Ⅳ-②

3-B教室 放課後 15:50時――


 ついでに音楽室で夕の祈りを終え、3-B教室に戻って来た薫と穂香。

 そこにはリナと忍がいた。


「アネキ、どぉよ、アタイの武器!」

「さっきからずっとこんな感じ」


 リナはガントレットを両手にはめ、素振りをしている。

 忍は机に突っ伏して眠そうにしている。


「ちょっとリナ、ここで具現化しちゃダメでしょ?」

「イイじゃんよ、ちょこっとぐらい」


 はしゃいでいるリナをいさめる薫。


「リナちゃん、嬉しそうね。フフ」

「そりゃあ嬉しいよ。アタイの相棒なんだから。穂香だって、初めて出た時はそうだったろ?」

「私の時は、びっくりした、かな。無詠唱だったし」

「無詠唱? そんな事あるのか?」 

「ね、変でしょ? フフフ」


 穂香は寂しそうに笑った。そのあと顔を上げ、強めな口調で言った。

 

「ねえ、みんなに相談があるんだけど、このあとイイかな?」

「穂香が相談事? アタイらに?」

「うん。ダメ? かな?」


 穂香はモジモジして上目遣いで薫を見た。薫はリナ、忍の順に目を合わせ、


「話を聞くくらいなら喜んで。力になれるかは、内容次第だけど」

「ありがとう、薫ちゃん!」


 穂香は薫の両手を握り、上下にブンブンと振った。


「で、どこに行こうか?」

「私の、とっておきの所」ニコ




              ◆ ◆ ◆ ◆




JR太刀川駅周辺 甘味処「ロプロス」 16:30時――


 穂香が「とっておきの所」として案内してくれたのは、スイーツがウリの喫茶店だった。


「中等部の頃、友達と内緒でよく来たんだ」

「ウチの制服の子もいるわね」


 店内を見渡すと、他校の生徒に混じり、同じ制服を着た女子たちもチラホラ見えた。


「あちらの方、スゴいオーラね?」

「桃髪の乙女が二人、ああ、素敵」

「ねえ? あそこの男子、結構イケてるわよね?」

「女の子3人も囲んで、ジゴロなのかしら?」


 入って来た薫たちを、先客たちが勝手に言いたい事を言っている。


「どこに座る? 薫ちゃん」

「じゃあ、そこでイイんじゃない?」


 薫はあまり目立たない壁際の隅っこを選んだ。

 薫たちが通り過ぎるのを、先ほどの先客が目で追っていると、


「んん!?」ギロ


 小声できゃいきゃい言っている先客のテーブルに、リナがガンを飛ばす。


「ひいっ!」


 一瞬で周りの空気が凍り付き、数十秒後、元に戻った。

 席に着いた薫たちは、メニューを見て、何を注文するか迷っていた。すると、店に客が入って来た。カラン


「雪乃先生、コッチです!」

「ふう。何とか間に合いましたのね?」

「雪乃先生も呼んだの? 穂香ちゃん?」

「うん。大人の人の意見も聞きたかったから」


「好きなもの頼んで。ココは私がオゴるから」

「穂香ちゃん、イイの? 予算大丈夫?」

「うん。この前、お小遣いもらったばっかりだから」


 穂香は、抹茶白玉ぜんざいのセットを、

 薫は、たい焼きとオリジナルブレンドを、

 リナは抹茶クリームあんみつのセットを、

 雪乃はガトーショコラとキャラメルマキアートを、

 そして忍は、スペシャルパフェ「タワー・オブ・バビル」を頼んだ。


「ちょっと忍、それ結構高いんじゃないの?」

「問題無い」

「穂香ちゃん、やっぱ割り勘にしよっか?」

「そ、そうしてもらおう……かな?」


 薫は忍の自由奔放さに、呆れるばかりであった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




「明らかに『恋バナ』じゃない、とは思うんだけど、どんな相談なの?」

 

 注文したものが前に置かれ、手を付けながら薫は切り出した。


「う、うん。実はね、私……」


 穂香が話し始めようとしたその時、


「お待たせ致しました! スペシャルパフェ『タワー・オブ・バビル』でございます!」


 店員が二人がかりで、恐る恐る持って来て忍の前に置いた物は、高さ80cmはあるかと言う超大作であった。

 特大のブランデーグラスを土台に、ディップしたアイスがこれでもかと並び、絵画で有名な『アノの塔』をウェハースで模した作りになっている。

 忍は親指を立て、店員をねぎらった。


「おお。待ってたぜ」ビシ

「尚、15分で完食されますと、お代はタダとさせて頂きます!」


 周りがまたざわつき始めた。


「さっきのイケメンクン、アレに挑戦するみたいよ?」ざわ……

「まだ完食された方は、いらしゃらないらしいわよ?」ざわ……


「忍、お前ぇ、何頼んでんだよ!?」

「俺に構わず、相談続けて」

「こんな雰囲気で、相談もヘチマもあるかい!」


 リナと忍の会話に、雪乃はたまらずツッコミを入れた。




              ◆ ◆ ◆ ◆




「おめでとうございます! 見事、完食です!」パチパチパチ


 忍は期待を裏切らずに、15分以内の所を10分で平らげた。


「甘いものは別腹。全然余裕」グッ


 口の周りをチョコでくわんくわんにしながら、親指を立てる忍。


「きゃあ、スイーツ男子よ♡」ざわ……

「あれであの体形を維持出来てるなんて、羨ましいわぁ」ざわ……


 周りから喝采を浴びる忍。


「おい、場所変えた方がイイんじゃねえの?」

「そうね。目立ち過ぎるわ」


 リナと雪乃は場所変えを提案した。


「じゃあ、やっぱりココは私が払うよ。誘ったの私だし」


 穂香が財布を出すと、雪乃はそれを遮った。


「イイのよ。こういう時は 大人に頼りなさい」

「ありがとう、ございます」


「ウチに来なさいな。何も無いけどね」


 雪乃は穂香をセーフハウスに連れて行くつもりだ。




              ◆ ◆ ◆ ◆




ペパロニ・フォーレン荘 202号室 18:30時――


 駅からバスを使い、薫たちは穂香を連れ、自分たちのセーフハウスに着いた。


「へぇ。ココがみんなが住んでるアパートなんだ」

「そう。雪乃先生は、私たちの『お母さん』みたいなものなのよ?」

「ちょっと薫ちゃん? 『お母さん』は言い過ぎじゃない? せめて『お姉さん』にして頂戴な」

「フフフ。いいなぁ、楽しそうで」


 穂香は少し寂しそうに笑った。

 雪乃の住む202号室に入り、ちゃぶ台にお茶が並ぶ。


「穂香さん、ついでにお夕飯食べて行きなさいよ」

「え? じゃあ、お言葉に甘えちゃおう、かな」

「お母様には、私が連絡しておきます」

「ありがとうございます」


 夕食の支度で台所に立っている雪乃以外で穂香の話を聞く。


「バタバタしちゃってごめんね。で、相談って何かな?」

「うん。実は、ね」


 穂香が再び話始めた所で、外階段を上がって来る音が近づいて来た。コンコン カチャ


「お疲れ様です! 皆さん」


 左京が夕食を食べに来た。


「おや? お客様……これはこれは」

「おい、左京! これはだな」


 しまった、と言わんばかりにリナは言い訳を並べようとしたが、


「お構いなく。管理人の片山左京です♪」

「お邪魔してます。五十嵐穂香、です」

「と言うわけだ。空気読めよ?」

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