボ。で?名前何て付けるんだ?」

「内緒、ですわ」


 その後、反省会をやり、ミッション三日目が終わった。

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